映画・ドラマが夢になる時|” 単なる影響 ” とは言えない理由

夜、ホラー映画を観ると夢に出てきそうな気がする。

実際、テレビドラマの世界が、夢の中で再現されるといったケースがあります。

ただ、強烈なホラー映画を観た後に眠ったとしても、必ず、それが夢に出てくるとは限らない。

むしろ、全く無関係なストーリーだったりする。

さて、映画やドラマが夢に影響を与えるとすれば、どういったプロセスでそれは起こるのでしょう?

また、起きていた時に見たそれらが、夢になる場合とならない場合とでは、何が違うのでしょう?

仮に、昨日見たテレビドラマが夢になったとしたら、それは、” 単なる影響 ” に過ぎず、特にメッセージ性は無いものとして扱ってよいのか、もしくは、何か、重要なメッセージが隠されているのか?

潜在意識は、どういった意図で、それを夢に組み込んだのでしょう?

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映画の1シーンが夢になる

ここで一つ言えることは、潜在意識は必要の無い夢は作らない。また、何らかの夢を作ったとしても、そこに必要のない演出を取り入れることはない、ということです。

私たちが無駄なことにエネルギーを使わないのと同様に、潜在意識も限られたリソースを不必要なことに浪費しないのです。

ここでいうリソースとは、夢を作る過程で必要な ” イマジネーション ” です。

次は、とある女性が見た夢の一例です。

波の打ち寄せる砂浜にいる。
 
海の沖で恋人が、サーフボードにつかまって浮かんでいる。
 
少し離れた位置にサメの背びれを発見した私は、大声で叫ぶが彼には聞こえていないようだ。

「彼は、結果的にサメに襲われたのですか?」

筆者は、尋ねました。

彼女いわく、自分は必死に危機が迫っていることを知らせたが、サメの背びれが恋人に到達する直前、とっさに目を背けたので、その瞬間は見ていなかったと言います。

筆者は、さらにいくつかの質問をしました。

「夢の中では、恋人がサーフボードにつかまった状態で登場していますが、彼はサーフィンをするのですか?」

「いえ、しないと思います。私の知る限りでは」

「ご自身は、サーフィンをしますか?」

「いえ、しません」

「最近、海に行かれた、もしくは、今後、海に行く予定などはありますか?」

「最近は無いです。一年ほど前に二人で、県内の海浜公園に行ったのが最後だったと思います」

こうして話を聞く限り、海は彼女にとって、それほど身近なものでは無いようです。

潜在意識は、一体、なぜ、夢の舞台を海に設定したのでしょう?

「夢に関係あるかどうか、分りませんけど・・」

セッションの途中、彼女は夢を見たその夜に、とある映画を観たと言います。

「どんな映画ですか?」

「 ” ザ・ビーチ ” というタイトルの映画なんですが、分かりますかね?」

「ああ、レオナルド・ディカプリオ主演の、確か無人島の話だったような・・」

「それです」

筆者は、かなり以前にその映画を見た記憶がありましたが、内容を覚えていませんでした。

「では、こうしましょう。こちらでもう一度、映画を観ておきますので、次回のセッションはその後ということで・・」

セッションの行方

その二日後、再開されたセッションにて、筆者は夢の内容を再確認するために、次の質問をしました。

「確かに映画の中では、サメに襲われるシーンが二つありました。一度目は主人公リチャードが襲われたが撃退に成功し、二度目は、二人の若者が重傷を追った場面。あなたが夢で見た状況は、どういったものでしたか?」

彼女は説明します。

「最初のシーンと似たような状況でした。私が砂浜で叫んでいて、彼には届いていないという感じです」

「砂浜には、あなた以外に誰かいましたか?」

「私一人でした」

「あなたのいた場所は映画の中で舞台となっていた島そのものだったのしょうか?」

「分かりません。他に住人はいませんでしたし・・でも、何となく秘密の島という認識があったような気がします」

ここで映画のストーリーについて、少し解説しておきましょう。

観光客としてタイに訪れていた主人公リチャードは、ある男から ” ビーチ ” と呼ばれる秘密の島についての噂を聞かされます。

それは誰にも知られていない禁断のスポットで、そこにたどり着くことが出来れば、現実世界から解放されるという。

彼女の潜在意識が、もし、映画と同じような ” 秘密の島 ” を舞台に選んだということなら、そこは、彼女にとって、” 誰にも知られてはいけないプライベートな領域 ” を象徴しているのかもしれない。

