複雑な夢を一つの物語として考える|心と仮想空間

もし、夢を見て、その意味を夢占いで
調べるとしたら、夢の舞台となった場所、
登場人物、行動など、要素一つ一つを
項目別に調べ、それらいくつかの解釈を
総合判断して意味を探るという方法が
一般的だと思います。

例えば、次のような夢を見たとします。

公園のベンチに座っている。

考えられるキーワードとして、
” 公園、ベンチ、遊具 ” などが挙げられる
でしょう。そして、夢から抽出した
キーワードを調べる。

シンプルな夢なので夢占いに解釈が載って
いる可能性もあります。ただ、次のような
シチュエーションならどうでしょう?

見知らぬ老人がベンチに座っている。
私は向かい側のベンチに座り、
それを眺めている。

少し、設定が複雑になってきましたね。
不足したキーワードを追加しましょう。

” 公園、ベンチ、遊具、老人 ”  

では、ストーリーの途中で子供が登場する
とします。さらにキーワードを加えます。

” 公園、ベンチ、遊具、老人、子供 ”

さて、この夢は、何を意味するのか?

実際に夢占いでキーワード検索しても
構いませんが、多分、よく分からない
といった結論になるかと思います。

構成がシンプルな夢ならば、キーワード
を使った一般的な夢占いの解釈で意味を
探ることは可能でしょう。ただ、設定が
複雑になっていくほど、その方法が通用
しなくなっていく。

ここで知っておいて欲しいのは、
キーワードで調べるために、夢をパーツ
ごとにバラバラに分解して、個別解釈を
するべきではないということです。
それによって得られるのは、継ぎ接ぎの
誤った解釈でしかない。なぜなら、夢は、
最初から一つの作品だから。

では、具体例を挙げながら、実際の
夢解釈について見ていきましょう。

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二匹の鳥と二つの鳥籠

次は、とある既婚の男性が見た
夢の一例です。

リビングテーブルの上に、
二つのケージが置いてある。
 
中には一匹ずつ小鳥が入っている。
 
右の鳥がケージの中をバタバタと
飛び回っている。
左の鳥は大人しくしている。
 
右のケージのフックが外れてしまい
鳥が脱走して部屋の中を飛び回る。
それから窓際に止まると首を傾げ、
外に出たそうにしている。
 
窓を開けてやると、鳥は飛んでいく。

この夢を見た彼は、夢占いの ” 鳥 ” という
項目、そして ” 鳥かご ” という項目を
調べた。” 鳥籠 ” は、夢占いでは
” 囚われた状態 ” を意味します。

そして、彼が、とりわけ心配したのは、
鳥が窓から飛び去って行く描写でした。
鳥には様々な意味がありますが、その中で
鳥が窓から飛び去るのは ” 誰かが旅立つ ”
という意味があります。そこで彼は、
この二つの意味から次のように解釈した。

” 家庭内を窮屈に感じた妻が家を
出ていく暗示 ”

二つのケージのうち左の鳥は自分を表し、
逃げ出した右の鳥は妻を表しているのだと。

筆者は尋ねました。

” 夫婦間で何か問題を
抱えているということですか? ”

彼は、そこが疑問だと言います。

” 妻に兆候は無く、夫婦関係も特に
悪くないと思うのですが・・
もしかしたら、笑顔の下では不満が
溜まっているのかもしれません。
だとしたら、原因が何かは・・ ”

この夢を見てからの数日間、夫婦の
会話が少なくなっていると言います。

” それは、あなたが意識してしまった
結果、ということでは? ”

” そうかもしれません・・ ”

筆者が気になったのは、夫婦間の問題を
二匹の鳥として描いた理由でした。

彼の解釈が正しいのなら、なぜ、一つの
鳥籠に二匹の鳥ではなく、わざわざ鳥籠を
二つ用意し、その両方に一匹ずつ鳥を
閉じ込めたのでしょう?

