筆者が依頼者の夢解釈を行う上で
気をつけている事、それは ” 地雷 ” です。
心の奥底に押し込めた本心であり、
恐れであり、触れたくないタブー。
夢はそこからやってくる。
だから、誰かの夢を解釈するということは、
いつ踏んでしまうか分からない危険地帯に
足を踏み入れるということです。
” 地雷 ” とは、弱点です。
無論、弱点の無い人など存在しませんから、
誰にでも地雷はある。
私たちは誰にも知られないよう心の奥底に
それを隠しながら日々生活を送っている。
自分の見た夢を誰かに教えるといった
特殊な状況を除いては・・
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地下通路
次は、とある女性が見た夢です。
廃墟、薄暗い階段を降りていく。
長い通路、暗闇の奥の方から叫び声。
私は耳を塞ぎながら歩いていく。
” 夢の舞台となった廃墟は、
実在する場所ですか? ”
” いえ、どこだか分かりません。
全くの架空だと思います ”
彼女の説明では、自分は廃墟らしき建物
の中におり、地下に向かう階段を降りて
いったと言います。
” 廃墟を訪れた目的は?”
” 廃墟に用なんか無いですよ。
なぜ、自分がそこにいるのかも謎です ”
” 夢の中では階段を降りて、
先に進もうとしていたんですよね? ”
” ええ、一人で肝試しでも
していたんでしょうか・・ ”
” そういったことに、ご関心が? ”
” いえいえ、行かないです。絶対 ”
” 叫び声が聞こえたとありますが、
つまり・・叫び声の方へ歩いていった? ”
” ええ ”
” 叫び声の主を確認しにいったという
ことですか? ”
” ・・いえ、違います ”
この夢において奇妙な点は、目的も無く
彼女が廃墟を訪れ、地下室に降りていく
という部分です。
普通ならば、暗闇から叫び声が聞こえる
といったホラー的シチュエーションで、
何の用も無いのに進んでそのような所に
行くことは無いでしょう。引き返すことも
可能だったはず。
*
夢の中で本人が目的意識を持たずに行動
しているということがしばしば起こります。
そういった場合に、まず考えられるのは、
” 明確な目的が無い状態 ” そのものを
描いているという解釈です。
何か、先に進まなければならないという
心の焦りがある一方で何をすればよいか、
どこに行けばよいかが分からないといった
場合に、ひたすら歩き続けたり、何かを
探し続けるという夢になることがあります。
今回の夢ならば、彼女は暗闇へと向かって
いるわけですから、その先に朧気ながら、
何らかの目的があるようにも思えますが、
それは叫び声とは無関係であり、彼女自身、
なぜ、そうしているのか分からない。
分かるのは、彼女に ” 引き返す ” という
選択肢は無く、前に進むことしかできない
一方通行の状態であるということ。
暗闇の向こうには何かがあるが、それが
何であるのかまでは認識できていない
漠然とした状態であること。
” 認識 ” というリアル
そして、もう一つ気になる点は、彼女が
叫び声と自身の行動は無関係であると否定
する部分です。
このシチュエーションで叫び声が聞こえる
ならば、普通は注意を惹きます。そちらへ
近づく意思はあるが、叫び声自体に関心は
無いという状況は、少々不自然です。
また、潜在意識が夢を作る過程で、彼女に
無関係な演出を行うことはありません。
なので ” 叫び声 ” は確実に彼女に関係
していることです。
” 叫び声というのは、どういった・・? ”
” どういった? ”
” 叫び声の性別や、何かセリフとして
叫んでいたのか、それとも、悲鳴のような
感じだったのか・・思い出せる範囲で ”
” ・・あまり、覚えてません ”
” 性別も? ”
” 覚えてないですね。
ただ、聞こえただけです ”
” 悲鳴のような感じだった
ということですか? ”
” え、まあ・・そんな感じです・・ ”
” 建物についてお伺いしますが、
地下通路のような場所ですよね? ”
” ええ、長い廊下という感じでした ”
” つまり、どこかへ通じているという
認識はあったんですね? それとも
行き止まりになっている認識は
ありましたか? ”
” ・・暗くて確認できないので、
分からないです ”
” 申し訳ない。質問の仕方が悪かったですね。
あなたの推測では、その先に出口がある
と思って歩いていたのでしょうか? ”
