家族や知人が登場する夢。
夢の中で、なぜか、いつもと雰囲気が違って見えることがあります。例えば、顔が何となく別人に見えた。態度に若干の違和感を持った。” こんな人だったっけ? ” と、今までのイメージとは違う印象を受けるといった場合。
特定の人に対する夢の中のイメージが、現実世界のイメージと違っているという現象は、単なる記憶違いではなく、あえて仕組まれた ” 演出 ” の一つかもしれません。
では、具体的に、登場人物に感じた違和感について見ていきましょう。
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片思い
次は、とある男性が見た夢の一例です。
停車中の列車に乗っている。
意中の女性が向かい側の座席に座り、隣の友人らしき女性と雑談をしている。
化粧のせいなのか、何だかいつもより綺麗には見えない。
ドアが開くと、二人は立ち上がり、しゃべりながら列車を降りていく。
自分は列車に残る。
日常の風景を描いているようにも見えますが、彼が日常生活で列車に乗ることは、ほとんど無いということです。
つまり、普段は馴染みの無い場所が、夢の舞台として設定されている。あえて、この場所を選んだ潜在意識の何らかの意図が感じられます。
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筆者は彼に、意中の人であるその女性とは、どういった関係なのかを尋ねます。
その女性は同じ大学に通う学生で、会話をしたこともなく、ただ、遠くから眺めているだけで、多分、向こうは自分の顔さえ覚えていないだろうと今の状況を説明しました。
つまり、完全な片思いの状態。
そして、彼自身がかなりの奥手ということで、自分の気持ちが相手に伝わることは永久にないだろうと思っているようでした。
彼の恋愛に対する消極的な性格は、この夢を読み解く一つの手掛かりを与えています。彼は夢の中で、叶わぬ思いを断ち切るための努力をしている。
夢の舞台となっている駅は架空のものということなので、象徴的意味合いが込められています。
” 停車中の列車 ” という状況を用意して、意中の人と自分を車内に配置している。
そして、一旦、配置しておいた意中の女性を列車から降ろし、彼だけが取り残される状況を作っています。
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彼は夢の中では、自分は何か用事があって別の駅で降りなければならない、という認識だった。つまり、彼の潜在意識は、同じ駅には降りられないという設定をあえて採用しています。
なぜか?
それが、やもえない事情なら、彼女への気持ちも諦めがつくから。
” タイミングが悪かった。アプローチできなかったのは自分のせいではない ”
そんな彼の言い訳が、都合の良いシチュエーションを設定しています。
また、多くの人々が乗降する停車中の列車内という慌ただしい時間帯を選択したのも、話しかけずらい状況を作るためです。
この場合の女性が降りた駅は、彼にとって ” 自分とは無関係な別世界 ” を意味します。
いつもと違うイメージ
では、この夢のもう一つの演出。
意中の女性の顔が、いつもとイメージが違っていたという部分は、どのように解釈すべきでしょう?
彼いわく女性は、いつもよりも不細工に見えた。
この不可解な演出は、夢の舞台を停車中の列車内にしたことの延長線上にあります。つまり、彼は諦めるために意中の人をいつもよりイメージダウンさせている。
夢の中で彼女と一緒にいた友人は、彼には理解出来ないガールズトークを延々と話していた。
友人は、” 盾 ” です。
意中の人と視線を合わせる機会は無かった、という口実を作るための。
そして、二人は、彼に全く気付かないまま立ち去っていく。彼はその様子を見ながら、彼女がいつもと違って、都会的で、よそよそしく距離を感じたと言います。
暗く冴えない男が、入り込む余地の無い状況をあえて再現しているのです。
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さて、この夢は、単に、叶わぬ恋を諦めるために描かれたものなのでしょうか?
確かに、そう解釈することができます。ただ、一つ引っかかるのは、夢の舞台が停車中の列車であるという点。
先ほどは、諦めざるえない状況を作るためということでしたが、逆に舞台を駅のホームにして意中の女性が列車に乗って去っていくというストーリーでも目的は達成できます。
しかし、夢は列車内の出来事として描かれている。
駅が動きの無い静止した世界なら、列車は動きを伴う時間的主体です。言い換えるなら、駅は時計の盤面に刻印された数字、列車は秒針でしょうか。
つまり、この夢の伝えているもう一つの意味は、彼は、彼女への気持ちを断ち切って前進しようとしているのです。
彼が列車に乗り続けているのは何か用があって、ということになっている。用事について尋ねてみましたが、それは、よく分からなということでした。
つまり、行き先は ” 未確定 ” であった。
停車中の駅は ” 現在 ” そして、彼が向かう先は ” 未来 ” 彼の視点は、同じ場所に留まるという現在にではなく、未来に向けられています。
夢と現実の境界線
さて、今回は、ある人のイメージが夢の中で違って見えるというケースを紹介しました。
もし、あなたの夢に登場した人物が、いつもと雰囲気が違って見えるとしたら、あなたの中に、違っていなければならない理由があるということです。
そこには願望や心理的葛藤など、様々な要因が考えられる。その一つ一つを振り返りながら、思い当たる事柄が無いか探してみましょう。
この夢に限らないことですが、夢の内容だけで分析しても、その意味を読み解くことは出来ません。
今回の夢では、彼の性格、恋愛についての消極的な姿勢を知ることで、ようやく、夢が何を伝えようとしているのかを理解することが出来ました。
夢は、現実世界とリンクしている。夢の世界と現実世界は地続きです。
今回の夢を見た彼にとって、動き出そうとしている列車に乗り続けているという状況は、心の中で起こっている ” リアル ” なのです。
それは、彼が日々、現実世界で感じていたことであり、それに対する彼自身の ” 答え ” でもある。
*
夢は、人が眠っている間に見た単なる幻影ではありません。
あなたが起きている時、日常生活で体験したこと、そこで感じたこと、常に考えていることなど、現実世界での出来事が夢のストーリーの一部なのです。
ドラマで例えるなら、夢が本編で、その前日にあった出来事が予告の場合もありますし、今日あった出来事が今夜見る夢でエンディングを迎えるという場合もある。
もしくは、数日後に起こる出来事のエンディングを今夜、夢の中で見るということも。
現実と夢、現在と未来、そこには境界線は無いのです。
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