長編物語の夢|壮大な体験をした感覚と心理 (1)

映画のようにとても長いストーリーの夢を見ることがあります。

目覚めた時、旅をしていたような、壮大な物語小説を読み終えたようなあの不思議な感覚。

長編の夢は、短い夢に比べて解釈が難しいのも確かです。様々な場面、多くの要素が含まれており、辻褄が合っているようで合っていない筋書、複雑に構成されたシナリオ。

多分、その内容から断片だけをいくつか切り取って、インターネットで調べても明確なことは分からないでしょう。

それは、シンボルの集合体ではなく、あくまで潜在意識が作り出した一つの ” ストーリー ” なのです。

長い夢について解説するにあたり、ここでは一つの具体例を取り上げながら三回の記事に分けた構成で解説していきます。

今回は夢の内容を中心に見ていき、第二回、第三回で実際に夢解釈を行っていくという流れになります。

このブログを始めて訪問した人にとっては、冗長で難しく感じられるかもしれません。

初めての人のためのカテゴリーを用意してありますので、そちらで関心のあるテーマがありましたら、一読してみることをお勧めします。

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会話の中へ

では、夢の一例を見ていきましょう。次はとある女性が見た夢の冒頭部分。

友人Aから電話がかかってくる。声の様子がいつもと違う。
 
私が ” 何かあった? ” と尋ねると、Aは会社であったことを話し始める。その内容は次のようなものだった。
 
突然、上司に呼びつけられる。
 
会議室に入ると三人の役員らしき人物が座っており、Aの前で何やらヒソヒソと話し合っている。

ここでは、夢でよく見られる演出が使われています。

「つまり、Aさんの役をあなたが演じていたということですか?」

「はい。最初は電話で話しているという設定だったんですが、途中からどういうわけか話の中に入り込んだ状態になりまして・・」

「それは、Aさんが体験したことをあなたもリアルに体験したという意味ですね?」

「ええ、ちょっとややこしいんですが、夢の中で私は A でした」

彼女は電話で友人Aの話を聞いているうちに、いつの間にか自分がAとなって会社であった出来事を追体験していたと言います。

夢は続きます。

目の前で役員たちが話し合っている間、自分は立ったまま、事の成り行きを黙って見ている。
 
しばらくして話がまとまったのか、役員たちは何も告げずに会議室を出ていく。
 
会議室には、私だけが取り残される。

「話合いは、どういった内容だったのでしょう?」

「分かりません。会話が聞き取れなかったので・・ただ、意見が割れているように見えました」

「つまり、三人がそれぞれ違う意見だった?」

「いえ、二対一でした。一人が納得してないといった感じで」

「他の二人はどんな様子でした?」

「そうですね。特に騒ぎ立てることじゃないといった様子で一人をなだめていました」

「三人の役員の間に上下関係は?」

「多分、真ん中の人が一番偉い印象でした。納得してない人が一番権限が弱い感じだったと思います」

「話がまとまったというのは、つまり、二人の意見が通ったということですね?」

「そうです」

「あなた自身は、話合いに加わらなかった?」

「ええ、ただ、黙って終わるのを待っていました」

「会話の内容は聞こえなかったそうですが、内容についてあなたの中に憶測みたいなものはありましたか?」

「うーん・・はっきりとは言えませんが、多分、友人Aの処遇についての話・・だったのかも・・」

筆者は、夢の冒頭に登場している友人Aが、彼女にとってどういった存在なのかを知る必要があると感じました。

「Aさんは同じ会社の同僚ですね?」

「いえ、彼女は別の会社で働いているのですが、今、産前休暇を取っていまして」

「それは、あなたでなくてAさんの話ですよね?」

「そうです。私は独身なので」

ここまでの話を聞くと、休暇中の友人の処遇について会社が話合いをしているという内容の夢のようにも見えます。

さて、出産を間近に控える友人Aの話が、なぜ、彼女の夢になっているのでしょう?

