人が夢を見るのは、どういった時でしょう?
例えば、今日、
あなたが何かに追われる夢を見たとして、
なぜ、今日なのでしょう?
一週間前でも一週間後でもなく、
昨日でも明日でもない。
なぜ、今日というタイミングで
得体の知れない存在に
追いかけられなければならなかったのか?
*
一見すると、夢は支離滅裂で
日常とは何の関りも無いようにも思える。
なので、依頼者に
” 今回の夢を見たきっかけになるような
出来事に心当たりは? ” と尋ねると、
大抵は次のような回答が返ってきます。
” 全く、心当たりが無いです ”
仕方がありません。その時点では
夢の意味を知る由もありませんし、
そもそも潜在意識は事実を隠蔽するため、
それは日常とかけ離れた設定となる。
今回は、夢を見た ” きっかけ ” について
見ていきましょう。
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紛れ込んだ棘
夢を見るきっかけ、 別の言い方をすれば
” トリガー ” ですが、これは夢解釈において
重要な要素の一つです。
それを現在や過去の出来事から見つける
ことが出来ない場合もありますが、
トリガーは何らかの形で必ず存在します。
日常において、それほどインパクトの無い
出来事であってもトリガーになる場合も
ありますし、状況によっては、
昨日見た夢がトリガーとなり、
今日の夢になるというケースもあります。
重要なのは出来事の大きさではなく、
それが心理的にどういったストレスを
与えるか、どうかです。
例えば、小さな棘であったとしても、
靴下に紛れ込んだそれは
歩く度にチクチクとして、
気になって仕方がないというような。
心の問題は
目で見て確認出来るわけではないので、
日常生活の中で無視されがちですが、
実際は少しずつ血を流しながら、
私たちの心のバランスを崩していく。
トリガーとは、いつの間にか
心に刺さってしまった棘のように、
見過ごしてしまいそうな小さな刺激である
可能性も頭の隅に入れておきましょう。
*
次は、とある女性が見た夢の一例です。
二階の自分の部屋から窓を眺めている。
外の景色が
列車の車窓のように動きだす。
家は崖に向かって
ゆっくりと移動している。
” つまり、あなたの家自体が、
動いていたということですか? ”
” 始めは、外の景色がゆっくりと横に
移動していくことに気づいて、
あれ? と思って・・・
窓から顔を出すと、景色じゃなくて
自宅の方が動いているということに
気づきまして・・”
” 家が宙に浮いていたということですか?
もしくは、レールの上とか・・ ”
” 分かりません。
宙に浮いていたんでしょうか?
レールのようなものは無かったと思います ”
” 家は崖に向かっていたとありますが、
それは、どういった? ”
” 巨大な窪みというか、クレーターというか、
それがなぜか住宅地の中にありまして、
このまま行くと落ちてしまう!と思いました ”
” 結果、落ちてはいないんですね? ”
” ええ、途中で目覚めたので。
それに、まだ距離があったように思います ”
*
もちろん、彼女はこの夢を見たきっかけに
全く心当たりがありませんでした。
そもそも、家が動くという非現実的な
設定ですから、日常とは全く無関係に
思えるでしょう。
一体、この夢は何を意味しているのか?
住宅地の中のクレーター
世界でコロナが猛威を振るっている
時期ですから、気軽に外出することが
出来ないということで、
家そのものを動かして行きたい場所へ
移動しているという解釈も可能です。
要するに、自粛期間のストレスという線。
ただ、家が動いている方向には繁華街や
観光地があるわけではなく、
巨大なクレーターがあり、
そのまま行けば転落するという状況が
筆者には腑に落ちませんでした。
” 気軽に外出できないことに
ストレスを感じるといったことは? ”
” 確かに、今はあまり外出してません。
元々、家にいることが多いので、
自粛と言われても、
あまり苦痛を感じないですね ”
インドア派である彼女に、
家を動かしてまで遠くに行きたいという
強い欲求があるようには見えませんでした。
*
” ところで、巨大なクレーターが
住宅地に出現したとしたら大惨事ですよね。
周辺の状況は覚えていますか? ”
” そうですね・・
落ちていく家もいくつかあったと思います ”
” つまり、あなたの自宅以外にも、
動いている建物があったということですか? ”
” ええ、隣の家も動いているようでした ”
” それは、住宅地全体が移動している
ということでは? ”
” いいえ、大半が動いてませんが、
その中に、ポツポツと動いている家がある
という感じですかね ”
*
この時点で、筆者は、彼女の潜在意識が、
住宅地の全てがクレーターに飲み込まれる
というストーリーを描こうとしている
のではないかと推測しました。
しかし、なぜ、全部ではなく、
一部の建物だけが動いているのか、
その理由が分かりませんでした。
” 自宅は自発的に動いていたのでしょうか?