” ・・何かを・・取りに行かなければ
いけない・・という認識・・かな・・ ”
” なるほど、つまり、何かを取りに来たが、
何を取りに来たかは分からない ”
” ええ、多分、そうだと思います ”
*
ここまでのインタビューを終えて、ようやく
” 目的 ” らしきものが見えてきました。
夢を見た本人としては、見知らぬ廃墟の
地下に一体何の用事があるのだろうと、
全く心当たりの無い状態です。夢の映像
だけで判断するならば、当然、彼女は
” 分からない ” と答えるでしょう。
しかし、その夢は ” 例え ” です。心の状態を
映像として例えた結果ですから、実際は
別の事柄を描いている。
これは、捲られたタロットカードを見て
占い師が何を意味しているのか理解
できても、一般人が ” 宙吊りの男 ” の絵を
見ても全く意味が分からない状態と
似ています。
カード指さして ” 心当たりは? ” と聞けば、
当然 ” さっぱり ” と返ってくる。
しかし、夢の場合は、彼女自身が作った
ものですから、カードの絵柄を描いたのは
彼女です。つまり、その絵柄が何を意味
しているか、本当は知っている。
それが思い出せないのは無意識に描いた
ものだからです。
この夢は、彼女の描いたカードの絵柄です。
そこには ” 暗闇に続く地下通路 ” が
描かれている。
今回はその絵柄に心当たりは無いが
” 何かを取りにいかなければならない ”
という認識だけが、この夢における
” リアル ” です。それ以外は ” 例え ” です。
では、一体、何を取りに行こうと
しているのでしょう?
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回収すべき ” 何か “
無論、何を取りに行くつもりだったのか、
彼女は知りません。現時点では絵柄だけを
見ていますから。
まずは、夢の舞台が見知らぬ廃墟の地下
という部分に着目してみましょう。
そこは普段、人が訪れるような場所では
ないと言えるでしょう。ましてや地下
となればなおさら。
それは ” 廃墟 ” ですから、かつては
使われていたが、今は使われなくなった
という解釈も出来そうです。
なぜ、そんな場所に回収すべき
” 何か ” があるのか?
もし、この夢における廃墟を彼女の中の
” 寂れた記憶 ” と解釈するなら、
廃墟を訪れた彼女は、忘れ去ったはずの
記憶にもう一度アクセスするために
やってきた、と考えることも出来る。
そして、” 何か ” は暗闇の向こう側にある。
無論、暗闇は彼女の潜在意識が行った
演出の一つであり、意味があります。
普通は、地下に降りるなら余計な恐怖感を
与えないためにも明かりの一つでも用意
するでしょう。
要するに、明るくては困るのです。
この夢における ” 何か ” は、彼女の中の
タブーであり、誰にも知られたくない
秘密であり、思い出したくもない記憶です。
それを暗闇の奥深くに隠した。
この推測が合っているかどうかは、
多分、” 叫び声 ” が鍵になるでしょう。
*
さて、困りました。ここから先は、
” 地雷 ” が埋まっている可能性があります。
” 叫び声 ” と彼女の秘密に何からの関連が
あるのは明らかです。先ほどの質問では、
” 叫び声 ” にあまり関心が無いといった
彼女のリアクションも少々気になります。
もしかすると、彼女は叫び声の主が誰かを
知っており、また、単なる悲鳴ではなく
明確なセリフがあったとしたら・・
彼女はそれを知っていて、筆者に嘘を
ついている可能性もあります。
この危険地帯に一歩足を踏み入れた時に、
彼女がどんな反応をするのか・・
筆者だけが吹き飛ぶのであれば、それほど
深刻な話ではありません。問題は依頼者が
傷つくかもしれないということです。
それは、どうしても避けなければならない。
” この夢には、あなたの中のタブーが
描かれているように思います ”
” タブー・・? ”
” これ以上、セッションを続けると、
どうしてもそこに切り込んでいくことに
なるかと思います ”
” どういうことですか?
私はどうすれば・・ ”
筆者は、彼女に夢の舞台が廃墟である理由、
そして、地下通路と暗闇の演出について
説明しました。そして、叫び声が謎を解く
鍵であることも。
全て話終えた後に、彼女に尋ねます。
” 叫び声について、私にまだ
話していない部分はありますか?
