現在と過去が交錯する夢|過去の記憶と夢の関係

夢の中では、過去と現在の区別が曖昧になることがあります。

例えば、現在働いている職場で、過去に働いていた職場の同僚が登場したり、自分は社会人であるという認識はあるが、なぜか学生時代の教室に身を置いていたり、現実世界の昨日の出来事が、夢の中でまだ起こっていないという設定だったり。

” 過去 ” をめぐる様々な設定が、シチュエーションとして夢に取り込まれる。

潜在意識には、こうした過去の記憶は、どのように見えているのでしょう? また、夢の中で過去と現在が交錯するのは、なぜでしょう?

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夢の中で思ったこと

次は、とある女性の見た夢の一例です。

スタバで学生時代の旧友と雑談をしている。
 
私が学生時代について話し始めると、旧友が顔をしかめて ” もういいよ、その話は!” と遮ってしまう。
 
私は口を閉じながらも、少し腹立たしい気分。

この夢を見た彼女の説明では、舞台となったスターバックスは行きつけの店で、今でもよく利用しているということです。

そして、夢に登場した旧友は学生時代からの友達で今でも付き合いが続いており、つい先日も夢と同じように二人でスタバに行き世間話をしていた。

筆者は、まず、最初に彼女と旧友の関係について知っておく必要があると思い、次の質問をしました。

「現在、旧友の方とのご関係は良好ですか?」

彼女は、何の問題もなく良好だと答えます。そして、夢の中で、なぜ旧友があのような態度を取ったのかが分からないと。

「そもそも旧友は、人の話を遮って怒り出すような人ではない」と言います。

次に、夢の中の会話の内容について尋ねました。

彼女は、内容の具体的なことは覚えていないが、話しながら ” この話、前にもしたっけ? ” と心の中で思っていた。

この部分は、夢を解釈する上で注目すべき点です。

夢を見ながら彼女は、心の中で ” 思った ” わけですが、それは、実際に映像として描かれたそれ以外の演出に比べると、単なる感想に見えるので、あまり、重要ではないようにも思えます。

しかし、そういった心の中で感じたことや、考えたことも夢を構成する要素の一つです。そもそも、夢自体が何かに対する本人の感想が映像化されているものです。

では、この夢は、結局、何を描こうとしているのでしょう?

前向きな人

 
この夢には、” 現在 ” と ” 過去 ” に跨ったいくつかの設定が組み込まれています。

まず、学生時代から付き合いのある旧友、この友人は、彼女にとって過去から現在にかけてずっと付き合ってきた存在。

そして、彼女にとって行きつけのスタバも、学生時代の頃から、ずっと利用しているということで、やはり、過去と現在の両方に関連の深い場所です。

こうした” 過去 ” と ” 現在 ” の両方に関連しあったシチュエーションの中に彼女は身を置いている。

筆者はこの状況から、彼女の中に、過去に対する何らかの思いがあるのではないかと感じました。そして、質問をします。

「今、学生時代に戻りたいと思うことは?」

彼女は「戻れるものならば戻りたいが、今、自分にはすべき仕事があり、あまり過去を振り返りたくはない」と答えます。

それから、なるべく前を向いていたいので過去の話を自分からすることは、ほとんど無いとも言いました。

筆者は話を聞きながら、彼女が過去を振り返らない前向きな性格の持ち主であることを理解しました。

さて、ここで一つの疑問が浮かびます。

常に前を向いている人が、夢の中で友人に向かって学生時代の話をしている。彼女が普段は口にはしない ” 過去 ” について話しているわけです。

一体、なぜ、彼女は夢の中で過去について話しているのでしょう?

軸は、どこにあるか?

「元々、前向きな性格だったのですか?」

彼女は次のように答えます。

「昔の自分は全く逆で、ネガティブな人間でした。いつもくよくよしてました」

彼女は自分の後ろ向きな性格についてこれまでの人生、ずっと悩んでいたと言います。

そして、ある時、変わろうと思った。

こうして彼女の人柄に関するこれまでの経緯を聞くと、この夢が何を描こうとしているのか、何となく理解出来ます。

彼女は過去を振り返りながらも ” 今 ” を生きようとしている。

人は過去に戻って、もう一度やり直したいとか、辛い現状から逃げ出して楽しかった時代に戻りたいという願望を持つことがあります。

それは、夢の中で学生時代に戻ったり、子供に戻ったりする設定として描かれる。

つまり、彼女が学生時代に戻りたければ、学生になってしまえばいいわけです。夢の作り手は彼女自身なので、それは容易い。

しかし、この夢の舞台設定は ” 現在 ” になっています。また、旧友と過去の話をしていますが、それも結局は ” 現在の中の過去 ” です。

ストーリーの軸は、あくまで ” 現在 ” に置かれている。彼女は、現在に軸を置きながら、過去にコンタクトを試みようとしているのです。 

そして、” 旧友 ” と ” スタバ ” という二つの要素は、この夢が伝えたいことにぴったりとマッチしています。

今は会うことのなくなった昔の友達でもなく、社会人になってから知り合った今の友達でもなく、両方の条件を満たす ” 旧友 ” という存在。

そして、学生時代から今に至るまで利用している ” スタバ ” という行きつけの店。

この二つは彼女にとって、現在に身を置きながら、過去にコンタクトを取るのに丁度良い設定だった。

では、現在に身を置きながらも、過去にアクセスするというこの紛らわしい設定を潜在意識が採用したのはなぜでしょう?