それとも、クレーターに引き寄せられている
といった感じすか? ”
” ああ・・そう言えば、そうですね。
動いていたんじゃなくて、
引っ張られてたのかも・・ ”
” クレーターの大きさは、
具体的にはどれぐらい? ”
” ・・・かなり大きな窪みに見えました。
直径100mぐらいかな・・・すみません。
全体像を見ていないので曖昧です。
最初は、何があるか分からなかったんです ”
” どういうことですか? ”
” 二階の窓から顔を出して、
家が動いると思って・・それから、
遠くの住宅の間に何か見えて・・・
何だろうと思っていました。
50mぐらい近づいたところで大きな穴が
あると気づいて、慌てて家を出ようと・・
そこで目覚めました ”
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間接的影響
” 家が動いているとき、ご家族などは? ”
” 家にいたのは私だけだったと思います ”
” 一人暮らしということですか? ”
” いえ、今は両親と三人で暮らしています。
先月までは一人暮らしだったんですが ”
” なぜ、ご実家に戻られたか
お尋ねしてもよろしいですか? ”
” ああ・・ ちょっと仕事で色々とあり、
お給料が減ってしまったので ”
” コロナの影響ですか? ”
” 出勤日数や残業が減ったのは、
私的には楽になったのですが、やはり、
生活費の方がキツくなってしまって・・ ”
コロナ禍によって、彼女は、
これまでどおりの生活を続けることが
難しくなったと言います。
” すぐ近くにある実家の母に電話したら、
一つ返事で「戻っておいで」と言われ、
今はご飯も作ってもらえるし、凄く助かっています。
でも、両親も稼ぎが良いわけではないので、
あまり、頼るのも良くないなと・・”
*
筆者は話を聞きながら、
彼女の今置かれている窮状と今回の夢に
何か関係があるのかもしれないと思いました。
” ところで、夢の中では、
お隣の家も動いていたということですが、
あなたの家とお隣に思い当たる共通点などは
ありませんか? 例えば、家族構成とか ”
” 共通点ですか・・そうですね・・”
彼女いわく、隣には老夫婦が住んでおり、
定年後も働きながら二人で身を寄せ合って
暮らしているということで、自分の両親の
少し先の未来の姿のようにも見えると言います。
*
” 駐車スペースを借りてるんです ”
” 何の話でしょうか? ”
” 実家には、車二台分しかスペースが無くて、
私が戻ってきた時、車を止める場所が
無かったので、お隣の空きスペースに
置かせてもらってるんです ”
” それは、現実の話ですよね? ”
” ええ、お爺さんも快く承諾してくれて、
ずっと使ってもいいよと言ってくれるので ”
” いい人ですね ”
” はい、私も迷惑をかけてはいけない
と思って、有料の駐車場を探したりも
したのですが・・今の現状、
甘えてしまっているという状態です ”
” 夢の中では、お隣の老夫婦は
ご在宅だったのでしょうか? ”
” 私、家が動いているので、
お隣の様子を見に行こうと思って・・
そう言えば・・”
” 何か、思い出されました? ”
” 夢を見る晩、
アプリでシュミレーションしていたんです ”
” シュミレーション? ”
” 有料駐車場を借りたら、
生活費にどれぐらい影響が出るか ”
” なるほど、お金の計算ですね ”
彼女は就寝前、布団に入ってスマホを開き、
家計簿アプリを使って予め入力しておいた
収支のデータを見直していたと言います。
削れそうなもの、必要なものをあれこれと
考えているうちに頭が痛くなってしまった。
” ところで、
就寝前にスマホを見るというのは、
いつもの習慣ですか? ”
” ええ、大抵は、動画を見たり、
ゲームをしたり、
その晩はアプリでしたが・・ ”
ナイトルーティン
就寝前にいつものように開かれた
スマホ画面。
入力された数字を眺めながら、
あれこれ考えてみたが、余裕の無い現状を
