家族や恋人など、大切な人が夢の中で
瀕死の重症を負ったり、または、
死に至るといった場合。
もし、そういったことが現実で起こる
とすれば、その日は人生最悪の日になる
でしょう。
夢とは自らの意思で作るものですから、
基本、大切な人に大怪我を負わせたり、
死なせたりするといった悲劇的設定にする
はずは無いのです。
しかし、そういった夢は実際にある。
そういった夢を見たとき、
” 深層心理では、あなたはその人の不幸を
願っている ”
などという軽はずみな分析を真に受ける
べきではありません。
潜在意識は、それほど単純ではないのです。
広告
設定の中の矛盾
次は、とある女性が見た夢の一例です。
建物に入っていくと、
喪服を着た親戚たちに会う。
誰の葬式か尋ねるが、
誰も目を背けて答えてくれない。
父がいないことに気づき、
居場所を尋ねると親戚の一人が
” もう会えない ” と答える。
彼女は親戚の一言で、これは父の葬式
だと悟り、頭が真っ白になったそうです。
そして、その衝撃から目を覚ました。
そのリアルな設定から、彼女は、これが
何か悪い出来事が起こる予兆ではないかと、
怖くなってしまったと言います。
彼女の潜在意識は、一体、なぜ、
このような夢を作ったのでしょう?
*
まず、筆者は、彼女に父親について
尋ねました。
” あなたにとってお父さんは
どういった存在ですか? ”
父親は躾に厳しく、子供の頃から、
よく叱られていたと言います。
コミュニケーションを取りづらく、
父と娘の間に理解しあうことが出来ない
溝のようなものがあると。
彼女にとって父は ” 理想の父親像 ” とは
程遠い存在だったのです。
*
このエピソードだけを聞くと、
彼女の深層心理に、父に居なくなってほしい
という願望があるという解釈も可能です。
そして、夢の内容も、一見すると辻褄が
合っているように見える。
ただ、現在、彼女は家族とは住んでおらず、
一人暮らしをしているということでした。
ある意味、父は、自分の生活圏内からは、
” 居なくなっている ” わけです。
すでに成就された願望を再度、夢で実現
する必要があるのか? という部分が
筆者に疑問を抱かせたのです。
そして、何より彼女自身が、この夢に
ショックを受けていることからも、いくら
理想の父親でなくとも、大切な家族を失う
というのは耐え難い痛みには違いない
ということが伺えます。
もう一つの疑問点
筆者が、変だと感じたもう一つの点は、
夢の中の設定では、彼女は、これが
父の葬儀だということを親戚から
聞かされ、初めて知るという部分です。
普通ならば、家族である彼女に、
葬儀を行うよりも前に訃報が届くはず。
夢の中で彼女は、全く誰の葬儀かも
分からないまま建物に入っていった。
その建物は見知らぬ場所で実家では
なかった。
*
無論、この夢を作ったのは彼女自身
ですから、本当は誰の葬儀なのかを
知っていますし、そもそも彼女が、
葬儀というシチュエーションを選択
しているわけです。
それなのに彼女は、親戚に誰の葬儀なのか
を尋ねている。
彼女は自ら、自分だけが何も知らない
という状況を作り出そうとしているのです。
遠い親戚よりも遅れて訃報を受け取り、
それも、はっきりとした形ではなく、
親戚は彼女の問いかけに ” 仲間外れ ” を
しているかのように目を逸らす。
よく知っている実家ではなく、
来たこともない見知らぬ場所で、
彼女抜きで行われようとしていた葬儀。
*
夢の中で彼女は、次のように思った。
” なぜ、私だけが知らないの?
なぜ、誰も教えてくれなかったの? ”
彼女は、自分が最も辛いシチュエーションを
あえて採用しているのです。
そして、彼女にとっては、その憤りを
ぶつける相手である父が ” もう会えない人 ”
になっている。
まるで、自分自身をいじめるかのような
数々の設定。
一体、彼女の潜在意識は
何を伝えようとしているのでしょう?
広告
罪と罰
彼女と父の間にある見えない溝。
筆者は、彼女に尋ねます。
” 溝の原因は何だと思われますか? ”
彼女は、父が子供の頃の自分に行った厳しい
躾が原因ではないと答えます。
それは、一つのきっかけかもしれないが、
溝の本当の原因は自分にあると、彼女は
重い口を開きました。
*
彼女は、お盆など実家に帰郷することが
ある時は父が不在のときに訪れ、
帰ってくる前に家を出るといった、
なるべく父と顔を合わせないよう避けている
ということでした。
社会人になり、実家を出てから、
特に理由もなく、ずっとそんな調子で父を
避け続けていたのです。
ただ、彼女は心の中で、自分の冷たい態度が
父をどれぐらい傷つけているのか、それを
思うと胸が痛むと言います。
それだけが、ずっと引っかかていると。
この夢は、彼女の父に対する罪悪感が
描かれているのです。
謝罪の意を表すことも出来ないまま、
長い時間が過ぎ去り、後戻りすることも
出来なくなってしまった。心の中に鬱積した
それが彼女を苦しめ続ける。
そこで、潜在意識は、
彼女に ” 最も重い罰 ” を与えたのです。
” 大切な人の死 ” と言う。
*
彼女から、
” ごめんなさい ” と言う機会を奪い、
勝手にいなくなってしまった父に憤りを
ぶつける機会を奪い、
父から娘を責める機会を奪い、
彼女だけを一人置き去りにして。
彼女がこれまで父に対して取ってきた
” 冷たい態度 ” を父に取らせているのです。
” 私のしてきたことは、
これぐらい酷いことなんだ ”
一通のメール
セッションが終わり、しばらくしてから、
彼女から一通のメールが届きました。
父と電話で短い話をしたそうです。
その時は、謝ることは出来なかったが、
父は最後に会った時と何も変わって
いなかった。
厳しく、諭すような物言い、
押しつけがましい助言、そして、
いつも娘の心配ばかりをしている父の声。
彼女は、少しだけ胸のつかえが
取れたような気がすると言いました。
*
さて、あなたの夢に家族や恋人など、
大切な人が夢に登場し、そこで何か悲劇が
起こったとしたら、すぐに悪い出来事の予兆
に結びつけるべきではありません。
仮にあなたの家族が何かの事故で怪我をする
未来が待っているとしても、潜在意識は
事故そのものを夢に描くことは無いのです。
なぜなら、それが未来の出来事に関する夢
であっても、それは夢を見ている本人に
よって作られるものですから、
都合の悪い事実は、都合良く脚色を加えた
形で作り直される。
例えば、階段から落ちて骨折するという
出来事ならば、階段が忽然と消えるとか、
その人の愛用している傘が壊れるといった、
一見すると無関係な夢として作られる。
即ち、事故がリアルに再現されるほど、
それは返って非現実的な夢なのです。
*
なので、家族が危機に瀕している夢を
見たとしても、まず、すべきことは、
夢の内容に矛盾した設定は無いか、
それを見つけることです。
今回の夢ならば、彼女だけが父の訃報を
受け取っていないという部分です。
そして、見つかったなら、
なぜ、潜在意識が、あえてその設定を
選んだのかを考えてみてください。
今回の夢のように心当たりが見つかる
場合もありますし、近い将来について
描かれている場合もある。
いずれにしても、夢は、あなた自身が
作ったものであることには
変わりないのです。
広告