過去の自分

彼女は最近、仕事の方で色々とあり、精神的に疲れぎみだったと言います。

彼女の中に、ふと忍び寄ったのかもしれません。後ろ向きだった頃の過去の自分が。

彼女は、普段はしないはずの昔話をしながら、以前にも同じ話をしたような気がした。間違いなく彼女は、過去、同じ話をしているのです。

それは、特定のエピソードという意味の昔話ではなく、生き方を変える以前の ” 過去の自分の物語 ” そのものです。

この夢の最後の場面、昔話を旧友に遮られるという部分。

夢の中の旧友は、彼女自身がキャスティングした ” 役者 ” です。ですから、旧友の言動は全て彼女の脚本に沿ったもの。

つまり、彼女は、旧友に自分自身の気持ちを代弁させていることになります。

” もういいよ、その話は!”

要するに、現在に軸を置いた彼女にとって、これまでの過去の思い出は黒歴史です。このセリフを正しく言い換えるなら、次のような感じでしょうか。

” もう、昔の自分は出てこなくていいから ”

話を遮られてしまった彼女は、少し腹立たしかった。

話を遮られた苛立ちというより、昔の自分が現在の自分に否定されてしまったことへの苛立ちです。

” 過去 ” が必要になる時

この夢では ” 現在 ” に軸を置きながら、” 過去 ” に戻るという、少々込み入った演出をしています。ただ、実際は、とてもシンプルな動機によって作られた夢です。

彼女は以前の自分を完全に消せたわけではなく、心の中に鍵をかけてしまっておいた。

しかし、気の緩みによってその蓋が開き、少しだけ顔をのぞかせた。それが夢になった。

ここで重要なのは、蓋が開いて ” 以前の自分 ” が顔をのぞかせたのが ” 今 ” であるという点です。

つまり、この夢は現在の問題を扱っている。

それが、過ぎ去ったものであり、現在にとって必要なければ、潜在意識は ” 過去 ” を夢に組み込むことはありません。

なので、一見すると、過去の再現のように思われる夢であっても、それは、現在に関する夢なのです。

例えば、あなたに過去にやり忘れたことや、捨てきれない思いなどがあると言うなら、それは、過去をきっかけにしたものですが、今のあなたを悩ます ” 現在の問題 ” には変わりませんから夢になる可能性はあります。

また、夢の中に過去の人物や過去に住んでいた場所が夢に登場することがありますが、それらも” 現在の問題 ” を処理するために取り込んだ要素です。

ただ、過去の人物や場所が夢に登場したからと言って、その人が過去を引きずって生きているかと言えば、そうとは限りません。

潜在意識が、丁度よい材料を過去の記憶からチョイスして利用しているだけというケースもあります。

例えば、先週見た芸能人の結婚報道のニュースが、あなたの結婚に関する夢を作る材料に好都合ならば、その記憶を利用するでしょう。

例えば、潜在意識が、あなたに大切なアドバイスを伝えるために学生時代の恩師のイメージを拝借するかもしれません。

恩師が何か言えば、あなたがそれを心に刻むことを潜在意識は知っているからです。

潜在意識は、常に ” 今 ” だけを見ている。

正確には ” 今のあなた ” だけを見ているのです。今のあなたにとって必要が無い限りは、過ぎ去った日々を振り返ったりはしない。

あなたが、ふとしたことで、とある過去を思い出したとします。

その過去は、現在のあなたの頭の中にある。それは、今、何らかの必要性があって蘇った記憶。

それは、過去を引きづっていると考えることも出来ますが、別の言い方をするなら、やり残した人生の課題です。

課題をほったらかしにしたまま生き続けることは出来る。忘れたことにして前進した振りをすることは出来る。しかし、反省無き失敗は形を変えた躓きとなり、前進したはずの足取りを打ち消してしまうのです。

今回の夢を見た女性が、仕事でどんな問題を抱えていたのか詳しくは尋ねませんでしたが、それが、過去、解消されずに放置されていた人生の課題に通ずる何かだとするなら、潜在意識が夢を作った理由は、暗がりに閉じ込められた ” 過去の自分 ” にこう言いたかったのかもしれません。

” 鍵、開けといたから ”

全ては ” 現在 ” のためにあるのです。

 

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