打破できるような秘策は見つからなかった。
彼女が抱えている経済的な問題が
発端となり、今回の夢が作られた。
彼女いわく、実家に戻った時から、
ずっと不安に感じていたと言います。
これからの先行きについて。
” コロナが終息すれば、今の厳しい状況から
抜け出られると思いたいですが・・ ”
” それ以外にも、
不安要素があるということですか? ”
” ええ、以前から、その日その日を
生活するのがやっとで、
将来の夢も何も無いと言いますか・・・
両親も年老いていきますし、
私も一人っ子なので・・ ”
*
建物を飲み込んでいく巨大なクレーターは、
” 貧困 ” の象徴。
経済力の無い世帯が順番に、
一つ、また一つ、ゆっくりではあるが、
ズルズルと引きずりこまれ、
” 貧困 ” へと、落ちていく。
彼女の ” 貧困 ” へのイメージが、住宅地に
巨大なクレーターとして出現したのです。
今回の夢が作られるきっかけとなった
アプリによる家計のシュミレーション。
それは、彼女にとって、
いつもの生活習慣の断片に過ぎませんが、
見過ごしてしまいそうなその日常事が
” 小さな棘 ” となり、
知らず知らずのうちに彼女の中で鬱積し、
生活環境の変化によって膨張していった
” 将来への不安 ” を一刺しした。
日常のちょっとした出来事だけでも、
それが大掛かりな夢が作られるトリガー
となることは、十分考えられるのです。
スマホに届いた一行のメッセージ、
帰宅時間に見かけた通りすがりの光景、
テレビドラマの一場面、
どこかで聴いたJ-POPの歌詞の一節、
冷蔵庫で丁度切らした食料品、
ネットサーフィンで見た広告、
ゴミ出しの日・・
一日の終わりには、
忘れていそうな数々の雑事。
それが、心の中の ” 何か ” を
刺激するのであれば。
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もし、夢を見たきっかけに思い当たる節が
無いとしたら、何かを見過ごしている
のかもしれません。
小さな出来事にも目を向けてみましょう。
ただ、トリガーが存在しない夢
というのもあります。
それは、現在や過去ではなく、今後、
起こるであろう出来事に起因するケース。
ただし、きっかけが見当たらなければ、
未来を予知していると
安易に結論づけるべきではありません。
まずは、夢が何を伝えようとしているのか、
それをしっかりと見定める作業が大切です。
*
現代社会で生きる誰もが、
常に何らかの ” 不安 ” を抱えています。
でも、いつも抱えているものですから、
それが ” 普通 ” になってしまう。
そして、それらが心の負荷に
なっていることに気づかないまま、
長い間やり過ごし続ける。
” 現実とは、元々、こういうものだ ”
と割り切ったふりをしながら。
切り詰めた生活を続けていると、
夢を持つこと、将来について
計画を立てることが無意味に思えて、
考えなくなっていく。
こうして、社会に関心を持つことをやめ、
対話することをやめ、
他者に思いやりを持つことやめ、
自身の心の声に耳を傾けることをやめ、
目の前の利益だけを求めるようになる。
そんな時、潜在意識は、
夢を通して私たちに語りかけるのです。
” それは普通じゃないから。
分かってるの? ”
*
彼女の潜在意識は、
なぜ、今回の夢を作ったのか?
それは、厳しい現実を描くためでしょうか?
ならば、クレーターなど必要ありません。
単に、彼女の住む家だけを消し去れば
よいのです。
しかし、潜在意識は、
住宅地に巨大なそれを配置した。
彼女は理解しています。
これは、” 私 ” の問題ではなく、
” 私たち ” の問題であると。
彼女自身が、
多くの人々とそれを共有するために、
誰が見ても分かるように、
住宅地の真ん中に穴を開けたのです。
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