この設定に、何か別の意味があるように
感じました。

心理的経緯

まず、夢とは、それを見た本人の主観
によって作られるものです。それが、
未来の出来事であっても。なので、
この夢が何かの暗示であったにせよ、
彼の心の風景を表している。

要するに ” 夫婦関係の状態 ” そのものを
表しているというより、あくまで
” 彼から見た夫婦関係の状態 ” を表して
いるということに留意すべきです。

これは、彼の夢ですから、無論、奥さん
の視点は含まれていない。ですから、
基本的には奥さん本人の不満が、夢で
描かれることはありません。

ただし、将来的に夫婦間で問題が起こった
として、その時に彼が妻の不満を認識する
出来事があるなら、その認識が前もって
夢に描かれることはありえます。

筆者は尋ねました。

” あなた自身は、奥様に対する不満は
無いのですか? ”

彼は答えます。

” 家の事をやってくれるので、特に不満は
ありません。いつも感謝しています ”

” 奥様は専業主婦? ”

” ええ、実は・・妻はあまりメンタルが
強くないので・・仕事の方はちょっと・・ ”

” それは、あなたの希望ですか?
それとも、奥様の? ”

” 僕ですね・・ ”

それから、しばらくセッションを続けて
いく中で彼は次のような話をします。
自分が仕事から帰ってくると、妻は
仕事の話をよく聞いてくると。

” もしかしたら、妻は働きたがっている
のでしょうか? ”

” なぜ、そう思われるのですか? ”

” 何となく・・ ”

” それについて奥様にお尋ねになった
ことは? ”

” 無いですね・・ ”

” 何か尋ねられない理由でも? ”

” そうですね・・
結局、家にいてほしいんだと思います。
仕事から帰ってきて、あいつの顔を
見るとほっとするので。ただ・・”

” 何か気がかりでも? ”

” 夢を見てから、考えていました。
自分のエゴで妻を家に縛り付けている
のではないかと・・ ”

” 奥様は、それについて不満を口にする
といったことは無い? ”

” ええ、一度も無いです ”

彼の話を聞終えて、筆者は今回の夢に
別の意味があると気づきました。

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二つの心象風景

では、夢の内容を思い返してみましょう。

リビングテーブルに二つのケージが
置かれている。リビングは彼にとって
妻と一緒に過ごす部屋。これが夫婦に
関する夢であることは、彼にも何となく
察しがついたのでしょう。

二つのケージの意味は、何でしょう?

左側の大人しくしている鳥が彼自身、
そして、右側の暴れている鳥が、
妻を表しているということでしょうか?

筆者は、二つのケージは、どちらも
彼の心の風景を表しているのだと
思いました。

つまり、左のケージは、彼が望んでいる
状態。鳥は大人しくしていて安全な
ケージの中で守られている。それは、
現在の彼の妻との向き合い方をケージ
の中の鳥として表現しています。

そして、右側のケージ。鳥はケージの
中で忙しなく飛び回っている。こちらは、
彼が懸念している状態です。つまり、
” 本当は、こうなっているのでは? ”
という彼の気がかりが心の風景として
描かれている。

要するにこの夢は、彼の願望とそれに
対する懸念の両方が二つのケージを使った
心象風景として表現されているのです。

さて、彼の中に罪の意識があり、それを
描くとしたら、必要なのは右側のケージ
だけで十分でしょう。左側は余計な演出
のようにも思える。

なぜ、二つのケージが必要だったのか?

その謎を解くには、彼の潜在意識が心の中
に引っかかり続ける罪悪感をどう処理
しようとしているのかを理解する必要が
あります。そして、それは夢の終盤に
起こる出来事から推測出来る。

二つのケージは、両方とも彼の心の状態
を表しています。それは葛藤する二つの
感情でもある。

夢の前半では、彼の二つの感情は均衡
しています。どちらにも偏っていない状態。
現状維持を望む気持ちが反面、現状維持は
許されないという気持ちが反面。

ただ、それは彼の心で起こっていること
ですから、本来は一つのものをわざわざ
二つのケージに分割して描いているのです。

なぜ、分割したのか?

それは、問題を切り離し、二つの感情を
個別に処理するためです。ただし、葛藤
しあう感情を描いているわけですから、
どちらかを選択すれば、どちらかが選択
できないという相反関係。だから、
本来は個別に処理できない。

そこで潜在意識は、心の中に仮想の
空間を二つ用意し、右と左に分けた。

都合によって人格を二つに分ける二重人格
と処理の方法が似ていますが、夢の世界
では心を区切って分割するということは
よく行われます。

例えば、夢の中で室内と野外という
設定が描かれても、それは心という
大きな空間の中で仕切られた内と外です。
実際は、一つの空間に過ぎない。

だから、夢の中に区切られた空間が二つ
存在したとしても、それらは
” もし、こんなふうに分けるとしたら ”
という仮想的設定です。

要するに、ケージの中の二匹の鳥は、
どちらも奥さんの身代わり的存在です。

なぜ、窓を開けたのか?

