登場人物への共感|誰かを慰める夢

夢の中で登場人物とコミュニケーションを
取るときに、なぜか、相手の気持ちが
痛いほど分かる。

一言言葉を交わしただけで、
瞬時に何を言いたいか理解出来てしまう。
目を見ただけで感情が伝わってくる。

こうした登場人物に対する ” 共感 ”

なぜ、その人物の気持ちが
大した会話も無いのに分かるのでしょう?

それは、夢の作り手があなた自身だから。

その登場人物をキャスティングしたのも、
その人物にセリフを割り当てたのもあなた。
そのために、登場人物は、しばしば、
あなたの本心を代弁することがあります。

しかし、ここで一つの疑問が浮かぶ。

夢の中では、なぜ、自分で本心を
言わずに別の人物にそれを代弁させて
いるのでしょう?

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フェンスの向こう側

次は、とある男性の見た夢の一例です。

高い建物の屋上にいる。
 
男がフェンスの向こうに座り込んで
肩を落としている。
 
自分は男を説得しようと励ましている。

夢の中の登場人物は人生に失望して、
ビルの屋上から身を投げようとしており、
それを、彼が必死で説得しようとしている。

彼は、男を説得しながら、自分自身も
泣いていたと言います。自分の前向きな
セリフに自分で感動してしまいボロボロと
泣いてしまった。

最後に男は、説得に応じ、
フェンスの向こうから彼に手を伸ばし、
彼は、それをガッチリと両手でつかんだ。

そこで目覚めた。

夢占いでは、こうした死に関する夢は、
” 生まれ変わること ” ” 再スタート ”
を意味するとされています。ただ、
今回の夢では、自分が誰かの死を止める
という少々変則的なシチュエーションです。

夢占いどおりの解釈でいけば、誰かの
人生の再スタートを彼が阻んでいる
ようにも見える。

しかし、彼にそのような夢を見る動機は
ありませんでした。この夢は、もう少し
別の視点で読み解く必要がありそうです。

彼の抱えているもの

筆者が、夢の内容から最初に注目したのは、
二人を隔てる ” フェンス ” です。

この夢の構成は ” フェンス ” という
境界線によって、人生に落胆した世界と、
前向きに生きようとする世界を区切って
いるように見える。

そして、二人は、二つの世界の狭間で
会話をする。

肩を落として落ち込んでいる男は、
彼の ” 分身 ” です。つまり、
人生に落胆しているのは彼自身です。

” 最近、気分が落ち込むといったことは
ありますか?”

筆者が質問をすると、彼は、今、
勤めている会社について話し始めました。

彼ははっきりとは明言しませんでしたが、
その内容を聞く限り、いわゆる、
” ブラック企業 ” に近いものだった。

彼は、言います。

” 将来が全く見えてこないです・・ ”

筆者は、夢に登場している男が分身の
役割を持っていることを説明した上で、
彼に次の質問をしました。

” 夢の中で男がしようとしていたことを
あなた自身、考えたことはありますか? ”

” いえ、ありません。一度も・・ ”

彼は、付け加えて次のように言います。

” もしかしたら、何とかなるんじゃない
かって思う自分もいるんです ”

筆者は、彼の言葉を聞き、この夢が、なぜ、
二つの世界の境界線を描いているのか、
その意味が、何となく理解できたのです。

この夢は、人生に落胆する自分自身を
救い出すために作られた。

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登場人物への ” 共感 “

彼は、人生に落胆しているネガティブな
部分を一旦、切り離し、擬人化した
見知らぬ男にそれを割り当て、
フェンスの向こう側に配置しています。

そして、自分はフェンスの内側から、
ポジティブな言葉で男を励ます。

この夢の目的は、あくまで境界線の
向こう側から ” もう一人の自分 ” を
救い出すことです。ゆえに、男は絶対に
飛び降りることはない。

初めから救い出されるシナリオになっている
言わば、自作自演のような状態です。

彼は夢の中で、男に身の上話を聞かされた
と言います。

内容は覚えていないが、それを聞きながら
何だか可哀そうに思えて、途中から自分も
一緒に泣いていた。

無論、男の話に共感したのは、それが
彼自身のことだから。

夢の中の登場人物と妙に意気投合をしたり、
その人物の言葉の全てが胸に突き刺さって
感動するといったことは、しばしば
あることです。

夢の作り手が、その夢を見ている本人
なので、登場人物に最も言ってほしい
言葉をセリフとして与え、それを夢の中で
聞くということをします。

そのセリフを自分で自分に言っても
有難みはありませんが、自分以外の誰かに
言われることで説得力が増すことを
潜在意識は理解しています。

ゆえに、あなたではない別の人物に
それを言わせるのです。

今回のように身の上話に泣くといった形の
共感であっても同じです。

一人で身の上を思い出して泣くことも
出来ますが、同調する慰め役がいることで、
泣いている自分を肯定的に受け入れる
ことが出来る。

自分の中で ” 私は悪くない ” と呟くより、
誰かにポンと肩を叩かれて、
” 君は、悪くないよ ” と言われた方が
幾分か気は楽です。

潜在意識は、必要とあれば、
あなたを分割し ” 誰か ” を作り出します。

無論、それは一人とは限りません。

100% の共感

最後に説得は成功し、男がフェンスから
手を伸ばし、彼が両手でそれをつかむ
という場面。

この場面は、ある意味、象徴的です。

彼の中のネガティブな世界と
ポジティブな世界が、隔たりを越えて
結びついた瞬間。

これは、二つに分離していた世界が、
再び、一つに戻ったことを表している。

こんなふうに考える人もいるかも
しれません。

男を説得せずに黙って見送ってやれば、
ネガティブな世界は消え、ポジティブな
世界だけが残るのではないか?

しかし、これは誤りです。

夢の中に再現されたシチュエーションは、
あくまで仮想世界です。

ネガティブな世界の死は、同時に
ポジティブな世界の死も意味する。
逆を言えば、どちらかが残る限り、
その一方も完全に死に至ることはない。

結局、一人の人間の中で起こっている
ことなので。

つまり、一つの統合された状態が健全な
状態なのです。この夢は、二つに割れた
ものが修復するまでのストーリーを
描いている。

もし、あなたが夢の中の登場人物に共感を
覚えたのなら、その人物は必要に応じて、
あなたがキャスティングした ” 役者 ”
だということを思い出してください。

言わば、あなたは、夢という映画作品を
作った映画監督であり、脚本家であり、
主役なのです。

そして、特定の場面で感じた共感は、
映画監督であるあなたが、観客、つまり、
あなた自身の心を揺さぶるための数々の
演出を組み込むことで生まれる。

潜在意識は、あなたが感動するツボを
全て心得ています。それは、自分自身の
ツボでもあるから。

現実世界で誰かの共感を得ることや
自身が誰かの言葉に共感するということは
簡単には起こらないわけですが、夢の中では
100%の共感を生みだすことは容易い。

つまり、傑作を作ることは、潜在意識に
とって何でもないことなのです。

夢を読み解く場合は、観客の立場ではなく、
制作側の立場としてストーリーについて、
考える必要があります。

 

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