ストーリーの不明確な部分

続きを見ていきましょう。

私がAの話を聞き終えると、母親が慌てた様子で部屋に入ってきてテレビをつける。
 
どこかの企業が記者会見している。
 
映像を見ていると、またもや会見の現場に入り込んでしまう。

「会議室の場面から電話の場面に、一旦、戻られたんですね?」

「ああ、そうなりますね。Aから私に戻った感じでしょうか。それに・・」

「何でしょう?」

「なぜか、部屋に入ってきた母が若かったような気がするんです」

「年齢的にということですか?」

「私が子供の頃に見ていた、まだ、若い時の母だったような・・」

「なるほど」

「会見の現場に入り込んだとありますが、どういった状況だったのでしょう?」

「私は記者席にいました」

「つまり、あなたは記者として会見に参加していた?」

「多分・・そうだと思います」

「会見の内容は覚えていますか?」

「内容ははっきりしないんですが、何か、この件を有耶無耶に終わらせてはいけないという気持ちがあったのは覚えています」

「会見を開いた企業側の様子は、どんな感じでした?」

「何かを隠蔽しようとしているような、早く収束を図ろうとしているような様子でした」

「会見中、ご自身が何か質問されたりはしましたか?」

「私はしませんでしたが、周囲の記者が、情報を開示しろ!と強い言葉で質問をしていました。会場が荒れているなと感じました」

ストーリーは次の場面へと移ります。

パソコンで何かを調べている。
 
ダークウェブを閲覧していると、とある怪しげなリンクを見つける。
 
気になってクリックする。
 
リンク先で、大変なものを見てしまったと思い、怖くなってブラウザを閉じる。

「記者会見から、突然、場面転換したんですね?」

「ええ、でも、記者設定は続いている気がしました」

「つまり、記者としてインターネットで何かを調査していたということですか?」

「多分、そういうことだと思うのですが・・」

「何を調べていたか覚えていますか?」

「記者会見で明らかにならなかったことを調べていたような気がします。ただ、サイトの雰囲気が何というか不気味で・・」

「ダークウェブというのは、違法な取引が行われたりするネット上の闇の世界みたいなものですよね?」

「はい。足を踏み入れてはいけない場所に来てしまったという感じです」

「リンク先で何を見たんです? 例えば、企業の汚職を証明する名簿とか」

「とにかくヤバイものを見てしまったという感覚しか覚えてなくて、写真だったか、名簿だったか・・・すみません。思い出せません」

セッション中、筆者は彼女の話を聞きながら、度々、彼女が答えることが出来ない不明確な部分があることが気になっていました。

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複雑なストーリー構成

狭い裏路地の建物の影に隠れている。
 
大通りでは、数人の男が自分を探し回っている。
 
裏路地の方に入って来たので慌てて走り出す。
 
どこかの民家の中に入って追手を巻こうとするがしつこく追ってくる。

「これも、場面が転換したんですね?」

「はい、追手から逃げている途中のようでした」

「追手というのは警察ですか?」

「いいえ、多分、見てはいけないものを見てしまったので、どこかの犯罪組織が追ってきた、という設定だと思うんですが・・ とにかく、つかまったら命は無いと思って必死に走りました」

「ああ、なるほど。犯罪組織の秘密をダークウェブで目撃したので追われているという設定なんですね?」

「ええ、多分・・」

そして、ストーリーは終盤へと向かいます。

夕暮れの駐車場。
 
車から数人の男たちが降りてくる。最後に友人Aが泣きながら降りてくる。
 
” こんな事になってごめん。私が電話したせいで ”
 
電話の向こう側でAが謝っている。
 
” いいよ、大丈夫だから ” と私はAを慰める。

「これは、追いかけられる場面の続きですか?」

「はい。追いかけられて、最後に駐車場に来たという認識だったと思います」

「Aさんは、組織に囚われた人質として登場しているのですか?」

「人質というよりは、私に情報をリークした組織内部の裏切り者という立場だったと思います」

「最後にあなたがAさんを慰めている部分ですが、これは、切り替わって冒頭の電話の場面に戻ったということですか?」

「そうです。いつの間にか駐車場ではなく自宅で電話をしているという状況に戻っていました。これも全てAの話の中ということなんでしょうか?」

これが彼女が見た夢の全容です。とりあえず、解釈を始める前にストーリーを場面ごとに整理してみましょう。

夢の冒頭、友人Aから電話がかかってくる場面。

それから、会議室の場面。

再び電話の場面に戻り、そこから記者会見へと話は移っていきます。

会見に記者として参加する場面。

そして、記者としてネットリサーチをしている場面。

犯罪組織に追われる場面。

夕暮れの駐車場の場面。

最後に電話の場面に戻る。

突然の場面転換が何度か行われているが、何となく話としては繋がっているという描写になっています。

また、電話をしている場面がストーリーの冒頭、途中、最後に挿入されている。

逆の視点で見ると、友人Aと電話をしているというシンプルなストーリーを中心に、いくつかの場面を挿入した構成になっているようにも見えます。

なぜ、潜在意識はこのような構成のストーリーを必要としたのでしょう?

夢の中の ” 友人A “

まず、彼女に、夢の重要人物と思われる友人Aについて質問をしました。

「Aさんとは、どれぐらいのお付き合いになるのでしょうか?」

「Aとは学生時代からの付き合いで、お互いに別々の道へ進みましたが、今でもプライベートで会ったりしています。もう、十年以上になります」

「Aさんは、現在、出産を控えているということですね?」

「ええ、そうです」

ここが最初の奇妙な点です。

友人Aは、現在、休暇中で仕事から離れている。しかし、夢の中では彼女に当日会社であった出来事を報告するという設定になっています。

「つまり、Aさんは予定日が近い状態で会社で働いているという設定だったということですか?」

「電話だったので実際に確認したわけではないですが、多分、その設定で合ってると思います」

「Aさんの声の様子が変だったとありますが、具体的にはどんな印象でしたか?」

「Aは動揺すると声が震えるのですぐに分かるんです」

「現実でもそういった電話が?」

「ええ、あの子は情緒不安定なところがあって・・今も精神的に滅入っているようで私が話を聞いてあげると落ち着くらしく・・」

「話せる範囲で結構ですので、どういったことを相談されるのか、かいつまんで教えて頂けますか?」

「そうですね・・夫婦間の事とか、この前は体調が良くないという話でした。私には妊娠の経験が無いので苦しみが分からないのですが、見ていると、とても大変そうだなと思います」

「夢の中の会議室は、あなたが働いている会社のですか? それともAさんの勤め先?」

「架空の場所だと思います。役員も知らない人たちでしたし、Aの職場にも入ったことがないので、多分、私の勝手なイメージだと思うんですが・・」

「会議室の場面では、あなたがAさんの役をやっていますが、夢の中であなたは妊娠している設定だったのですか?」

「いいえ、妊娠はしてませんでした」

この時点で筆者は、彼女にとって友人Aは、何らかの象徴的人物として登場しているのではないかと思いました。

身体的にも精神的にも辛い状況の友人が ” 女性としての宿命 ” という大きな試練を背負っているように見えたのかもしれません。

この夢は、彼女自身が作り出したものですから、そこに登場する人物も、また、彼女の都合によりキャスティングされた役者ということになります。

無論、夢の中の友人Aは、現実世界の友人Aとは別の存在であり、彼女の中の ” イメージ ” に過ぎない。

では、彼女の潜在意識は、なぜ、夢の中で ” 試練を課せられた人 ” から自分へ電話をさせたのでしょう?

続き

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