夢において様々な場所が舞台となります。
職場、自宅、学校、公園、海、森林、
幻想世界、危険な場所、または、
一度も行ったことのない架空の場所など。
なぜ、夢の舞台が、
その場所だったのでしょう?
舞台として選択される場所は、
大きく分けるとすれば、実在する場所か、
もしくは、架空の場所のいずれかになる
でしょう。
また、実在する場所ではあるが、個々の
レイアウトが若干違っているとか、
架空の部分と現実の部分が融合している
という場合もあります。
いずれにせよ、その場所が夢の舞台として
設定されたことには、潜在意識の何らかの
意図がある。
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架空の限界集落
次は、とある男性が見た夢の一例。
人気の無い寂れた村で暮らしている。
古びたドラッグストアが
一軒あるだけで車も全く走っていない。
遠くから地響きが聞こえる。
高台に駆け上がると、
村外れの荒野から、馬の群れが
村へなだれ込んでくるのが見える。
限界集落のような村で生活をしている
という設定の夢です。
実際、この夢を見た彼の住んでいる場所は、
都会ではありませんが、ごく普通の住宅地
ということで、夢の中の村は ” 架空の場所 ”
だった。
*
夢は、その人の心の状態を、家、地域、
会社や学校、公園、自然など、
” イメージの集合体 ” として表現する
ことがあります。
家ならば、複数の部屋が一つにまとまって
いるものですし、公園ならば、そこにある
遊具や利用者が ” 公園 ” という一つの
イメージに含まれる。
この夢では ” 村 ” がそれに当ります。
つまり、” 寂れた村 ” は、彼の心の状態を
表している。
言い換えるなら、
” 村全体 ” が、彼の心なのです。
では、具体的には、この夢は、
一体、何を描こうとしているのでしょう?
*
筆者は、寂しげな村の様子から、彼の中に
疎外感のようなものが、あるのでは、
と思いました。そして、次の質問をします。
” 何か孤独を感じることは? ”
彼は答えます。
” 孤独を感じることはないが、
周りの人から見ると、孤独に見える
のかもしれない・・ ”
彼の説明では、職場でとある出来事を
きっかけに、周りの同僚たちとの関係が
悪くなってしまったということでした。
その出来事とは ” 昇進 ”
一緒に働いてきた同僚に指示を出す立場
になり、時には、これまで仲間だと
思ってきた彼らを評価しなければならない
という管理者としての仕事に、彼は
やりづらさを感じていた。
そして、何となく周囲との距離感が
出来てしまい、自分から積極的な
コミニュケーションを取ろうとしなく
なった。
彼は言いました。
” 自ら孤独を選んだのかもしれない ”
安住の地を脅かす者
つまり、彼は、夢の中の ” 寂れた村 ” に
自ら移り住んでいたのです。
彼にとって、そこは誰とも接触せずに済む
場所、面倒な人間関係から距離を置くことが
出来る ” 避難所 ” のような役割を果たしている。
夢では、村の描写の一つに
古びたドラッグストアが登場しています。
そこでは、生活用品や市販された薬を購入
することが出来る。日常の大抵のものは
調達出来るわけです。
周囲に対して心を閉ざしてしまった
彼にとっては、ドラッグストアが
一つあれば誰にも頼らずに生活出来る。
ドラッグストアは、
彼の中の ” 孤独耐性 ” を表している。
つまり、孤独を自ら求めた彼は、
夢の中で誰にも干渉されることのない
” 閉ざされた世界 ” を再現したのです。
*
では、村の外れになだれ込んでくる
馬の群れは何を意味しているのでしょう?
数十頭の群れが地響きをたてながら、
砂煙を上げて村の中心に向かっていくのを
彼は高台から、ずっと眺めていた。
村は彼にとっては ” 安住の地 ” です。
なので、突如、現れた馬の群れは、
それを脅かす存在。それは騒々しく、
彼一人の力ではどうすることも出来ない
不可抗力です。
潜在意識は、彼の作った安住の地が
崩れ去る時期が近いことを感じ取った
のかもしれません。
一体、これから、
彼に何が起こるというのでしょう?
