夢の中で、まるで人が変わってしまったかのような振る舞いをすることがあります。
現実世界では絶対にしないことを平然とやったり、絶対に言わないようなことを言ったりする夢。
それは、現実では許されない願望や衝動が、暴走した結果なのでしょうか? とすれば、その人の本性に危険な一面が潜んでいるということにもなります。
果たして、夢の中の人格の変化は、どう解釈していけばよいでしょう?
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夢の中の本性
夢の中で人格が変わるというのは、さほど珍しい現象ではありません。
現実世界では、人は理性によって自分をコントロールしています。誰しも多少は、日常的に本来の自分とは違う自分を演じている。
夢の中では、やはり、理性の影響力が弱くなるという意味では、その人の人間性が出やすいと言えるかもしれません。
例えば、現実では好きな人に自らアプローチをするなどありえないという人が、どういうわけか夢の中では積極的だったり、普通は人前で泣くなんて絶対に無いという人が、夢の中で号泣したりする。
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では、夢の世界の振る舞いは、その人の ” 本性 ” が現れた結果なのでしょうか?
夢の中で号泣すると言った場合、その人が号泣するほど心に悲しみを抱えているのかと言えば、必ずしもそうとは限りません。
その涙は現実世界のように ” 悲しい ” という感情によって流れているわけでなく、心の老廃物を取り除いている状態を一つの ” 例え ” として映像にしている可能性もあります。
なので、夢の中での振る舞いが、その人の ” 本性 ” だと安易に結論づけるべきではありません。
その涙の本当の意味を知るには、夢の全体を含めて判断するしかないのです。
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次は、とある女性が見た夢の一例です。
休憩室で座っていると、見知らぬ男が入ってきて隣に座ると、ブツブツと人の悪口を私に言う。
しばらく無視していたが、あまりに話が長いので段々と腹が立ってきて、男を思いっきり突き飛ばす。
” もう、いいって! “
この夢を見た女性は、これまで誰かに暴力を振るったこともありませんし、ましてや男性に向かって喧嘩を売るなどするはずもない、どちらかと言えば、臆病な性格の持ち主です。
彼女自身も夢の中で、自分が取った攻撃的な態度に内心驚いていたと言います。
そして、突き飛ばされた男性が、唇から血を流しているのを見て ” まずいことをした ” と思った。
では、この夢は、臆病な彼女の中に、押さえつけられた暴力的な一面が爆発したということなのでしょうか?
擬人化された人格の一部
「その男性は、どういった印象の人物でしたか?」
筆者は、その人物の特徴を尋ねました。
彼女の説明では、見知らぬ人物であるはずが、なぜか夢の中では以前から知っている感じがしたと言います。
そして、職場の同僚と思われるその男性は、しかめっ面で常に何か不満げだったと。
男性が、誰かに対する陰口を自分に話し続けるのを奇妙に思いながらも、最初は聞き流していた。
彼女いわく、実は人の陰口を言うのは、自分自身がよくやる悪い癖だと言います。男性はそれを知りながら真似をして、自分をからかっているのだと思った。
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この男性は、彼女の ” 分身 ” です。
彼女の潜在意識は、自身の中の ” 嫌な部分 ” を一旦、分離して見知らぬ男性に割り当てた。
見知らぬはずが、なぜか前から知っているという感覚も、彼女がずっと付き合ってきた自分の ” 嫌な部分 ” が擬人化されているからです。
そして、彼女自身がこの夢の作り手なので、男性の正体を薄々分かっている。つまり、この夢は、彼女が自分の欠点を客観的に見つめようとした結果作られた。
男性に対する苛立ちは、自身に向けられたもの。夢の中で男性の口を封じ、自分の嫌な部分をコントロールしようとしている。
要するに、彼女は、自身の欠点を克服しようとしているのです。
彼女が夢の中で取った攻撃的な態度は、彼女自身の暴力性というよりは、自身に対する ” 粛正 ” という意味で捉えた方が正確でしょう。
人は、夢の中で様々なことをします。時には、自分の身体を傷つけることもある。殺人者に自分の命を狙わせることも、竜巻で自宅を吹き飛ばすこともあります。
しかし、それらは、現実世界で実現したい願望そのものではありません。
例えば、日頃から生まれ変わりたいと願っている人が、脱皮をする夢を見たとして、目覚めてから、自分の皮膚をつまんで引っ張ったりはしませんよね。そんなことをしても無意味ですから。
彼女の場合、男性に暴力を振るう設定になってはいますが、実際、男性は彼女の一部ですから、自分のお腹に自分でパンチを入れているようなものです。しかし、目覚めてから、自分のお腹にパンチをしても、無意味で馬鹿げいていることは、彼女も知っています。
故に、男性に対する彼女の行為は ” 象徴 ” なのです。言い変えるなら ” もし、今の心境を映像化するなら、こんな感じかな・・ ” という彼女の中のイメージが夢になっている。
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彼女は言います。
「確かに、人の悪口を言った後に、凄く嫌な気分になるんです。何でいつも一言、余計なことを言ってしまうんだろうって・・ 」
「そう思うようになったのは、いつからですか?」
「多分・・それが原因で、友人が離れていったことがきっかけだったと思います。それまで気づかなかったんです。悪口を言われた人だけじゃなく、それを聞く人にも嫌な気分をさせていることに」
筆者が一つ気になっていたのは、彼女の潜在意識が、なぜ、分身を同性ではなく異性として登場させたのかという部分でした。
「離れていったご友人は男性でしたか?」
「いえ、女性です。私はこれまで異性の友人を持ったことは無いです」
彼女の中の悪い癖によって友人を失ったという忌まわしい記憶が、今回のキャスティングに影響を与えたのかもしれません。
見知らぬ異性ならば、そもそも友人になる可能性が無く、自身から永久に分離しておきたい ” 私とは違う存在 ” 要するに、嫌われても構わない人物です。
潜在意識の見ている世界
この夢で行われている人格を分離し、それを擬人化するという技法は、夢の中でしばしば使われます。
悪い部分を切り離すことで、自分の中で抱えていた問題を外部の問題に置き換えて距離を置こうとしたり、抱えたストレスを軽減するため、登場させた分身にその半分を肩代わりさせるなど、その存在によって様々な処理をすることがあります。
現実世界では一人を複数に分割するとか、自身の一部を別人にするなど不可能ですが、意識だけで構成される夢の世界では、それが可能。
潜在意識は現実世界の秩序や、ルールの及ばない自由な世界を見ているのです。
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もし、あなたの夢の中で見知らぬ人物が登場し、その人がどことなく見覚えのある言動をするなら、自身の性格や、現在、抱えている問題について振り返ってみると、何か思い当たることが見つかるかもしれません。
それは、分離されたあなたの一部かもしれない。
そして、その人物に対して自分が夢の中でどんな態度を取っていたかを思い出してみてください。
例えば、非難していたなら、それは自身に対する非難ということになりますし、どこか暗い場所に閉じ込めたというのなら、自分の一部を心の奥深くに隠しておきたいという心理の表れなのかもしれない。
いずれにせよ、その夢を作ったのはあなた自身。登場人物をキャスティングし、彼らに何を演じさせるのかも、全てあなたの指示によるもの。
読み解くためのパンくずは、必ず、どこかに落ちている。
そもそも、そのパンくずを置いたのもあなたです。
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