形あるもの、変わっていくもの

寝転んだまま、小さな天窓から見える
空に浮かんだ雲を眺めている。

それは、ゆっくりと左から右へと流れていく。

ハート型にも見えるその雲は、
何となく形を崩しながら、
原型を失っていく。

ただ、原型と言っても、
それを見ている人が決めたものに過ぎず、
雲には関係ない。

雲にとって、地上から
自分がどんな形に見えているのかは、
どうでもよいのだ。

そもそも、何かの形になるために
努力をしているわけでもなく、
何らかの形になったからと言って、
他の雲と何も変わらない。

変化していく一瞬を切り抜いて、
それがただハート型の記号に似ていた・・

それ以上でも、それ以下でもない。

ただ、そこにある。

特に意味は無いけど、人は、
時々、空を見上げて雲を眺める。

意味が無いからこそ眺める。

形あるもの

誰もが生きていく上で ” 成果 ” を欲しがる。

形として残る成果を。

仕事で認められること、
恋愛や結婚、肩書、資産、家族・・

形あるものが人を幸せにする。

それゆえに、形がいつか失われたときに
途方に暮れ、失望し嘆く。

*

小さな少年が、
お気に入りの玩具が壊れてしまって、
半べそになっている。

両親が新しいのを買い与えても、
” あれじゃないとイヤだ! ”
と首を横に振って泣いている。

お爺ちゃんがやってくると、
玩具を手に取り壊れた部分を確かめる。

少年は、目を擦りながら
その様子を心配そうにして見上げている。

それから、お爺ちゃんは、
ガレージから工具箱を持ってきて、
それを分解し始める。

しばらくして、ネジを絞め終わると、
それを少年に手渡した。

少年は目を輝かせて笑顔になった。

*

人は ” 形 ” を追いかける。

そこに悲しみも喜びもある。

それが、一つの物語になる。

” 形 ” がなければ生まれなかった物語。

何かを創造しようとすれば、
目に見えるものが必要になる。

変わっていくもの

月日が流れる中で、
形あるものが失われていく。

せっかく築き上げてきたものが
風に散っていく砂のように消えていく。

変化していくことを
逃れられる人は誰もいない。

*

少年は、いつか、
お爺ちゃんに修理してもらった玩具で
遊ばなくなるだろう。

お爺ちゃんは、それを知っている。

いずれ、もっと新しいものを
欲しがるだろう。

成長していく少年に合わせて、
両親が買い与えた玩具のように。

それも知っている。

それを知りながら壊れた玩具を修理した。

その時の少年には、
それが必要だったから。

それが小さな孫にしてあげられる
数少ない親切のうちの一つだったから。

*

変わっていくことは自然の摂理。

誰も、変わっていく
あなたを責めたりしない。

本来の姿

空に浮かんだハート型の雲は、
やがて、ちぎれて二つになる。

それぞれが、
それぞれの形を持つようになる。

あたかも、最初から、
そうであったかのように。

いや、そうだったのだ。

僕は、二つに引き裂かれた
その後を見ているわけじゃなく、

ハート型であることが、
本来の姿だと思い込んでいただけなのだ。

最初から、
ハート型の雲なんて無かった。

いずれ、二つの雲は消え去るだろう。

最初から、
そこに無かったかのように。

*

” 本来の姿 ” とは何だろう?

雲で言うなら、全ての瞬間がそれだ。

どれも、現実であり、
その一瞬を過ぎれば ” 刹那の夢 ” になる。

多くの人は理想を求め、努力し続ける。

形ある何かを手に入れるために。

それは、決して間違ったことじゃない。

もし、人々が、
それをやめてしまったら、
物語も終わってしまうのだ。

*

童話の中で出会った王子様とお姫様は、
いつまでも幸せに暮らさなきゃいけない。

それを読み聞かせる子供たちに
悲しい思いをさせないために。

子供たちに理想の世界を描いてもらうために。

そして、それを実現してもらうために。

それが、当初描いたイメージとは、
少し違っていたとしても、

別の形だったにせよ、

あなたの心の中にある理想は
いつか実現する。

あなたが、それを望まない限り、
この物語にエンディングは来ない。

これは、あなたの物語なのだから。

 

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