キーワード検索では、どうしても探せない
ものがあります。
それは、” 文脈 ” です。
例えば、保険会社のセールスマンが
尋ねてくる夢を見たとします。あなたは
夢の意味を調べるためにキーワードに
次のように入力する。
” 夢 保険会社 訪問 心理 ”
” 夢 セールスマン 心理 ”
多分、まともな回答は得られないでしょう。
少し趣旨がズレますが、次のように入力
した方がよいかもしれません。
” 夢占い 保険会社 セールスマン ”
あなたはスピリチュアルな回答を
求めていたわけではなく、単に深層心理
について知りたいだけだったが、
回答を得られそうなキーワードが
” 夢占い ” しかないという状況です。
夢占いでも深層心理の部分をフォロー
している場合がありますので、今は、
それで我慢しましょう。
もしかしたら運よく、保険に加入する夢、
もしくは、セールスマンが訪ねてくる夢
といった似たような設定について
解説している夢占いサイトを見つける
かもしれません。
しかし、保険会社のセールスマンが
尋ねてくるという完全一致の設定に
ついての解説ではない。
*
要するに、夢の意味に限らず、
あらゆる情報について言えることですが、
キーワード検索で探せる情報には、
よほど単純な質問でもない限りは、100%
正しい回答を期待できないということです。
答えているようで論点がずれている。
ありきたりな回答しか返ってこない。
回答自体が間違っている。
そして、人生の中で自分の力では
解決できない問いとは、常に複雑です。
AIに解を求めても、何も答えてはくれない。
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胸に開いた穴
夢とは、特定の状況下だけで使われている
隠語のようなものです。
例えば、とある掲示板でピーナッツを
販売する業者がいるとしましょう。
でも、少し変です。それは、1個とか、
10個単位で取引されている。
もう、この時点で ” ピーナッツ ” という
単語が本物のビーナッツではないこと
ぐらいは分かりますよね?
一見すると普通の単語に見えるが、
そこには裏の意味があり、界隈に
精通している人にだけは意味が伝わる。
AIはそれを識別することは出来ないが、
人ならば、その単語の使われる場面や
背景から ” 何か変だな? ” と察することは
出来るでしょう。
言い換えるならば、夢とは、あなたと
あなたの潜在意識の間で交わされる
隠語による会話なのです。
ゆえに、夢の意味をインターネットで
調べるというのは、夢解釈のアプローチ
としては返って遠回りになる。
隠語の意味を知りたければ、ルールに従う
必要があります。そして、そのルールを
決めたのは、あなた自身です。
*
次は、とある女性が見た夢の一例。
自分の胸のあたりが四角く切り取られ
ポッカリと穴が開いている。
体の一部に穴が開くという
とてもショッキングな内容の夢です。
彼女もこの夢を見たときはびっくりして、
すぐにネットで夢の意味を調べた。
しかし、様々なキーワードを入力して
調べても当てはまりそうな回答は無く、
やむなく筆者に夢鑑定を依頼したという
ことでした。
さて、この夢は、一体、
何を意味しているのでしょう?
筆者は、まず、詳しい状況を確認するため、
いくつかの質問をしました。
四角く切り取られていたというのは、
どれぐらいの大きさだったか?
手術を受けたように痛々しいもの
だったのか?
彼女は、それは ” 傷 ” ではないと言います。
胸の当たりに、丁度、文庫本ほどの
大きさの長方形の縦穴が開いていた。
血は全く出ておらず、内臓が見えていた
わけでもなく、まるで異次元への入り口
のように、くっきりとした輪郭の穴が
ぽっかりと開いていた。
*
筆者は、この不可思議な描写に一つ
思い当たることがありました。それは
スペインの画家サルバドール・ダリが描いた
1950年の作品 ” ポルト・リガトの聖母 ” です。
この作品は聖母の胸部に四角い穴があり、
そこに胎児が腰かけているという幻想的な
作品です。
取り合えず彼女にその絵を見てもらい、
知っているかと尋ねました。
知っているならば、何かのヒントになる
かもしれない。
しかし、彼女は初めて見たと答えます。
ただ、その絵を見て彼女は、強い関心を
持ったようでした。それで、筆者に
次のように尋ねたのです。
” この絵はどういった意味なのですか? ”
無論、筆者は芸術評論家ではありません
ので、ダリが精神世界を描く芸術運動、
シュールレアリズムに参加したこと、
そして、多分、絵は精神世界を描いて
いるのだろうと簡単に説明しました。
説明を聞いた彼女は、自分の夢について
次のような考察をしました。
” もしかして、四角い穴は、
精神世界を表しているのでは? ”
筆者も彼女の分析と同じ意見だったのです。
*
” 穴の向こうには、何があったのですか? ”
筆者は尋ねました。
彼女は、うつむいて胸部を確認しただけ
なので、その奥に何があったのかは
見えなかったと言います。
ただ、人に見られてはいけないと思い、
慌ててそれを隠すため、近くにあった
衣類をつかみかかったところで目が覚めた。
もしかすると、彼女の胸元にぽっかり
開いたものは ” 穴 ” ではなく、
” 窓 ” ではないだろうか?
