恋人や夫が浮気をしているという夢。
例えば、実際に、交際中のその方に前科があるとか、現在もその兆候が見られると言うならば、すでに疑念が心の中にあるわけです。
常にそういった疑念を持ち続けていれば、それが夢になったとしても、不思議ではありません。
ただ、夢は自分に都合の良いものを描くわけですから、夢の中で裏切られるような状況を描くのは、一見すると意に反しているようにも思えます。
また、身近な人間を疑うという心理は、それほど単純ではありません。
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修羅場
誰しも身近な人間に裏切られたくはない。しかし、そういった不安な気持ちとは裏腹に、
” あいつ、絶対、隠れて何かしてるよね。いつか尻尾をつかまえてやる ”
” どうせなら、この際、はっきりさせておきたい ”
というような明らかになれば都合の悪い事実を自ら望んだりすることもあります。そして、その決定的な証拠を見つけた時、
” ほら、やっぱりね。私の思ったとおりだった ”
というある種の答えを言い当てた満足感、達成感を得るのです。
なので疑り深い人が、恋人が浮気している夢を見たとしても、それは、裏切りの予兆というよりは、その人が望んだ展開を単に描いている。
そこには裏切り自体を望んではいないが、裏切られたことを明確にしたいという願望があるわけです。
この場合、夢に描かれるのは、あくまで本人の願望に過ぎず、潜在意識が恋人の裏切りに気づいたという ” 勘 ” とは区別する必要があります。
*
ならば、現実、浮気の兆候も無いのに、脈絡も無く裏切られる夢を見たとしたら、どう解釈すべきでしょう?
それは潜在意識の ” 勘 ” なのでしょうか?
次は、既婚女性が見た夢の一例です。
家に帰ると寝室のドアが半開きになっている。
覗き込むと女性が寝ている。
リビングに行くと、夫が格闘技の試合を見ている。
寝室の女が誰なのか追及するが、夫はテレビを見ながら空返事を返すだけ。
しつこく聞くと、ようやく何か答えるが、テレビの音がうるさくてよく聞き取れない。
彼女は、この夢を浮気の兆候ではないかと疑っているようでした。
「旦那さんに浮気の前科はありますか?」
「無いと思います。私の知る限りでは」
「最近、疑わしい出来事があったとか?」
「今のところは、何も・・」
「つまり、浮気の兆候らしきものは無いということですね?」
「それは、そうなんですが・・・なぜ、こんな夢を見たんでしょう。浮気を予知しているということでは?」
「もう少し掘り下げてみないと、何とも言えませんが・・ 」
一見すると、夫が自分のいない間に女性を家に入れ、彼女が帰宅し、鉢合わせになったというストーリーにも見えます。
「寝室に女性が寝ているので、旦那さんは寝室に入れずにテレビを見ていた、という見方もできますが・・」
「それは無いです。私の寝室ですから」
「それは・・つまり、あなたと旦那さんは、普段は別々の部屋で寝ている?」
「ええ、以前は二人で寝ていたんですが、夫のいびきが理由で別々に」
「旦那さんは別の寝室で?」
「あー、旦那は、今はリビングのソファーで寝てます」
「別々になったのは、つい最近ということですか?」
「いえ、もう一年以上経ちますが」
「つまり、旦那さんは、ここ一年はずっとリビングのソファーで寝起きされている?」
「はい」
寝室に眠る女性
筆者は、いくつかの質問をしていく中で、夫婦間に何かぎこちなさを感じました。
彼女の話では結婚三年目ということで、新婚時代が終わり、お互いの不満に妥協しながら、何となくやり過ごしていく時期に差し掛かっていた。
また、二人はまだ二十代前半ということで、キャリアや経済的な理由から、今のところ子供を作る予定は無いということでした。
*
さて、夢の中で彼女は、夫に対して詰め寄るが、テレビを見ている夫は空返事をするだけ。
夫が何か答えると同時に、テレビから大きな歓声が上がり、声がかき消されて聞こえないという状況。
「旦那さんは、格闘技をよく見るのですか?」
「はい、DVDとかで、よく観てますね」
「あなたは、全く興味がない?」
「ええ、全く。あんな血を流して殴り合うスポーツの何が良いのか・・DVDまで買って馬鹿じゃない、という感じです」
まず、理解しておくべきは、この夢を作ったのは彼女自身であるという点です。
つまり、自分の寝室に愛人らしき女性を寝かせているのも、夫にリビングで格闘技を観戦させているのも、彼女の質問に答える夫のセリフをテレビの歓声によって遮っているのも、全て彼女自身が仕組んだ演出です。
*
「ところで、寝室に眠っていた女性は、見知らぬ人物だったのでしょうか?」
「さあ、ドアの隙間から暗がりを確認しただけなので、顔までは・・」
「女性ということは確認できたわけですね?」
「ええ、長い黒髪が見えましたから」
「因みに、あなたの髪型は?」
「長い黒髪ですけど・・」
この時点で筆者は、この夢が何を意味しているのか、何となく見えてきました。
「もしかして、あなたか、旦那さんか、どちらか夜勤をされてますか?」
「ええ、私が夜勤から帰ってくる時は、旦那は大抵、寝てますね」
「つまり、旦那さんが起きている時は、あなたは、大抵、寝ている・・」
「ええ・・そんな感じです」
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かき消された一言
彼女が全く興味の無い格闘技の試合をリビングで観戦し続ける夫、そして、対照的に寝室で熟睡する女性。寝室で眠っているのは彼女自身です。
つまり、この夢は夫婦間の ” すれ違い ” を描いている。
では、帰宅した彼女は、一体、誰なのか?