彼の潜在意識は、一旦、二つのケージに
分割した後、切り離した問題に対して、
処理を行っています。

扉についたフックが外れ、鳥は逃げ出し、
部屋の中を飛び回る。

ここで行われている処理とは罪悪感の
解消です。ただし、彼がケージの扉を
開いたわけではなく、フックが勝手に
外れるという演出です。だから厳密には、
フックが外れる瞬間は、彼の中の罪悪感
が抑えられなくなった結果です。

彼の潜在意識は、二つのケージのうち
右側のみを解放し、左側を現状維持
とすることで、相反する気持ちの両立を
図ろうとしている。

現実世界では、自分の妻を二分割する
ことはできませんが、夢の世界は仮想
ですから、設定次第で半分を解放し、
半分を閉じ込めておくことが可能。
つまり、夢の中で実現不可能な状態を
実現しているわけです。

ケージを逃げ出した鳥は窓際にとまり、
彼は窓を開ける。

この場面では、彼自身が鳥を外の世界へ
と逃がしています。この行動から見て、
妻が家を出ていくという彼の解釈に
矛盾が生じています。

彼としては、妻が家を出ていくと
言い出せば、無論、反対するでしょう。
玄関のドアを開けて ” いってらっしゃい ”
とはならない。しかし、夢の中では、
彼自らが窓を開けている。

彼が将来的に離婚に同意するという
可能性も考えられますが、左のケージ
には閉じ込められたままの鳥がいます。
それは、疑似的な離婚を体験したかった
ということでしょうか?

” 離婚を考えられたことは? ”

” いいえ。それは、
一番、避けたいことです ”

どうやら、離婚の線は低そうです。

” なぜ、窓を開けようと思ったのですか?
捕まえてケージに戻そうとは、
思わなかった? ”

” ああ、そうですね・・
外に出たそうな顔をしていたので・・ ”

” あなたは窓を開け、鳥は飛び去っていった。
その時、何か感じましたか? ”

” ・・寂しく思いました。
でも、すっきりした感じもあって・・
それで振り返って、もう一匹を・・ ”

” 逃がそうと思った ”

” ええ・・ ”

この夢は、妻に対する彼の気持ちの変化
を描いています。

最初は、二つのケージに象徴されるように
相反する気持ちの両立が目的だった。
しかし、ケージのフックが外れた瞬間、
彼の中の鬱積した何かが音を立てて
崩れていった。

セッションの終わりに、彼は言いました。

” 仕事について妻と話してみます ”

” ええ、そうしてください ”

分解できない作品

夢とは、全体で一つの物語を描いている。

今回は彼の中の葛藤がケージの中に
閉じ込められた二匹の鳥という形で表現
されていました。それは、
” 鳥 ” と ” 鳥籠 ” ” 窓 ” といった
個別のキーワードの集まりではないのです。

彼の妻に対する思い、それが複雑な設定
を選び、ストーリーとして動き出した。

そこで行われた全ての演出は、目的を
果たすためには必要不可欠であり、
そのどれもが深く関連し合っている。
故に、キーワード別に分解できない。

では、冒頭で例として挙げた夢について
もう一度、振り返ってみましょう。

夕方、薄暗い空。
見知らぬ老人がベンチに座っている。
自分は向かい側のベンチに座っている。
 
子供が老人に近づき、手を取る。
二人は公園を出ていく。

もし、この夢を解釈するとしたら、
夢を見た本人にいくつかの質問をする
べきでしょう。

その公園は実在するのか?
質問に対し、次のような回答がある。

公園は実在し、子供の頃に遊んでいた
場所に似ていると。暗くなっても、
なかなか家に帰らず友達とそこで走り
回っていた。

潜在意識が、今、その記憶を掘り起こし、
公園を舞台としたのは、なぜか?

それは、夢を見た彼自身が、人生の指針
を見失い途方に暮れているからです。

家に帰れない不安気な老人は、彼の思う
自身の将来。先の見えない時代でどう
生きるべきかが分からなくなっている。

子供は、希望を持っていた頃の自身の姿。
薄暗がりの公園は、
” 日が沈んでも帰らなくていい場所 ”  

これは、昔、筆者が見た夢です。

 

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