つまり、彼女は何か秘密を抱えている。

この時点で筆者は、次のように考えていました。

もし、そうなら、彼女が心の扉を開かなければ、セッションを先に進めることが困難になるかもしれない。

また、状況によっては、彼女に負担をかけないためにもセッションを途中で閉じなければならなくなるかも・・

彼女の意思が ” 鍵 ” になるだろうと。

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離脱

筆者は、もし彼女が、何らかの事情を抱えているとすれば、やはり、夢に登場している恋人との関係についてだろうと推測しました。

そこで、次のような質問をしました。

「映画を見た当日、恋人と会って話されたりしましたか?」

彼女は答えます。

「いえ、その日は会ってないです。電話もしませんでした」

「あちらから、電話、もしくは、メッセージが届くことも無かったということでいいですね?」

「あー、 いや、一度、かかってきたんですが、その時は居留守をして・・」

「何か、電話に出られない状況だったのでしょうか?」

筆者が、その質問をすると、彼女からの返信がピタリと止まってしまったのです。

( ああ、地雷を踏んでしまったかな・・このセッションは終わりかもしれない )

筆者は、そう思いました。それから、しばらくして返信が届きます。

「少し、考える時間を頂けますか?」

筆者は、気が進まなければ、途中、セッションを離脱することも自由だし、無理に続ける必要もないと伝え、彼女の考えがまとまるのを待つことにしました。

それから、二日経ち、彼女から何の音沙汰も無かったので、キャンセル案件として処理しようと思っていたその日、一通のメールが届きます。

そこには、彼女から、時間が空いてしまったことの謝罪と、セッションを続けることは、まだ可能かどうかを確認する内容がありました。

セッションは再開されます。

「具体的な部分は、無理に話さなくてもよいですから・・」

「気を使わせてすみません。大丈夫です。正直に話します」

彼女の説明では、その時期、現在交際中の恋人とは別に、とある男性からのアプローチを受けていたと言います。

その男性とは仕事上の付き合いから、一度、一緒に食事をしたことがあり、その時に、とてもフィーリングが合うと感じた。

彼女の心は揺れ動いていたのです。

そして、当日、彼女は、予定時刻にかかってくるはずの男性からの電話を待っていたところ、タイミング悪く、恋人からの電話があり、慌てて居留守を使った。

「それで、男性から電話は、かかってきたのですか?」

「はい、プライベートで食事に誘われたんですが・・断りました」

「恋人がいることを話しましたか?」

「いえ、話せませんでした。今後、機会があれば、ちゃんと伝えようと思います」

筆者は彼女が当日見たという ” ザ・ビーチ ” の内容を思いかえし、彼女の潜在意識が、なぜ、この映画を夢に取り込んだのかが理解できました。

映画の中では、主人公のリチャード、そして、フランソワーズ、その恋人のエティエンヌの三角関係が描かれている。

彼女は言います。

「電話の後に映画を見て、丁度、自分の状況と似ている設定だったので三人がどうなるのか、ハラハラしながら見ていました」

では、今回の夢の内容について振り返ってみましょう。

彼女は砂浜から、沖に浮かぶ恋人に向かって叫んでいる。サメが近づいていることを伝えようとしているが、恋人はそれに気づかない。

このシチュエーションは、まさに、彼女の揺れ動く心が描かれています。

今の恋人の存在が新しい出会いを阻んでいる。故に、その存在をサメに襲わせて消し去ろうとしている。

しかし、その一方で恋人を助けるために、必死で叫ぶ彼女もいる。

” ダメ、留まりなさい! ”