考えられるのは、それが
” 騒々しく止めることが出来ない力 ” という
ことであれば、自ら望んだ孤立した状態が
維持できない出来事、例えば、部下と交流
をしなければならない状況が待っているの
かもしれません。
管理職とは、部下に指示を出し、評価する
だけが仕事ではありません。チームとして
機能するためには、どうしても
コミュニケーションが必要になってくる。
彼が避け続けているものです。
結局、彼もチームのまとめ役として、
更に上の人から評価をされる立場でも
あるわけです。上から ” 成果を出せ ” と
言われれば、やらざる終えない状況は
やってくる。
*
また、別の見方をすることも出来ます。
馬の群れは彼自身の中に
” 心を閉ざした今の状況はよくない ”
という思いがあり、避難所に逃げ込んで
しまった自分を連れ戻すために彼自身が
差し向けた ” 追手 ” という読み方も
出来ます。
その場合、彼は、やってきた馬に跨って、
寂れた村を去ることになるのでしょう。
ただ、夢の途中で目覚めたということで、
その後の展開は描かれていません。
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行きつけの居酒屋
次は、とある女性が見た夢の一例です。
居酒屋で一人酒を飲んでいる。
店に誰かが入ってくる。
顔に見覚えのある人々。
慌てて視線を逸らして顔を隠す。
居酒屋で知り合いと鉢合わせをしてしまう
という内容です。
” 居酒屋でお一人で飲まれることは、
実際にあるのでしょうか? ”
筆者の質問に、彼女は答えます。
” あります。
と言っても、特定の店だけですが ”
彼女の説明では、夢の舞台となった居酒屋は
繁華街ではなく、路地裏に面した分かり
にくい場所にある小さな店で、最初は、
そこに居酒屋があることに気づかなかった
と言います。
” 自宅の近くにあるのを発見して、
それから、ずっと利用しているんですが、
私にとって隠れ家みたいな店です ”
” つまり、誰かと行ったことはない? ”
” ええ、一度も。
お店のことは誰にも言ってないです ”
” そこを見つけられる前は、
普通の居酒屋に? ”
” いえ、自宅で一人で晩酌をするというのが、
いつものパターンです。何人かで外食する
こともありますが、落ち着かないんですよね ”
話を聞く限り、彼女は、あまり集団行動を
したがらない性格のようです。
隠れ家は、彼女にとって
人間関係の煩わしさから距離を置くことが
できる避難所のような場所なのでしょう。
*
さて、夢の中では、その ” 隠れ家 ” に
何人かの顔見知りが来店しています。
” そのお知り合いの方々は、どういった? ”
” 家族連れです ”
” それは、お付き合いのあるご家族
ということですか?”
” いや、付き合いは無いんですが・・
・・・元彼の家族です ”
彼女いわく、以前、交際していた男性とは、
五年ほど前に別れ、男性の方はその後、
結婚したと言います。
そして、数週間前に街中で、偶然、彼と
その家族を見かけた。
” 結婚したというのは知っていましたが・・
綺麗な奥さんと小さな子供を連れて、
ショッピングをしていました ”
” 向こうは、あなたに気づかなかった? ”
” いえ、遠くからでしたが、
彼とは目が会って、何だか気まずそうな
顔をしていました ”
合意の上での別れ
五年前、二人は破局したわけですが、
それは ” 円満な別れ ” だった。
仕事の関係上すれ違うことが多くなり、
二人の時間を確保することが難しかった。
” どちらが悪いということではなく、
出会う時期が悪かっただけ ”
話合いの結果、双方が納得した形で別れる
という決断をした。
” 彼と別れたことは、
今でも後悔はしていません。
ただ、彼が家族と一緒にいるのを見たのは
あれが初めてだったので・・ ”
彼女は、元彼の幸せそうなその後を見て、
自分の ” その後 ” を振り返ってしまった。
*
一連の事情から察するに、夢の中の
” 隠れ家 ” に、元彼の家族が入ってくる
という設定は、彼女の置かれた現在の状況を
象徴的に描いているように見えます。
この場合の居酒屋は、守り続けて来た
彼女のプライベートな領域であり同時に、
彼女の心そのもの ” 気楽な独身者の人生 ”
を表す象徴的な場所。
元彼の家族は、それらを揺さぶる
” 外部からの侵入者 ” もしくは、
彼女の中に生まれた ” 余計な考え ” です。
そこが居酒屋ならば、彼女だけが
