なぜか、何年も会っていない過去の人物が
夢に登場することがあります。
学生時代の旧友、昔付き合っていた恋人、
子供の頃に苛められたいじめっ子、以前、
お世話になった恩師など、
また、特定の人物だけでなく、
前に住んでいた家や働いていた職場など、
過去にまつわる場所が人物と共に登場する
こともあります。
夢は記憶の整理だという説もありますが、
何年も前の過去を、今頃、整理する必要が
あるのでしょうか?
その人物が、” 今 ” というタイミングに
現れたことには、何か別の意味があるよう
にも思えます。
果たして、夢の中に現われた過去の人物は、
なぜ、今、現れたのでしょう?
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許されないホームシック
次は、とある女性が見た夢の一例です。
車の後部座席に乗って、
懐かしく見慣れた街並みを眺めている。
運転席にAさんが座っている。
途中、以前働いていたバイト先の
建物が見える。建物の前に数人の
見たことのある人々。
車に乗って以前住んでいた街を眺めている
というノスタルジックな夢です。
車が走っていた通りは実在するもので、
以前、勤めていたバイト先の通勤経路
だったということです。その当時は、
毎日、その道を使って仕事場へ通っていた。
彼女は希望する仕事に就くために二年ほど
前に実家を離れ上京し、現在は都心近くで
生活しているということでした。
*
” 車に乗って、
どこに向かっていたのですか? ”
筆者が尋ねると、彼女は、Aさんが何か
用事があって運転している後ろで自分が
何となく座っているという状況。
それが自分の実家のある方向と同じだった
と言います。
つまり、この夢は帰郷を描いている。
だとすれば、単純に彼女のホームシックが
夢になったと考えることも出来ます。
そこで、筆者は、彼女の現在の状況について
知っておく必要があると感じました。
何か辛いことがあり、今の生活に問題を
抱えているかもしれない。
” 現在、実家から離れて暮らしているという
ことですが、実家に戻りたいと思う時は
ありますか? ”
*
彼女は自分の希望していた仕事で生活
出来ていること自体には満足しているが、
その一方で、アグレッシブな今の生き方に
疲れを感じているとも言います。
時々、もし、自分が地方で就職をして
いたら、どんな人生が待っていたのだろう
と思うことがある、と。
しかし、自分が好きで始めたことなので、
途中で投げ出すわけにもいかず、
仕事上の人脈を放り出して周りに迷惑を
かけるわけにもいかない。
また、上京するときに両親に無理を言って
世話をかけてしまったという経緯もあり、
今は、そうしたくても引き返すことの
出来ない状況だと説明しました。
忘れかけていた過去の人物
さて、この夢には、” Aさん ”
という一人の人物が登場しています。
彼女は、その人物が運転する車に
同乗するという形で夢に参加している。
” Aさんは、どういった方ですか? ”
Aさんは、以前、地元で働いていた時の
バイト先の同僚の一人ということでした。
彼女とは親しい間柄でもなく、夢を見るまで
Aさんのことはすっかり忘れていた。
ただ、思い出と言えば、Aさんは一度
バイトを辞め、どこかで別のバイトをして、
そこも続かず、結局、また、戻ってきた
という経歴の持ち主でした。
潜在意識は、なぜ、車のドライバーに
この忘れかけていた人物を
キャスティングしたのでしょう?
