夢の中で楽器を弾くという場合、様々な
状況が考えられるでしょう。
楽器など触ったこともないという人が、
プロのように完璧にそれを弾きこなす
こともあれば、実際に弾ける人が
ステージの上で全く弾けなくなり、
焦っているといった設定もあります。
また、演奏される曲によっても夢の意味
が違ってくるかもしれません。
音楽とは感覚に訴えかけるものですから、
感覚によって構築される夢の世界では
相性の良い演出です。場面に挿入される
効果的なBGMとして利用されることも
よくある。
音楽に関する夢において重要なのは、
フィーリング、そして、リアルとの接点
です。
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微妙な違和感
次は、とある女性が見た夢の一例。
午後のひと時、バルコニーで
アコースティックギターを弾いている。
” 実際にギターを弾かれるのですか? ”
筆者が訪ねると、女性は次のように
答えました。
” はい。趣味程度ですが・・ ”
” あなたが持っているギターですよね?
夢で演奏されていたものは ”
” ええ、そうだと思うんですが・・ ”
” 何か気になる点が? ”
” いつものギターではあるんですけど、
弾いている時に妙な感覚が・・ ”
彼女の話によると、ギターは自分が所有
しているものではあるが、新しく買った
ばかりのギターを弾いているような
ぎこちなさを感じたと言います。
” しっくりこないと言いますか・・ ”
” それは、他人のギターを触っている
ような感じなんでしょうか? ”
” ああ、そうかもしれません ”
*
” 演奏されていた場所は、バルコニー
ということになっていますが、それは
ご自宅のバルコニーですか? ”
” ああ、そこも変なんです。自宅に
バルコニーもベランダもありません。
いつもは防音した特別な部屋で弾くので ”
” ならば、夢に登場したのは架空の家? ”
” いや、場所は自宅なんですが、
なぜかバルコニーがあるという設定に
なってました ”
” ところで
何を演奏されていたんですか? ”
” クラシック曲です。
パッヘルベルのカノンという・・ ”
” ああ、曲は知っています。
クラシックを中心に弾かれるのですか? ”
” まあ、そうですね。本当は、
クラシックギターで弾いた方がよいと
思うんですが・・”
” それは、アコースティックギターとは
違うのでしょうか? ”
” はい。そもそも弦が違いますし、
クラシックギターは柔らかい音が出るんです ”
” 買う予定は? ”
” いずれはと思っているんですが、
練習をアコギで始めてしまったもので、
途中から切り替えるのが大変かなと
思いまして ”
” アコースティックギターは
買われたんですね?”
” いや、実は父から譲り受けたもので
結構、高いギターで、私が弾くと父が
喜ぶので ”
” ああ、お父様もギターを?”
” ええ、防音室も父が作りましたし、
本格的なギターオタクです ”
” あなたは、お父様の影響で
アコースティックギターを始めたんですね ”
” ええ、父はカントリーとかブルースを
好んで弾いています ”
ここまでの話をまとめると、夢の中で
彼女は外の景色が見える架空のバルコニー
で自分のものでありながら、どこか違和感
を持ってしまう父から譲り受けたギターを
弾いていたということになります。
一見すると、単にバルコニーでギターを
弾いているというシンプルな構成の夢
ですが、様々な点で疑問を残す余地がある。
一体、この夢は何を意味しているの
でしょう?
父と娘
” お父様はカントリーやブルースを
好まれているということですが、
あなたは、なぜ、クラシックに興味を
持たれたのですか? ”
” 子供の頃から散々聴かされていたので、
自分は違うことをしたいと思いまして、
それで元々クラシックが好きだった
というのもあって・・ ”
” 全く別の楽器、もしくは音楽以外の
趣味を持つということは考えたり
しましたか? ”
” ええ、考えました。でも・・父に
教わったギターの技術を捨ててしまう
というのも何だか勿体ない気がして・・ ”
*
では、夢の内容について振り返って
みましょう。
夢の中で、彼女はアコースティックギター
を弾いている。演奏曲は、今、練習中の
パッヘルベルのカノンです。
しかし、自分のものであるはずなのに
どことなくしっくりと来ない違和感を
ギターに感じている。
この夢におけるギターは
” 父親の価値観 ” の象徴です。
彼女にとってギターは父の趣味であり、
自分が見つけた趣味ではない。しかし、
父を思う娘が家族を傷つけまいと
その価値観を自分のものとして受け入れ
ようとしています。
元々、音楽が好きだった彼女は、若干の
違和感を残しながらも、
” 父に譲り受けた価値観 ” を抱え、自分の
選んだ好きな曲を演奏する。父の威厳に
配慮しながら、自分の本当の気持ちを
旋律に乗せて主張しています。
” 私にだって好きなことはある ”
自分のものでありながら、そうではない
というギターに感じた違和感は、自分の
価値観と父の価値観は似ているが全く
同じではないという彼女の中の微妙な
” ズレ ” によって生まれたのです。
*
では、バルコニーについてはどうでしょう?
