例えば、あなたが通りを歩いていると、
一人の男性が向こうからやってくる。
それは、赤の他人ですから、何の情報も
与えられていないわけです。それでも、
その外見から第一印象ぐらいはあるでしょう。
” どこにでもいるおじさん ”
” 芸能人の誰かに似ている ”
” この先にあるドラッグストアの利用客
かもしれない ” など、
それは、結局、見た目や状況から感じ取った
イメージに過ぎないので、実際、どういった
人物かは分かりません。
もし、男性が取材のために現地を訪れた
名の知れた小説家であったとしても、
あなたは彼を知らないので地元の人だと
思い込んでしまう。
要するに、見た目から得られる印象と実際は
違っているということです。
*
しかし、これが夢の中の話だった場合、
少々、事情が変わってきます。
夢の中に登場したその男性を見て、
あなたは瞬時に理解する。
” ああ、この人は有名な作家なんだ ”
なぜ、そう思ったのかその理由を尋ねた
ところで ” 最初からそういう設定だった ”
としか答えようのない状況。
そして、次回の小説の舞台となるこの地に
やってきて、取材を兼ねて散歩をしている
最中だという背景も全て把握しています。
なぜなら、その男性は、あなたが
キャスティングした ” 役者 ” だからです。
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表情の中の表情
あなたは夢の作り手です。
映画で例えるならば、映画監督であり、
主役です。登場人物は、全てあなたが
キャスティングした役者です。
なので、あなたが夢の中で見知らぬ人物に
感じた憶測や印象は常に的を得ている。
そもそも、あなたがそういう設定にした
からです。
ゆえに、夢の世界で再現された設定の中に、
制作者の ” 痕跡 ” を見つけることが出来る。
それは時に、演出によって巧妙に隠される
こともあるが ” 感覚 ” として垣間見る
ことが出来る。
あなたが、すれ違った単なる通行人から、
どことなく ” 一般人とは違う知性 ” を
感じ取ったように。
*
次は、とある男性が見た夢の一例です。
歩道を歩いている。
通り過ぎる通行人が、なぜか
” ある表情 ” でこちらを見ている。
通り過ぎていく人々は、
皆、同じ表情でこちらを見る。
この夢の特徴は、通り過ぎていく通行人が
” ある表情 ” で彼を見るという部分です。
*
” ある表情というのは、どういった? ”
” 一応、無表情ではあるんですが・・ ”
筆者の質問に彼は、夢の中で見たものを
どう言い表すべきか困っているようでした。
” ただ無表情というわけではない? ”
” 表現しようのない表情と言いますか、
何だろうあの顔は・・ ”
彼いわく、それは、怒っているとか、
泣いているというような分かりやすい
ものではなく、不快な気分にさせられる
顔だったと。
一見すると、単に無表情な人々に対して、
彼が不快な気分を感じているだけのよう
にも見えます。
しかし、これは彼が作った夢。
” 無表情を演じるように ” と、夢に出演する
エキストラたちに指導しているのも彼です。
なぜ、そのような指導をしたのでしょう?
それは、本当の表情を隠蔽するための
カモフラージュなのです。言わば、
” 作り笑顔 ” ならぬ ” 作り無表情 ”
そして、隠蔽した張本人である彼自身は、
その表情の本当の意味を知っているため、
不快感を感じている。
その ” 感覚 ” は、夢の核心です。
心の内側へ・・
では、この夢は、
どう解釈すべきでしょうか?
まず、彼の感じた ” 不快感 ” が、どういった
ものかを深く知る必要があります。
具体的には、どういったタイプの不快さ
だったのか?
例えば、誰かに蔑まされたときに感じる
屈辱に近いものだったか?
