夢の中で、時折現れる正体不明の人物。
例えば、遠くから自分の方を見ている
だけの不審者、いることは分かっているが
はっきりと姿を見せない人影や、
すりガラスの向こう側から喋りかけてくる
声だけの人物など。
登場してはいるものの、なぜか、正体が
いまいちつかめない ” 謎の人物たち ”
このミステリアスな存在には、
どんな意味が隠されているのでしょう?
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仮面の男
次は、とある男性が見た夢の一例です。
仮面をつけた男が右手を後ろに回して
立っている。
” 何を持ってる。見せろ! ”
怒鳴りつけると、男は姿勢を低くして
身構え、それを隠そうとする。
自分は怖くなり、大声を上げて持って
いた鉈で仮面を切り付ける。
仮面は二つに割れ、男の素顔が見える。
この夢を見た彼は驚いて目覚めてしまう。
その素顔とは、恐怖に怯えた表情をした
” 自分 ” だったのです。
この意味深な夢から最初に浮かぶ疑問は、
” なぜ、男は仮面をつけていたのか? ”
ということです。
どうせ最後には正体が明らかになる
ストーリーです。最初から仮面無しで登場
するわけにはいかなかったのでしょうか?
*
この夢で、潜在意識はその人物の顔を隠した
かったわけではなく、外れかかった仮面が
ついに外れる瞬間を描きたかった。
ただ、夢の内容には仮面が
” 外れかかっている ” という様子は描写
されていません。
彼に仮面について尋ねると、
それは能面のように顔の前面に取り付ける
タイプのもので、白く無表情、目は細かった
と言います。
そして、外れかかっている様子は無かった。
彼の説明では、仮面はしっかりと顔面に固定
されていた。
ここで重要なのは、なぜ、潜在意識が
” 仮面 ” という演出にこだわっているのか
という点です。
” 夢 ” ですから、無表情な架空の人物を彼の
前に立たせることも出来た。そもそも
潜在意識は登場人物の顔など自由に作ること
が出来るので仮面など最初から必要ないはずです。
潜在意識が人物に仮面をつけさせたのは、
それが ” 取り外し可能 ” だから。
” 本当の顔は、薄い仮面のすぐ下にある ”
ということを示すための演出なのです。
つまり、この夢において仮面は、
いずれ取り外される前提でつけられている。
そういった意味で
” 外れかかっている ” のです。
無表情の仮面の意味
ここまでの解釈から、この夢は彼の中で
水面下にあった ” 何か ” が表面化しようと
していると読むことが出来る。
セッション中、彼は、一つ思い当たることが
あると言います。
” 白い無表情の仮面は、自分と共通点が
ある気がします ”
彼は感情を表に出さないタイプで、不安や
動揺、怒りなどを人に悟られないよう、
いつも平静を装う癖があると言います。
彼が仮面を見て感じたのは、それが、まさに
白々しく平静を装っている表情だった。
*
さて、仮面の男は平静を装って、
何を隠そうとしていたのでしょう?
夢をもう一度、振り返ってみましょう。
男は右手を後ろに隠している。彼はそれを
激しく問い詰める。夢の中で仮面の男が、
いつか自分に危害を加えるのではないかと
不安だったと言います。
そして、とうとう恐怖感のあまり、彼は
手に持っていた鉈で相手を切り付ける。
夢の内容を見る限り、仮面の男は実際は
何もしていません。どちらかと言えば
彼が加害者で仮面の男は被害者です。
そして、仮面が割れて、怯えた表情の
自分が正体を表わす。彼はその姿を見て、
なぜか哀れに思えてしまった。
さて、彼が夢の中でとった一連の行動は
どう解釈すべきでしょう?
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心の中の ” 危うさ “
まず、この夢を作ったのは彼自身だという
ことを思い出してください。
つまり、仮面の男をキャスティングして
いるのも、その男に右手を隠すような
素振りをさせているのも、彼自身の演出
なのです。
無論、仮面の男の正体が ” 自分 ” である
ことも彼は最初から知っている。
*
筆者は尋ねました。
” 自分の本心を人に悟られることを、
なぜ、嫌うのですか? ”
彼は答えます。
” そもそも、人を信じていないのかも
しれない ”
彼の話では、いつからか人を疑う癖が、
自然についていたと言います。
周りに少しでも気を許すと、痛い目に
合うのではないかという不安によって、
彼の中に ” 疑う心 ” が住み着いていた。
” もしかしたら仮面の男は疑ってばかりいる
哀れな自分の姿なのかもしれない ”
と、彼は言いました。
*
彼は自分を恐れていたのです。
仮面の男が固く握った右手の拳の中に
あるのは ” 疑う心 ”
不安によって、どうしてもそれを手放す
ことが出来ない。まさに ” 手の内 ” を
見せることは出来ないのです。
そして、彼自身も仮面の男を疑っている。
” 疑う心 ” によって、いつか誰かを
傷つけてしまうのではないか?
手に持った ” 鉈 ” は、彼の攻撃的な
側面の象徴。
彼は、自身の ” 疑う心 ” が、かえって
自分を危険人物にしていることに、そして、
それが自分にとってマイナスになっている
ことに心の底では気づいている。
仮面が二つに割れ、男の正体が明かされる
場面は、彼がそれをはっきりと自覚した
瞬間です。
*
彼は言いました。
” 夢を見た数日前に話し方に棘があると
知人から言われたんです。
威圧感と言いますか・・
自分では意識してなかったんですが・・ ”
” なるほど、自然に
身についてしまったのですね ”
” ええ、多分、そうやって
自分を守ってきたんだと思います ”
彼は、すでに変化しつつあります。
でなければ、この夢が作られることは
なかったでしょう。
この夢は言わば、彼自身の変化の訪れを
暗示しています。
ミスターXの正体
様々なシチュエーションで登場する
正体不明の人物。
あなたの夢の中に登場したミスターXの
正体が、今回の夢のように最後に明らか
になるとは限りません。
謎は、謎のままかもしれない。
しかし、その人物が、一体誰なのかという
ことにこだわる必要はありません。
夢の作り手である潜在意識は、登場人物が
” 正体不明 ” である方が都合が良いと
考えれば、そのような演出を施します。
顔にモザイクをかけたり、影だけの登場に
したり、色々な技法を使ってそれを隠す。
例えば、夢の中で首から上が物陰に隠れて
顔が見えなかったとします。現実世界なら、
見る位置を変えれば、顔を確認出来るの
でしょうが、夢の世界では、そもそも
首から上は映像として作られていない。
丁度、映画のセットのようにカメラに映る
部分だけが作られている状態に似ています。
潜在意識が ” 誰でもない ” という設定で
その人物をそこに立たせたのなら、首から
上は必要ありません。
その場合、解かなければならない謎は、
人物の正体ではなく、なぜ潜在意識が
その人物を正体不明にしたのか、
その真意です。
*
幼い少年が、雑踏の中で両親からはぐれて
しまうという夢を見る。
小さな少年には、
大人たちの足元しか見えない。
少年にとって、顔の見えない行きかう
多くの足は ” 大人たちの世界 ” を
イメージとして描いているのです。
そして、表情を伝える ” 顔 ” は描かれない。
赤の他人である大人たちは、少年にとって
” 冷たい壁 ” に過ぎないから。
夢の中のミスターXに、
初めから ” 正体 ” など無いのです。
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