*
それは、Aさんの存在を ” 忘れかけていた ”
ということが理由です。
例えば、この夢が ” 実家に戻りたい ” という
ホームシックな感情を解決するために
作られたものなら、単に自分が車を運転して
実家に戻るというストーリーでもよかった。
または、両親のどちらかが運転して、
彼女を迎えにくるというストーリーでも
同じです。
しかし、この自然な設定を選ばずに、
あえて忘れかけていた人物を記憶から
呼び出して運転席に座らせている。
彼女は、実家に戻って地方で暮らすという
選択が許されない状況だということを
十分理解しています。
つまり、この設定は、
” ちょっと疲れたからと言って簡単には
戻れない ”
という自分への ” 戒め ” なのです。
ゆえに、自分でハンドルを握って、実家に
戻ることも出来ず、両親に甘えて迎えに来て
もらうことも出来ない。
唯一、出来るのは、他人が運転する車に
同乗して ” どこに行くのだろう? ”
と思うことだけです。
” これは帰郷ではない。私は
Aさんの用事に付き合っているだけだ ”
無論、目的地は彼女の実家なのですが。
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置き換えられた認識
今の都会の生活に疲れた彼女の心の中に、
ふと差し込んでしまった郷愁への思いが
この夢に描かれています。
一方では、素直に帰ることの出来ない
状況が彼女を苦しめてもいる。
彼女にとって故郷の風景を思い出すことが、
ホームシックな気分を余計に刺激して
しまう。故に振り返ることなく故郷のことは
忘れたままにしておく必要があった。
ただ、その思いを無視することが
できなかった潜在意識は、ちょっとした
認識の ” すり替え ” を行うのです。
” 私が思い出したのは、
しばらく忘れていたAさんのことだ。
故郷に帰りたいわけじゃない ”
だから、” 忘れかけていた人物 ” が
必要だった・・
*
そして、Aさんは彼女の中では、一度
出て行った後に戻ってきた人物として
記憶されている。
ある意味、現在の彼女がそうしたくても
出来ないことを実際に行った人物です。
その人物が運転する車に彼女は乗っている。
彼女にとって、Aさんは自身の抱える
ジレンマを解決した象徴的人物に見えた
のかもしれません。
さて、夢の最後の場面、以前、働いていた
バイト先の建物の前で立ち話をしている
人々。
彼女がそこで働いていた時、休憩時間に
なると従業員が集まって、よく立ち話を
したそうです。彼女も雑談に付き合って
時間を潰したりした。
この場面は、彼女が、もし上京せずに
地方で人生を送っていたらどうだったか?
という彼女の中の問いに答えるものです。
そこには、わたいない世間話と、
和やかな雰囲気と、笑顔、気を張ること
のない保守的な人生が描かれている。
彼女が都会の喧騒の中で忘れかけていた
ものです。
現時点の過去とは?
さて、今回の夢には、Aさんという
過去の人物が登場しています。
潜在意識が、その人物を記憶から呼び出し、
夢の中に登場させたのは、彼女が現在
抱えている心の問題を処理するためでした。
” 過去の人物 ” と言うと、昔の知り合い
というイメージがありますが、例えば、
あなたが5分前に手を振って別れた現在の
友達も現時点から見れば ” 過去の人物 ”
と言えます。
明日も、その友達と顔を合わせることに
なったとしても。
つまり、この瞬間、目の前に立ってるのでも
無い限りは全ての人物が過去の人なのです。
それが、5年前の知人であっても、5分前に
別れた友人であっても、大した違いは
ありません。
潜在意識にとっては、単なる記憶の断片
に過ぎない。
潜在意識は、必要であれば、
伝えるべきことに最も適切な人物を
記憶から選び出します。
ただ、それが私たちには過去を
振り返っているようにも見えるのですが、
実際は現在の問題を処理するために
過去の記憶を利用しているだけなのです。
*
もし、あなたの夢に過去の人物が登場
したなら、過去ではなく現在のあなたの
置かれた状況を一度、整理してみてください。
潜在意識がその人物を呼び出した理由は
必ずある。
例えば、それが十年前にお世話になった恩師
であれば、その人は今のあなたに必要だから
登場しているのです。
例えば、昔付き合っていた恋人が登場した
というなら、今、あなたの中にある何らかの
問題を処理するために呼び出されたのです。
潜在意識は、思ったよりも現実的な視点で
夢を作ります。目の前に問題があれば、
それに対して手を打とうとする。
常に、その視線は、
現在のあなたに向けられているのです。
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