” 私たちって、いつもこうなんだよね ” という冷めた視線で夫婦の現状を客観的に見つめているもう一人の自分。
「夢の内容から、あまり、旦那さんとは上手くいってらっしゃらない印象を受けますが・・」
「ええ、まあ、そうですね。あまり、いい状態ではないのかも・・」
「夫婦喧嘩などは?」
「そういうのは無いんですが・・いつからか、こうなってしまって・・」
「これといった原因は分からない?」
「そうですね・・強いて言えば、旦那が前より優しくなくなったと言いますか・・」
夢の中で彼女は、寝室で眠る自分を愛人だと思い込み、夫に問い詰める。
いつからか冷めてしまった夫婦関係。その理由を探し求めていた彼女に、潜在意識はそれを与えたのです。
” 分かったわ。浮気をしたってことにしておけば、それはあなたの求めている理由になるかしら ”
この理由であれば、夫婦間のすれ違いは彼女のせいではなく、夫のせいに出来る。ただ、彼女は気づいています。
実際に彼女が問い詰めているのは、寝室の愛人についてではありません。潜在意識が夢の中で見せた夫婦の今の姿に、本当は、こう言いたかったのでしょう。
” なぜ、私たちこんなふうになっちゃったの? ねえ、答えなさいよ! ”
彼女の潜在意識は、一つの夢で、夫婦の現状提示と不和の理由づけ、二つの仕事を同時に処理しています。
では、テレビから歓声が上がり、夫の声がかきけされてしまう場面には、どんな意味があるのでしょうか?
歓声は彼女が加えた演出ですが、要するに夫のセリフを聞きたくないのです。なぜなら、本当のことを言っているから。
” 俺を寝室から追い出したのは君だろ ”
そう、彼女は、夫がリビングで寝起きしていることに、罪悪感を持っている。
クローズな文化
さて、今回は浮気の兆候が無いにも関わらず、脈絡も無く浮気の夢を見ると言う例について解説しましたが、やはり、これは、この夫婦に限った事例です。
こうした夫婦に関する夢を解釈する上で重要なのは、二人の関係について整理しておくことです。
夫婦といっても、新婚であったり、破局寸前であったり、何十年も共に生きてきた高齢夫婦であったり様々です。また、夫婦間で閉鎖的文化が培われていることがあります。
例えば、トイレの便座を上げておくべきか、降ろしておくべきか、仕事が遅くなる時は、必ずメッセージを入れなければいけないとか、幼稚園の送り迎えは何曜日がパパで何曜日がママだとか、料理の味付けとか、
第三者から見ると奇妙に思えるルールや習慣といったものが、二人の間では当然のものとして共有されていたりする。そして、そういった特有の家庭内文化は夢にも影響を与えます。
今回の夢では、リビングのソファーで寝起きする夫、そして、ダブルベッドを一人で使う妻。夫はそれについて不満の一つも言わず、一年近くその生活スタイルを続けているわけです。
夢解釈に当たって、そういった夫婦間のクローズな文化をもう一度、再確認しておく必要はあるかもしれません。
*
では、実際に恋人や配偶者が浮気をする前兆を夢として見ることはあるのでしょうか?
あるでしょう。それは、全く可能性として無いわけではない。
ただ、浮気にも色々な状況があります。何年もこっそり付き合っているという場合もあるでしょうし、一晩限りの浮気もあるでしょう。
一晩限りの浮気を予知するというのは、なかなか難しいかもしれませんが、何年も付き合っている、または、何度もというなら、どこかしら綻びが出るはずです。
それに気づかないとしたら、夫婦間に気づけるほどの会話が元々無かったのか、もしくは、気づきたくなかったのか・・
いずれにせよ、夢を見ている時点で、現実でも夫婦間に何かしら問題があることを感じ取ってはいるはずです。要するに浮気が予知されている段階で、すでに自覚があるということです。
やはり、夢だけで浮気を判断することはできません。仮にそれだけを根拠に疑えば、夫婦間に不必要な溝が出来てしまうかもしれない。
まずは、コミュニケーションです。コミュニケーションが不足しているというのであれば、それは、浮気の事実があろうと無かろうと、憂慮すべきです。
夢とは、あくまで ” 主観 ” に過ぎないのですから。
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