ノーコメントでも結構です ”
彼女はしばらく考えてから、答えます。
” ノーコメントで ”
成果の無い終わり
彼女の意向を尊重し、この時点で
セッションを終了することになりました。
彼女が暗闇の中に隠した ” 何か ” とは、
結局、謎のままです。それは彼女のみが
知っている。
すっきりしない形ではありますが、
筆者は単なる彼女の心の中に招待された
ゲストに過ぎないのです。
彼女はホストであり、今回の夢を作った
マスターでもある。館の主人が
” お帰りください ” と言えばゲストは
それに従うしかない。
仮に筆者が立場を弁えず、” 叫び声 ”
について、執拗に問いかけ続ければ
彼女は身を守るために壁を作るか、
攻撃的な態度を取るでしょう。
そうなれば両者の信頼関係は破綻し、
もはや続行は不可能。いずれにしても
途中でセッションを閉じることになる。
結果は、同じです。
ただ、後者の場合、彼女は傷つき、
二度と誰かに心の内を明かそうとは
しなくなるでしょう。
成果の無い終わりを選択することが
最善という場合もあるのです。
*
筆者が夢鑑定の依頼を受けてから、
セッションを開始すると、時々、
次のような反応を見せる依頼者がいます。
” もういいです。その話はしたくない ”
セッションが夢の核心に近づくほど、
依頼者に何か思い当たることがあるのか、
突然、口を閉ざしてしまうのです。
そうなると、それ以上夢について
掘り下げることが出来ないため、ほぼ、
その依頼はキャンセルという形で終わる
ことになります。
実は、こういった反応は特殊な事例
ではなく、至ってノーマルな反応です。
また、筆者に核心部分を隠したまま、
セッションを続けようとする依頼者もいます。
そういった場合、必ずインタビューの中で
ある質問をすると、その時だけ無関心に
なったり、回答が曖昧になったりします。
” 地雷 ” が近くに埋まっている
ということです。
ただ、依頼者によっては、核心部分を
隠しながらも夢の意味を解明できると
思っているため、そういった方は
セッションの続行を希望するのです。
そういった場合は、今回のような形で
終わることが多いでしょう。
鍵付きの箱
誰にも言えない悩みだからこそ、
心の中に引っかかり続けて夢になる。
なので、夢を読み解く過程で、他人に
覗かれたくない核心に触れてしまうことは
避けられない。
それは心の核心ですから、それが、
その人にとっては ” 地雷 ” の可能性もある。
例え、他人から見て何でもないことで
あっても、本人にとっては禁句だという
こともあります。
これ以上、夢について掘り下げると
依頼者の負担が大きいと判断すれば、
依頼者の続行への意思があっても、一旦は、
キャンセルを薦めることがあります。
無論、依頼者自身が望めば途中でも
終了します。
それによって、その人が自身が抱えている
ものと向き合う機会を失うことになった
としても、筆者は開きかけた心の扉を
そっと閉じるのです。
*
人の心の中には
” 鍵つきの箱 ” があります。
箱の中には、抑圧した感情や忘れたい記憶、
その人にとって都合の悪いものが入っている。
夢を読み解くためには、鍵を外して蓋を
開かなければならない。そうしなければ、
夢の意味を知ることは出来ない。
最も負担の少ない方法は、自身で読み解く
ことです。
自分で読み解いた夢が、
目を背けたいものを描いていたとしたら、
誰にも知られずして蓋を閉じ、再び鍵を
かけることも出来る。もし、必要なら、
いつでもそれを開くことが出来る。
それは、あなたの ” 箱 ” です。
そして、それを開く ” 鍵 ” は、あなたの
ポケットに入っている。
時々、夢の中で、あなたはそれを開いて
確認する。
自分が何者か、どこから来たのか、
何を知っているのか、何を知らないのか、
” 罪 ” を隠すはずの箱に自分の大切な
思い出や、あなたが求め続ける人生の
” 答え ” も入っている。
ところで、今朝、何か夢を見ましたか?
では、パジャマのポケットに
手を入れてみましょう。
それです。
大丈夫・・・誰も見ていませんから。
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