” 夜 ” と言っても、様々な状況があります。
陰鬱で幽霊が出そうな夜もあれば、
星空が見える美しい夜もある。
深夜なのに、真昼のように
明るい夜もあるかもしれません。
夢の世界では、
” 時間 ” という概念がありません。
あるのは、
” 時間とはこういうものだ ”
という私たちの固定観念だけです。
なので、夢の中で
太陽が沈んで夜が訪れたとしても、
それは、自然の摂理ではなく、単に
夜が必要だったから太陽を沈めたのです。
無論、太陽を沈めたのは
夢を見ている本人です。
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明るさの無い世界
次は、とある女性が見た夢の一例です。
真っ暗なリビング。
弟が外から声がすると言って出て行ってしまう。
自分はそれを追いかける。
外に出ると真っ暗で、視界が悪い。
弟は、しゃがみ込んで
地面に開いた穴をのぞいている。
静止も聞かず、弟は、
穴に入っていったきり戻ってこない。
穴の奥は暗闇で全く見えない。
何か不吉な雰囲気の漂う夢です。
この夢を見た女性は、幼い弟の身に
何か悪いことが起こるのではないかと
心配しているようでした。
*
彼女の説明では、屋内も野外も暗く、
夢全体が視界の悪い状態だったと言います。
” 弟さんの覗いていた穴は
実在するものですか? ”
彼女は、場所は自宅の庭先ではあるが、
穴自体は存在しないと答えます。
筆者は続けて質問します。
” 野外は暗かったということですが、
夜だという認識がありましたか? ”
” 暗かったので夜だとは思いますが、
なぜか、部屋の照明もついていませんでした。
まるで、地区一帯が停電のような薄暗さでした ”
*
” 部屋が暗く、視界が悪いということですが、
照明をつけようとはしなかったのですか? ”
” 照明のことは、全く頭にありませんでした。
弟だけが気がかりで・・ ”
それから彼女は、あることを思い出し、
説明を付け加えました。
なぜか暗闇の中で、弟だけが
くっきりと色付きだったと言います。
” スポットライトのようなもので
そこだけが照らされていたということですか? ”
” スポットライトというより、
弟が周りの景色に比べて浮き上がって見えたんです。
うまく説明出来ません。 すみません・・ ”
彼女の説明では、後から付け加えた合成映像のように、
周辺の景色と弟の輪郭が不自然に見えた。
さて、これら奇妙なシチュエーションには、
どんな意味が込められているのでしょう?
暗闇の中へ
夢の中の ” 暗闇 ” が演出として使われる
理由で考えられるのは、誰かに自分の姿を
見られたくない場合、身を隠すために
暗闇を用意することがあります。
また、逆に、見たくないものを見ずに
済むように暗闇を利用することもある。
まず、この夢の登場人物は彼女と弟の二人だけです。
そして、外から聞こえたとされる謎の声。
声の主に姿を見られたくないという
ことなのでしょうか?
もしくは、声の主を見たくないということなのか?
どちらの可能性もありますが、
もう少し掘り下げてみましょう。
*
彼女は、夢の内容から言えば、
その声を直接聞いたわけではありません。
しかし、この夢は、彼女自身が作ったもの、
その謎の声も彼女が仕組んだ演出の一つです。
“弟さんは声がする方へと出ていった
ということですが、その声はあなたには
聞こえなかった?”