筆者がふと感じた疑問について話すと、
彼女は何かに思い当たったようでした。
彼女いわく、
自分は感情が顔に出やすいタイプで
取り乱したり緊張する場面があると、
赤面し、表情がこわばってしまうという
悩みを抱えていると。
以前、大勢の社員の前でそのことを職場の
上司に言われて、とても恥ずかしい思いを
したことがあった。
彼女は言いました。
” 隠そうと思っても顔を見ると分かるらしく、
心の中を見透かされているように
感じるんです ”
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失われた扉
つまり、彼女の胸元に空いた縦長の穴は、
いわゆる ” 心の窓 ” をそのまま映像化した
ものだったのです。
窓ならば扉があるはずですが、夢の中では
扉の描写が無かった。つまり、本当は
ついているはずのものが無いという状態を
描いているのです。
扉を失ったそれが ” 穴 ” のように見えた。
それは、彼女の悩みである顔の表情で
心の中がまる見えになってしまうという
状態を表しており、表情を改善するのは
難しいですが、胸元の穴ならば衣類で
隠すことが出来る。
彼女は、夢の中で自身のコンプレックスの
場所を胸元に移し替えて、どうにか解決
しようとしているのです。
*
夢とは、極めてプライベードな創作物。
そこには夢を見た人だけのストーリーが
ある。
今回の夢に関しては、彼女が抱えている
悩みが胸元に開いた穴という形で
描かれていた。無論、その経緯を
知らなければ、夢の意味は分からないまま
になっていたでしょう。
夢は、単語の集合体として構成されている
わけではなく、まさに ” 文脈 ” によって
作られている。
意味は単語に与えられるのではなく、
文節から文節への ” 流れ ” に与えられる
のです。
ここで言う文節とは、文章の構成要素
のことではなく、私たちが生きていく上で
培った記憶、体験、感情、そういった
精神的な物語の一場面、一場面のことです。
丁度、映画のスクリーンショットだけを
見ても何も伝わらないのと同じように、
物語の一場面だけを切り取っても何も
見えてはこない。
キーワードで何かを検索するという行為は、
まさに情報の ” 切り取り ” です。
*
あなたが何か悩みを抱えていたとして、
教会の懺悔室で牧師さんに告白したとします。
多分、今のあなたに最も響く言葉を
聖書の一説から引用してくれるでしょう。
もしくは、あなたが聖書の愛読者ならば、
どこかの一説から、自ら新しい解釈を
見つけだすかもしれない。
” 答えはここにあった ” と。
検索エンジンが聖書の一説を検索結果
として表示することはありませんし、
新しい解釈を作り出すこともない。
もし、あなたが夢を見て、その意味を
知りたくなったとしたら、まず、
ブラウザを閉じることをお薦めします。
そして、その夢に誰が登場しているとか、
何をしていたか、舞台はどこかという
キーワード検索出来そうな ” 単語 ” を
探すことをやめる。
夢から ” 隠語 ” だけを切り離さないで
ください。その隠語は、あなたの作った
ルールの中でようやく意味を持つのです。
そして、あなたの私生活や抱えていること、
あなたのプライベートについて振り返って
みてください。
夢は、そこから生まれる。
でなければ、胸元に空いたものが
” 穴 ” だと思い込んだまま、無意味な
答え探しを繰り返すことになるでしょう。
” 答え ” とは、あなた自身の中にしかない。
なぜなら、夢はあなたが作りだしたもの
だからです。
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