大切な人との別れが来るその時まで|夢、そして、約束

人生、生きていれば、必ず出会いがあり、
別れがあります。

筆者が最も嫌いな言葉は ” さようなら ”
です。ある意味、この言葉が最も人を
傷つける。

” お前の顔なんか二度と見たくない! ”
と罵られるよりも、心の底に深く
刻まれるのです。

しかし、誰しも、必ずそれを誰かに
言われる時が来る。

そして、いつか自分の口から、それを
言わなければいけない時も来るのです。

人生の必然。自然の摂理。私たちは、
それを乗り越えなければいけない。

広告

娘の思い

とある高齢の女性がいます。

女性は、実の娘さんと自宅周辺を
ウォーキングをするのが毎日の日課でした。

無論、娘さんは働いていますので、
仕事終わりに母親のウォーキングに毎日
付き合うというのは大変なことでしょう。

一見すると、娘さんは孝行者で微笑ましく
見える。しかし、内情は違っていたのです。

すでに80代に差しかかろうとしている
母親は身体機能が衰え始めており、
長距離を歩き続けるという日々の日課は
相当な負担だった。

本人は ” 休ませてくれ ” と言うが、
娘さんが家から引っ張り出して無理やり
歩かせているのです。

そして、怠けようとする母に手を上げた
こともあった・・・

なぜ、娘さんがそこまでするのか?

彼女は年老いた母と二人暮らし。経済的
にもゆとりの持てる状況ではなく、もし、
母親が寝たきりにでもなれば、母一人
残して働きに出ることも困難になる。

彼女は、年老いた母親という大きな
荷物を抱えて、今後、予想される未来を
回避しようと必死だった。

あるいは、年老いていく母親を間近に
見ながら、その先にある ” 別れ ” を
認めたくなかったからなのかもしれません。

” 叩いたというのは、その一度だけですか? ”

” はい。初めて母に手をあげて
しまったんです。自分でも、
なぜ、あんなことをしたのか・・・ ”

彼女は、筆者の質問に答えながら、母に
手をあげてしまったことをとても悔やんで
いるようでした。

” ウォーキングは続けていらっしゃる
のでしょうか? ”

” いえ、その件があってから気まずく
なってしまって、母とは、ちゃんと
話もしていない状態です ”

また、彼女は母をほっておけば、家に
こもりきりになり、運動機能が低下
していくことを心配しているようでした。

” お母様の夢を見られたのは、手をあげて
しまったその夜、ということですね? ”

” はい、深夜二時ぐらいに目が覚めまして ”

彼女の見た夢の内容は、次のような
ものでした。

仏間で母が座っている。
 
” お母さん ”
 
私が呼ぶと、母は軽く頷いて
ニッコリとほほ笑む。

” 母の座っている場所が仏間だったので、
もしかしたら何か悪い予兆のような
気がして・・ ”

彼女は、母親の身に何か起こるのでは
ないかと心配をしているようでした。

” ご自宅に仏間があるのですか? ”

” はい。父の遺影があります ”

筆者は、夢の内容を確認しながら、
次のように考えていました。
夢の作り手である彼女の潜在意識は、
なぜ、自分の母親を仏間に配置したのか?

そして、仏壇には父の遺影が置いてある・・

筆者は、尋ねました。

” あなたが仏間に入った時、お母様は仏壇
に向かって座っておられたのでしょうか? ”

” いえ、私が来るのを待っていたという
感じで、こちらに向かって座っていました ”

” 夢の中でお母様を呼ばれたということ
ですが、それは仏間に入る前ですか? ”

” いえ、仏間に入り、母の姿を確認した
後です ”

” つまり、あなたは仏間に入ってから、
こちらに向いているお母様に向かって
「お母さん」と声をかけたという
ことですね? ”

” はい。そういうことになりますね・・
何か変ですか? ”

” お母様があなたに気づかれなかったから、
呼んだわけではない? ”

” ええ、母は私が入ってくるのを
見ていたと思います ”

” お互い間近で向き合っている状態で
わざわざ名前を呼ぶ必要があるように
感じないのですが、「お母さん・・」
と呼んだ後に、あなたは何か言おうと
していたということですか? ”