彼女の自制心が叫んでいるのです。恋人ではなく、サメに向かって。

この夢におけるサメは、彼女の中の ” 暴走した願望 ” を象徴しています。

一つの矛盾

筆者は、この時点で、解釈に一つの矛盾があることに気づきます。

彼女が置かれている状況を映画の配役に当てはめるとすれば、ヒロインのフランソワーズ、そして、エティエンヌは交際中の恋人、リチャードは彼女の前に現れた新しい男性ということになります。

映画の中では、サメに襲われるのはリチャード。

しかし、夢の中では交際中の恋人が、そこに配役されている。

普通に考えれば、この場面のリチャード役には、新しい男性が割り当てられるはずです。

潜在意識が都合に合わせて、配役を入れ替えた・・・?

「サーフボードにつかまっていたのは、確かに恋人でしたか?」

筆者の質問に、彼女は次のように答えます。

「実は、夢の内容について、一つ言ってないことがありまして・・」

「何でしょう?」

「夢の中のサーフボードは、多分、男性のものだと思います。前回、一緒に食事をした時に、趣味のサーフィンの話をしてくれたんです。スマホで動画を見ました」

「なるほど、だから、サーフボードが出てきたんですね。映画のシーンには無かったので」

「夢の中では、砂浜から遠かったのではっきりとはしないんですが、最初、海に浮んでいるのはその男性で、途中から今の恋人に入れ替わったというか・・」

「それは、サメの背びれを発見する前でしたか? それとも、後?」

「・・すぐ後でした」

彼女は、この時点で、夢の意味に気づいたようでした。そして、次のように筆者に尋ねます。

「私は、今の恋人を葬りたいのでしょうか? 新しい男性と一緒になるために・・」

筆者は、次のように答えます。

「映画の中では、リチャードは襲われた時、ダイバーナイフをサメに突き刺して生還しています。

あなたは映画を見ていますから、潜在意識は、生還することが約束された最初のシーンを使った・・ということではないでしょうか。

襲われた場面も描かれていませんし・・

いずれにしても、あなたは今の恋人を裏切ることが出来ない。この夢は、そういう前提で作られている」

ここで言う前提とは、今回の夢が作られたということ自体が、それが許されない願望であることを潜在意識が自覚している証。

実現できないことを知ってるからこそ、夢として描けるのです。それですら、やり遂げていない。

彼女は最後に言いました。

「確かに、そうかもしれません。私は願望はあるけど、フランソワーズのように大胆にはなれない・・」

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” 影響 ” という言葉の曖昧さ

巷では、映画やドラマ、ゲームの影響が論じられることが、しばしばあります。

海外で未成年の銃犯罪のニュースが流れると、よく次のような意見が出る。

” 未成年犯罪増加は、過激なゲームに影響された結果だ ”

ただ、” 影響 ” とは、よく考えてみると、とても曖昧な単語です。

そのゲームがどういった経緯を経て、犯罪行為に結び付いたのか、その心理的プロセスについては誰も語ろうとはしません。

それこそが、最もコアな部分だと思うのですが・・

夢に映画やドラマの1シーンが使われたとしたら、そこには何らかの意図があるのです。

潜在意識が、必要としなければ、ホラー映画を何本観ようと悪夢を見ることはないし、バラエティ番組ばかりを見ていたとしても、その時、悪夢が必要ならそれは作られる。

そこには、” 影響 ” という安易な単語で片づけられない緻密な思惑があるのです。

今回の夢で言うなら、潜在意識が映画の舞台となった ” 禁断の島 ” に似たシチュエーションを採用したのは、誰にも知られたくない彼女の心の内を描くためです。

潜在意識は、彼女と新しく出会った男性二人だけのロケーションを用意し、その場所で今の恋人を葬り去ろうとした。

まさに、そこで起こる出来事の全ては ” 秘め事 ” なのです。

もし、新しい男性との出会いが無かったら・・

もし、彼女の心が、新しい出会いに1mmも動かなかったら・・

その日見た映画は、夢になることは無かったでしょう。

 

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