人は、日々夢を見ます。そして、夢には様々な種類がある。
リアルな夢や悪夢、未来の出来事を暗示する夢、一見、雑夢として扱われがちな願望夢など。
特に願望夢は、ありきたりな夢として描かれることが多く、悪夢やリアルな夢、神秘的な夢に比べて、あまり、関心を持たれない。
やはり、リアルな夢や神秘的な夢だけが特別なメッセージを伝えるものであって、願望夢は、結局、” 単なる夢 ” に過ぎないのでしょうか?
もしくは、願望夢にも、何か特別なメッセージが隠されていることがあるのでしょうか?
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現実と夢のギャップ
さて、その夢が特別か、特別ではないか、どう見分けるのでしょう?
リアルだから、特別? それとも、登場人物の背中に後光が差していたから、特別なのでしょうか?
まず、前提として、夢は見た目のインパクトと伝えるメッセージの重要度は、ほぼ無関係です。
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例えば、失恋した十代の若者が、人類滅亡の日を夢に見ることもあれば、大きな災害の予兆が、何気に飛んでいる一匹の蝶の夢になることもある。
なぜ、実際の出来事と描かれる夢にギャップがあるかと言えば、夢は常にその人の ” 主観 ” を描くという性質があるからです。
それが現在の出来事に対するものであれ、未来の出来事に対するものであれ、主観以外のものが描かれることはない。
仮に、夢の中で背中に立派な翼をつけた人物があなたの前に降り立ちメッセージを伝えたとします。信仰心の深い人なら、それを天使の啓示だと言うでしょう。
しかし、それは特別な存在そのものが、夢に登場したわけではなく、その人が感じた特別な ” 何か ” が、本人の主観によって擬人化されたものだと筆者は考えます。
形無きものに、形を与える。
つまり、その人がカトリック信者ならば、それは、イエス・キリストとして描かれるでしょうし、仏教を信仰しているなら、お釈迦様として描くでしょう。
つまり、全ては個人的な ” イメージ ”
と言っても、” 特別な何か ” それ自体を否定しているわけではありません。あくまで、それに接した時、人は何をイメージするかという話です。
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ゆえに、大人から見れば、何てことのない若者の失恋が、本人にとっては人類滅亡の日に等しい最悪の状況として描かれるわけです。
好きな人に冷たくされただけでも、若者にとっては高層ビルの屋上から突き落とされるほどの衝撃ならば、潜在意識は高層ビルの屋上を舞台として用意してくれるでしょう。
出来事が起こる数日前に。
実際の出来事と夢の間に起こるギャップは、現実世界とそれを捉える主観によるギャップそのものなのです。
夢の中の理想郷
次は、とある男性が見た夢の一例です。
港を出た船が波に煽られながら漂流している。
地図に無い島に流れ着く。
その後、島の原住民が歓迎の宴を催してくれる。
この夢を見た男性は、会社を辞め、自営業を始めたという経緯がありました。
男性は、この夢を自分の始めた新事業の明るい未来を予知しているのではないかと解釈します。
この夢における ” 船 ” は、彼の始めた事業。
その船が波に煽られて、コントロールを失い漂流しています。つまり、方向性を見失い、流れに任せた状態になっていることを表している。
そして、地図に無い島に流れ着く。これは、彼の楽観的側面が作り出した ” 理想郷 ” です。
仮に、事業の成功を暗示しているというのであれば、彼にとっては勝負の時です。楽し気な宴で酒を飲んでいる場合ではありません。
すでに成功しているというのであれば、そういった心理もあり得ますが、まだ始まったばかりの段階です。
察するに、先の見えない状況の中、彼の漠然とした理想を描いたということでしょう。つまり、この夢は、未来予知ではなく願望夢です。
筆者の解釈を聞き終えた彼は、ため息をついて言いました。
「やっぱり、そうですよね・・そんな簡単に成功できるわけないですね」
「何か思い当たることでも?」
「ええ、既に方向性が分からなくなってます。実際に当てにしてた資金調達が上手くいかなくて・・」
「それは、大変ですね」
「上手くいってほしいという思いが強すぎて、都合よく解釈してしまったようです。勝手な空回りですね」
「あまり、悲観的にならないでください。この夢はある意味、未来を示唆してもいますから」
「どういうことですか?」
潜在意識が見ている先に
この夢は、いわゆる一般的な願望夢ですが、少し見方を変えてみましょう。
彼は、なぜ、夢の中で理想郷を思い描くことが出来たのか?
潜在意識は、私たちよりも少し先の未来を見ている。例え、それが空回りの期待感であったとしても、夢の中でそれが持てるということは、将来に向けて困難が待ち受けている兆候は、今のところ見つかっていないと考えることも出来ます。
もし、困難が待ち受けているならば、船は嵐に巻き込まれていたでしょう。その ” 嵐 ” は彼の挑戦を打ち砕く障害です。
そして、その障害を越えるには、行動が必要であり、ただ待っているだけでは何も起こらない。だから、潜在意識は障害を ” 嵐 ” に置き換えるのです。
それが嵐ならば、耐え忍んで過ぎ去るのを待っていればいい。しかし、この夢には障害らしきものは登場しません。
つまり、現在の彼に必要なのは明確な方向性であり、そのための基盤固めです。成功までの道のりが遠ければ、それだけ準備をするゆとりがある。
もし、積み上げた経験もない状態で、突然、成功が空から降ってきたら、どうなるかは目に見えています。それは、彼にとって ” 嵐 ” のごとく試練の時になるでしょう。
彼は、最後に言いました。
「ちょっと考えたんですが・・」
「何を?」
「自分の実力も考えず、大きな夢ばかり見ていたのかもしれません。事業規模を縮小しようかと・・」
「縮小・・ですか」
「それだったら、少ない資金で何とかやっていけるんじゃないかな・・・ああ・・何となく、すべきことが見えてきた気がします」
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願望夢とは、現在の心境が夢として描かれるものです。
ただ、それは、潜在意識の注意が現在に向いているということ。つまり、潜在意識は、未来よりも現在に取り組むべき課題があることを知っている。
そして、今のところ、未来にエネルギーを注ぐ必要性を感じていないということです。
もし、願望夢ばかりが夢になるというなら、潜在意識がこう言っているのです。
” 今が最も大切な時だ。未来じゃなくて ”
あなたの見た夢がありきたりの夢だったとしても、全く何の意味も無いというわけではありません。
むしろ日常的に高い頻度で見るものですから、自分のメンタルの状態を継続的に観察するには最適な指標なのです。
たった一度の神の啓示よりも、一ヵ月間、日常的な夢を日記に記録する方がよほど有益でしょう。
願望夢とは、日常の中で生まれた ” 単なる夢 ” それゆえに、私たちにとって最も身近で切実なメッセージを伝える。
あなたにとって重要なのはどちらですか?
不確かな遠くの声か、もしくは、手を伸ばせばつかむことが出来る小さな声か。
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