彼女は夢の内容をもう一度、振り返り、
次のように答えます。

” ・・・私は、何かを伝えようとしていて、
母が笑顔で頷いたので、それ以上何も
言わなかったんです ”

” つまり、お母様は、あなたが何を伝え
ようとしているのか、すでに知っている
という意味で頷かれた? ”

” ・・ああ、そうです。
あれは、そういう頷きでした ”

広告

彼女が伝えたかったこと

” 何を伝えようとしていたのですか? ”

” 私は・・・・ すみません。
何て言おうとしていたのか思い出せません。
とても大事なことだったというのは
覚えているんですが ”

” 手をあげてしまったことについての
謝罪ではない? ”

” 違うと思います。手をあげた後に、
私は母には謝ったんです ”

” それは、現実世界のことですね? ”

” はい。確か当日の夜、ご飯を食べた
後でした ”

” お母様は、どんなご様子でしたか? ”

” 何ともないから気にしなくていいと・・ ”

” 怪我は無かったんですね? ”

” はい、幸い。高齢だけに、
冷っとしたんですが・・ ”

当初、筆者は、彼女の母に対する罪悪感が
今回の夢になったのだと考えていました。

しかし、彼女の話を聞く限り、この夢には、
より深い意味が隠されているように思えた
のです。

彼女は、何かを伝えようとしていた。
謝罪よりも、ずっと大切な何か。

彼女は ” お母さん ” という言葉の後に続く
セリフを思い出せないのではなく、
” お母さん ” という一言に、彼女が
伝えたいことの全てが要約されていた
のかもしれない。

長い人生を一緒に歩んできた母と娘
だけにしか分からない様々な思いが。

” 私が目先のことばかり考えていた
のかもしれません・・・ ”

セッションの終盤、
彼女は、そんなことを呟きました。

” 目先とは、どういう意味ですか? ”

筆者が尋ねると、彼女は次のように
答えます。

” 母が年老いていくことは止められない。
必死に止めようとしたけど・・
母には長生きしてほしいんです。でも、
それが母を苦しめている。それに・・
母を最後まで責任を持って見ると約束
したので・・ ”

” お父様ですか? ”

” はい。逝く前に父は、母のことばかり
心配していました。母に先に逝くことを
すまないと謝っていました。
もう、十年も前のことですが ”

セッションが父親の話に差し掛かった時に、
彼女は、次のように言いました。

” 今回のセッションで自分でも色々考えて
みたんですけど・・・
私、誤解していたようです ”

” 何を、誤解されていたんですか? ”

” 父が言った「お母さんを頼む」
というのは、長生きのことじゃなくて、
母が一番望んでいる最後を過ごして
もらうことなんじゃないかって・・
・・・・・
そうだ、私、それをお父さんとお母さんに
言おうとして、仏間に・・”

この夢で最も重要な要素は、母の背後に
あった父の遺影だったのです。

父との約束の本当の意味。

それを彼女は悟り、両親に報告しようと
仏間に行った。そして ” お母さん ” という
一言でその全ては伝わるのです。

仏間に座る母は、彼女の心の中の母、
それは、いずれ悟ることを知っていた
潜在意識が投影した彼女自身の姿。

にっこりと微笑んで頷いたのは、
潜在意識がこう言っているのです。

” そう。それが、あなたが探していた答えよ ”

後日・・

後日、彼女から一通のメールが届きます。

内容は彼女が介護支援センターの窓口に
相談したところ、リハビリ機能を兼ねた
高齢者専用のフィットネスクラブの紹介
を受けたと言います。

会費もそれほど高くなく送迎バスが
ついている。

今日、母とその下見に行くと、ジムの
方もとても親切にしてくれて、母は
自宅の周りを歩くよりは、こっちの方が
いいと言って週二回のペースで通うこと
になった。

” 少し肩の力が抜けた気がします ”

彼女は言いました。

筆者には、セッションを受けている時の
思い悩んだ彼女と、後日、送られてきた
メールの文面から伝わる雰囲気が、
少しだけ変わったように感じました。

いつか大切な人と別れなければいけない。
それは、誰にでも訪れる受け入れなければ
ならない現実。

彼女は口に出して言いませんでしたが、
多分、受け入れることを決めたのでしょう。

 

関連記事


読む

読む

広告

 

この記事をシェアする