” ええ、聞こえませんでした。
ただ・・頭の中で囁き声と言いますか、
「居なくなれ」という声がしたような気が・・”
弟は、声のする外へ飛び出して、
自ら穴の中に入っていった。
自分は弟の名前を叫び、
引き止めようとしたが遅かった。
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導き出された ” 答え “
頭の中で聞こえたセリフが彼女自身のものなら、
そして、弟が穴の中に入っていったきり
戻ってこなかったという状況から、
次のような解釈も可能です。
彼女は、弟に居なくなってほしかった・・
しかし、筆者には、この解釈が
正しいとは思えなかったのです。
成人をすでに迎えている社会人の彼女と、
一回りも年が離れている弟との間に
亀裂があるようには見えませんでした。
単なる夢だと忘れてしまうこともできたはずが、
彼女は弟の身を心配して
意味深な夢の意味を知りたがっている。
彼女に、弟さんについて尋ねると、
二人の関係はむしろ良好で休日には、
一緒にゲームなどをしてよく遊んだりしている
ということでした。
*
さて、この解釈が誤りだとすれば、
次に思い浮かぶのは、弟は、
彼女自身の ” 分身 ” ではないかということです。
夢の中で、家族が自分の分身として
扱かわれるケースはよくあるので、
彼女が自分の一つの側面を弟の姿を
借りて登場させていると。
もし、そうならば、弟が真っ暗な穴の中に
入っていったきり戻ってこないという描写は、
彼女の中の何かが失われていく状態を
抽象的に描いたということかもしれません。
筆者が、この解釈を話すと
それを聞いて、彼女は何かに思い当たったのか、
細かな経緯を話しはじめました。
現在の彼女は、社会人になって日が浅く、
今の仕事や職場の人間関係に慣れるのに必死で、
それがストレスになっていると言います。
ある時、弟にこう言われた。
” お姉ちゃんは笑わなくなった ”
もしかしたら、夢の中の弟は、
” よく笑っていた頃の自分の姿 ”
ではないかと彼女は言いました。
そして、弟は屈託なく、よく笑う素直な子だそうです。
筆者にも、彼女の解釈が
正しい ” 答え ” に思えました。
失われつつある世界
彼女の潜在意識は厳しい社会生活の中で
” あどけなく素直な自分 ” を失いつつあることに
気づいていたのかもしれません。
そして、それが失われてしまうことに
抵抗する彼女が夢の中で純粋さの象徴である
弟を引き止めようとしている。
一方では、謎の声が弟を穴に誘い込み、
弟は自らその中へ入っていく。
全てが彼女の作り上げたシナリオです。
彼女は、弟を引き止めつつも、
大人になるためには、自身の中の純粋さが
失われていくことを受け入れなければならない
現実も認識している。
謎の声は彼女自身です。
” いつまでも子供のままではいられない。
子供っぽい私なんて居なくなれ ”
*
そして、夢全体を包み込む暗闇。
自分の中の大切な何かが死んでいくことへの
喪失感、それに対する陰鬱な気分が
彼女の住む住宅地の全てから
” 明るさ ” を奪い去ったのです。
彼女には、それが ” 夜 ” に思えた。
彼女にとって大人になるということは、
太陽の光が届かない世界へ、
身を投じるような気分だったのかもしれません。
さて、この夢の最も不可思議な演出である
暗闇の中で、なぜか弟だけが、
くっきりとした色付きだったという部分。
その輪郭は、合成映像のように
周囲の景色から浮き出て見えた。
彼女にとって、夢の中の弟は
失われつつある ” 純粋さ ” の象徴です。
それは、鮮やかで美しい世界。
灰色の大人の世界とは相容れない存在。
だから、浮いて見えたのです。
そして、それは暗い穴の中に消えていった。
理由を知っている人
潜在意識は、夢の世界の天候や、
季節、時間帯を自在にコントロールします。
必要であれば、沈まない太陽を
登場させることも、永久に
明けることのない夜を設定することも出来る。
もし、あなたの見た夢が、
夜の設定だった場合、潜在意識は、
なぜ、そのシチュエーションを選んだのでしょう?
そこには、そうでなければならない
理由があるのです。
例えば、それが、
明けることのない夜ならば、あなたは、
過ぎゆく時間を止めたかったのかもしれない。
それが星空が輝く夜ならば、
理想は遠く手の届かない場所にあるという
あなたの認識を描いているのかもしれない。
さっきまで明るかったのに、突然、
夜になったとしたら、あなたの潜在意識は、
慌てて切り替えたのでしょう。
何かを暗闇に隠すために。
夢の作り手であるあなたは、
すでにその理由を知っている。
ヒントは、あなた自身の中にあるのです。
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