こっそり店を出れば済む話ですが、それが
自分の人生ならば、簡単に抜け出すことは
出来ない。
潜在意識は、心の中に生まれた招かざる
不和を解消するためにシチュエーションを
置き換えたのです。
*
” つい、考えてしまうんですよね。
忘れるために余計に酒を飲んでしまって、
この状況は良くないと
自分でも分かってるんですけど・・ ”
” 一人が好きだとおっしゃいましたが、
それは、昔からですか? ”
” ええ、そうですね。昔からです。
誰かと一緒にいると単純に疲れます ”
” 価値観が合わない
というようなことですか? ”
” いえ、そういった意味ではなくて、
比べてしまうんです ”
” 比べる? ”
” ええ、仕事でもプライベートでも、
上手くいっている人と一緒にいると、
自分が出遅れたように感じてしまって、
自信が無くなると言いますか・・ ”
” なるほど ”
” 一人でお酒を飲んでるのが、一番、
気楽でいられるので・・
誰かと比べるから、こうなっちゃって
るんですよね ”
彼女の中では、既に問題の原因も
すべき対処も特定出来ているようです。
聖域
さて、最初に紹介した夢は、寂れた村
という架空の場所が舞台となっていました。
そして、次に紹介した夢では、実在する
居酒屋が舞台となっていた。
とは言え、居酒屋も厳密に言えば、
” 架空の場所 ” です。
実在の場所を模倣する形で作られている
というだけで、夢の中で再現されたそれは、
結局、イメージの産物でしかない。
実在する人物や実在する場所をどれぐらい
崩した形で描くのか、その度合いは、
伝えるべきテーマにとって不都合な部分が
どれぐらいあったか、その割合によって
決まります。
寂れた村の夢では、まずは煩わしい
人間関係から距離を置きたいという心理が
あるわけです。
つまり、夢の舞台が日常に近い場所では、
そこから離れたとは言えない。
それは、なるべく日常とは縁が無く、
生きてはいけるが人気の無い場所・・
という感じで不都合な条件を避けながら
選択されたものが ” 限界集落 ” だった。
ただ、彼自身は限界集落に住んだことが
ないので、結局、頭の中のイメージだけで
その場所を一から作らねばならなかった。
そうして出来上がったものが、
” 架空の場所 ” として認識された。
*
では、居酒屋の夢は、どうでしょう?
夢が伝えているのは、彼女のプライベート
な人生に入り込んできた心を乱す ” 考え ” を
処理するためです。
それを描写するためには、
彼女が守ってきた ” 聖域 ” が必要だった。
もちろん、それは神殿でも、
城壁に囲まれた城でも良かったわけですが、
彼女の潜在意識は ” 行きつけの居酒屋 ” を
採用しています。
なぜか?
” 神殿 ” は、彼女の聖域ではないからです。
それは、彼女の人生とはかけ離れた
自分には関係の無い場所でしかない。
その前に、彼女が実際に守っている
” 聖域 ” が既に現実世界にあります。
そこは、彼女の ” 今 ” を伝えるうってつけ
の場所でもある。
潜在意識は、いつも行く居酒屋のイメージ
を借りて、そこに、侵入者を来店させる
という簡潔なストーリーを作ります。
潜在意識にとっては、手元にあった材料を
再利用するだけで、心のわだかまりを
処理できるので、ある意味、楽な仕事です。
無論、神殿が夢の舞台に選ばれる可能性が
全く無いというわけではありません。
手近なところに適切な場所が無ければ、
寂れた村の夢と同じように、土台から
作り出す必要があるというだけです。
仮に、現実世界の行きつけの居酒屋が
隠れ家に相応しくない場所、例えば、
繁華街にあるというなら、夢の中では
店の位置を地下一階に移動するかも
しれません。
実在するイメージを都合に合わせて、
架空要素を追加して調整するわけです。
不都合な部分が大きければ、必然的に
改造しなければならないイメージの範囲は
大きくなり、架空要素の割合も大きく
なっていく。
*
場所は、夢を構成する要素としては
重要です。
夢の細かな演出の意味が分からない場合も、
夢という構造物の外枠にあたる ” 場所 ”
について分析していくことは、困難な
夢の解釈を切り崩す一つの手段にもなる。
あなたの夢の舞台となる場所は、
偶然、選定されたわけではありません。
そこには、必ず、
潜在意識の ” 意図 ” があるのです。
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