存在しないはずのバルコニーが自宅に
設置されていて、彼女はそこで演奏を
している。
防音室の中ではなく。
これは、彼女の魂の主張です。音が漏れ
ない防音室でそれを叫んでも外の世界には
届かない。そこは解放された空間でなけれ
ばならなかった。
しかし、なぜ、リビングではなく、
架空のバルコニーなのでしょう?
声を届けたいのであれば、リビングで
十分ではないでしょうか。
” ところでバルコニーは、
家のどの部分についてましたか? ”
” 二階にある私の部屋の窓の外に
ありました ”
彼女いわく、バルコニーは自室を
拡張した形で設置され、夢の中では、
そこは自分以外は誰も立ち入らない場所
という認識だった。
” 以前からあったという認識でしたか?
もしくは、作られたばかり? ”
” そうですね。最近、
出来たばかりという認識だったかな・・ ”
バルコニーは彼女の中に生まれた
” 自意識 ” の象徴です。それは、自室から
拡張された彼女だけが使う新しい領域。
この場合、” 家 ” は、父の築いたものを
表しています。” バルコニー ” は
そこからはみ出した形で設置されている。
彼女が自らの意思で増築した部分です。
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父から受け継いだもの
” お父様は、どんな方ですか? ”
” 父はいつも明るくて冗談を言っては
笑っています。母に楽観的過ぎると
怒られることもありますが ”
” お母様は? ”
” 母は、父とは対照的で現実主義と
言いますか、でも、対照的だったから
父に惹かれたんだと思います ”
” あなたがクラシックに関心を持っている
ことについて、お父様は
どう思われているのでしょう? ”
” ・・何も言いません。
ただ、ニッコリ微笑んで見守っている
という感じで、私が音楽に興味を持った
ことだけで満足しているみたいです。
父には、お前が好きな事をやれ、と
言われたことがあります。多分・・
私は父のような生き方に憧れているの
かもしれません ”
音楽の趣味が違っていたとしても、
彼女は父から音楽以上に大切なことを
受け継いだ。それがアコースティック
ギターでクラシック曲を演奏する今の
彼女の心境なのです。
もしかすると、潜在意識が本当に
描きたかったのは、父から受け継いだ
人生観そのもの・・
だったのかもしれません。
*
今回は、夢にまつわる親子のエピソード
を紹介しましたが、そこには楽器を通して
ギタリストの父と娘の深い繋がりが
描かれていた。
もし、楽器を演奏する夢を見たとして、
あなたに楽器に触れる機会が無かった
としたら、音楽経験が無かったとしたら、
どう解釈していけばよいのでしょう?
まずは、楽器を演奏したことが無い人
であっても、演奏者を見たことぐらいは
あるでしょう。また、日常でも音楽を
耳にすることぐらいはあります。
夢の中でBGMが流れてくるといった
音楽に関する夢は、別の記事で解説する
として、ここでは楽器の演奏について、
少し考えてみましょう。
例えば、触ったこともない楽器を夢の中で
演奏しているという場合、それは
” 触ったことがない ” わけですから、
何かを初体験している状況を象徴的に
表現していると解釈することも可能です。
具体的には、初めての恋人に戸惑い、
接し方が分からない人が、触ったことも
無い楽器を弾こうとして、四苦八苦して
いる夢を見るといったことはあります。
相手が人間なら、ちょっとでもミスを
すれば機嫌を損ねられて二度とデートを
してくれないかもしれない。しかし、
それが楽器なら下手な演奏をしたところで
そこまで深刻な問題にはならない。
要するに、潜在意識は恋人を楽器に置き
換えることでリスクを軽減しようとして
いるのです。
仮に、夢の中で楽器を完璧に弾きこなせ
ていたら、それはコミュニケーションが
円滑であるという意味で、次回のデート
は成功するという暗示なのでしょうか?
それは分かりません。そもそも何も問題
なく円滑に事が進むなら、いちいち恋人を
楽器に置き換える必要がありませんし、
もっと言えば、夢にする必要すらない。
つまり、それが夢になっているという
ことは・・そこには何らかの処理すべき
感情があるのです。
もしかしたら、幸運が続いた高揚感から、
” これぐらいのことは出来るはずだ ”
という過剰な自信の表れなのかもしれない。
だとすれば、次に会う時は少し控えめな
態度で接するべきかもしれません。
もしくは、失敗を取り返すための単なる
パフォーマンスなのかも。
” 本当は、これぐらい出来たのに! ”
別に、楽器を演奏することが、必ずしも
恋愛に関する夢とは限りません。仕事や
人間関係に関することが夢になっている
という可能性もあります。
いずれにせよ、夢の中で演奏されていた
楽器が、自分にとってどういった存在
なのかを整理しておく必要があります。
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