それとも、誰かを傷つけたときに感じる
罪悪感に近いものだったか? など。
つまり、自分が、夢の中で何を感じたのかを
一つ一つ思い出す作業になります。これは、
極めて内向的で繊細な作業です。
考えを整理するとか、アイデアをひねり出す
といった作業とは、また違った
” あの時に何を感じていたのか? ” という
” 感覚 ” に焦点を当てる作業は、仕事や
日常生活では、あまり行われない行為
ですから、少々、難しいかもしれません。
*
彼は、言います。
” 何でしょう・・蔑すまされている
というのとは少し違うかな・・ ”
” 罪悪感ではない? ”
” ええ、罪悪感じゃないことは確かです ”
彼は言葉を選びながら続けます。
” ・・誰かが失敗した時に、それを
見ている人の気まずさと言いますか・・
でも、所詮、他人事みたいな・・
すみません。分かりにくい説明で ”
” 大丈夫ですよ。そもそも説明しづらい
ことが夢になるわけですから。つまり、
冷たい視線のようなものを感じていた、
ということですか?”
” ええ、そうですね。簡単に言うと、
そうかもしれません。そこに気まずさ
のようなものがあったように思います ”
” 失敗した時とおっしゃいましたが、
それについて何か心当たりは? ”
” 失敗したことにですか?
別に、特には・・
ああ、あれのことかな・・ ”
*
彼の説明では、一週間後に予定されている
会社でのプレゼンテーションが心配だと
言います。
彼の会社では、一年に一度、社員が複数の
グループになって、業務効率化の改善案を
発表するという催しがあるそうです。
そして、チームリーダーを任された彼は、
準備がまだ不十分であることに不安を
持っていた。
この密かに感じていた不安が、今回の夢に
描かれたということかもしれません。
” 確かに、プレゼンで失敗すれば、
見ている他のグループは、あんな顔に
なるかも・・夢は、もしかして暗示ですか? ”
” あなたが感じていることが夢になった、
ということだと思います。それに結果は、
今の状況からある程度推測できませんか? ”
” そうですね。
恥をかく可能性は高いかも・・”
” 準備の方は、まだ、かかりそうですか? ”
” 実は、チームに纏まりがなくて、皆、
仕事の傍ら参加しているものですから ”
” それは大変ですね ”
” でも、ほぼ強制参加のイベントなので、
辞退できないんです。ちょっと発破を
かけなければいけませんね。一週間前に
分かって逆に良かったのかもしれません ”
二種類の ” 感覚 “
夢の中に登場する人物や場面に感じた
” 感覚 ” について振り返ることは
夢解釈のヒントになります。
ただ、悪夢などによく見られることですが、
インパクトの強い場面があると、精神的
ショックを受けるといったことがあります。
それが強烈であれば、その恐怖感や不安
といったものだけが目立ってしまい、
冷静な分析を妨げる。
夢の中で感じる ” 感覚 ” には、核心を
知っているがゆえに感じ取ったものと、
夢の出来栄えに対して感じた単純な
リアクションの二つがあります。
前者は、普通なら何でもないと思える
設定に、なぜか脈絡の無い感情を持つ
といった場面になったりする。
今回の夢で言うなら、単なる無表情の
はずが、そこに言い知れぬ不快感を
感じたという点です。
そして後者は、なぜ、そう感じたのか、
その理由が明確です。誰でも幽霊が
追いかけてきたら怖くてたまらない
でしょうし、自分と瓜二つのクローンが
登場したら驚きますよね。
*
無論、この二種の感覚が一つの場面で
同時にやってくるということは、
よくあることです。
別のショックを与えることで、
核心を隠蔽するわけです。
例えば、ざわつく胸騒ぎを夢の中で危険運転
をしているスリルに置き換えたりする。
私たちは、胸騒ぎの原因が危険運転を
しているせいだと思い込んでしまう。
こういった場合は、感覚の見極めが
難しいかもしれません。
まずは、一旦、夢から距離を置き、
落ち着きを取り戻した上で、もう一度、
振り返ってみると良いでしょう。
すると、今まで気づかなかったことに、
気がつく。
自分は、なぜ、ブレーキを踏んで、
車を止めなかったのか?
止めようと思えば、止められたのに。
つまり、その設定は、
後から付け加えられた演出なのです。
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