人は、日々、様々な夢を見ます。
全てが思い通りになる良い夢もあれば、幽霊に追われるといった悪夢を見ることもあります。
ここで一つ、忘れてはならないのは、夢の作り手は、あくまで夢を見ている本人だと言うことです。つまり、自ら作った夢を自ら見ている。
そうなると、単純な疑問が浮かびます。
” 自分で作っているなら、なぜ、見たくもない夢を見る?”
言われてみれば、確かに奇妙な行為です。その結果、自らを苦しめているのですから。
なぜ、このような夢が作られるのでしょう?
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復讐を遂げた後に
次は、とある女性が見た夢の一例です。
いつものように、上司が小言を言ってくる。
私に仕事を押し付けて、さっさと帰ってしまう。
上司が、駐車場に止めた車に乗り込んだ瞬間、車体が爆発炎上。
炎の中に黒こげになった上司。それを見て、気分が悪くなり目が覚める。
何か、スパイ映画の1シーンを彷彿とさせる過激な夢です。
この夢を見た彼女の職場には、嫌いな上司が一人いて、彼女は、常に仕事を監視されているように感じていた。それがストレスになっているということでした。
夢を見る数日前にも仕事のやり方について、長い時間、説教を受けた。
今は、顔を思い出すだけで気分が悪くなってしまうほど、その上司のことが嫌いだと言います。そして、とあるアクション映画を鑑賞した晩に、この夢を見た。
*
では、このケースで悪夢の仕組みについて、少し説明してみましょう。
夢のストーリーは見たとおり、憎たらしい上司に対するリベンジを描いています。
さて、復讐するためには、まずは、顔も見たくない上司を夢に登場させなければならない。全くの他人を犠牲にしても意味がありません。
夢の中で、いつも彼女が聞いている小言をあえて言わせることで、上司を ” 燃えてもらっても構わない存在 ” にしています。
つまり、自分の夢に招きたくもない上司を招き入れ、職場で怒られるという演出を組み込んだのは、全て最後の結末に向けた ” 前振り ” なのです。
そして、ラストシーンは、車の中で上司の亡骸が燃えているという不快でおぞましい場面。ここは、極悪人に罰が与えられたことを確定するための演出。
これを映像化することで、ようやく復讐劇は完成する。しかし、一方では、その場面に嫌悪感を抱いている。
仮に、夢の中で上司が転倒して擦りむいた程度では、彼女の気持ちは収まらなかったということでしょう。彼女の中に蓄積された爆発寸前のフラストレーションが、この過激な設定を選んだ。
彼女にとって、上司は、それぐらいの仕返しをするに値する存在。
想像以上にグロテスクな結果になったとは言え、スカッとするためには、そこまでする必要があった。
つまり、一方の何かを満たすために、自分の中の別の部分を犠牲にしたのです。これが、悪夢の原理です。
箱の中
さて、夢というものは、現実世界とは全く違うルールで構築された精神世界の産物です。
そのことを理解しておくと、夢が支離滅裂であったり、悪夢になる理由が理解できます。
では、精神世界のルールとは、一体、何でしょう?
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” 箱 ” を思い浮かべてみてください。
箱の上部には穴があり、手を入れられるようになっている。中をのぞくことは出来ません。
テレビ番組でよく見かける箱の中身を当てるゲームに似ていますが、テレビの場合は予め何かが入っている。
この場合は何も入っていない。
そして、札束を思い浮かべれば、箱の中に札束が出現し、蛇を思い浮かべれば蛇が出現します。
実は、その箱はとても大きい。
あなたが一軒家ほどの大きさだと思えば、その大きさになり、無限だと思えば、まさしく ” 無限 ” の広さを持つ。
ポッカリと空いた穴から、あなたは箱の中にダイブする。
箱とは、” 夢 ” です。
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夢の中で ” 素敵な異性とデートがしたい ” と思えば、その異性が登場します。しかし、その反面、
” 自分のような存在に、振り向いてくれるわけがない ”
と思えば、その異性は消えてしまう。
夢の世界では、頭にネガティブな思考が過れば、それが、実現してしまい、希望を抱けば、それをそのまま描く。
頭に浮かんだ瞬間に映像化される ” 想念の世界 ” です。
それが、耐えがたい屈辱や不安を伴うイメージであっても、あなたが一瞬でも必要としてしまえば、映像化される。
どんな理由であれ、それは、必要とされたわけですから、ある意味、” 願望 ” です。
潜在意識は、その ” 願望 ” を満たすために夢を作る。
素敵な異性が消えることで ” いつもどおり ” を取り戻せるなら、そうするでしょう。
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夢の中とは限らず、ネガティブな思考を必要とする瞬間は、現実世界にもあります。
野性動物は恐怖感によって危険を回避する。私たちが保険に入るのも、万が一のトラブルに対する恐れからです。
日頃から運動や食生活に気を使うのも、老いや死に対するネガティブな感情から。
学生が受験勉強をするのも、将来への不安、または、夢を実現できなかった人生を送る喪失感から逃れるためです。
” 理想の状態 ” を望むということは、裏を返せば ” 理想でない状態 ” を恐れるということ。
最もネガティブな人とは、ある意味、最もポジティブな人です。
夢の世界では、その感情がポジティブであるか、ネガティブであるか、その区別は、それほど重要ではありません。
潜在意識にとっては、どちらも ” 感情 ” に過ぎない。
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ネガティブ思考から始まること
次は、とある女性の夢の一例です。
今日こそ、意中の男性に話しかけようと決意する。
彼はいたが、近くにいた何人かの女性と、自分の方をチラ見しながらヒソヒソ話をしている。
女性の一人が ” ありえないじゃん ” と言うのが聞こえた。
彼女は恋愛には消極的で、自分に自信を持つことが出来ずに悩んでいました。自分の殻を破りたくても、現実、うまくはいかない。そんな状態の中、今回の夢を見た。
この夢は、彼女が自分の殻を破って、恋愛に積極的になろうとする思いを挫くためのものです。
挫けるようなシチュエーションを設定し、心の中に生まれた ” 自分らしくない考え ” を打ち消そうとしている。
彼女にとって、意中の人に話しかけるというのは相当なストレスでしょう。潜在意識が心の平穏を保つために ” 現状維持 ” をしようとしている。
女性の一人が言った ” ありえないじゃん ” という一言が彼女に留めを刺す。
このセリフは、彼女のネガティブな一面が、変わろうとしている自身に対し、身の程をわきまえるように警告しているのです。
この夢は、彼女の恋愛に対するネガティブな感情を満たすために作られた。
つまり、彼女自身がバッドエンドを望んだ結果、作られた悪夢なのです。
受け入れたくないもの
夢とは、受け入れたくない内容であったとしても、本人が、それを必要としている限り作られます。
” とても自分が求めているとは思えない ” というような夢にも、存在理由はあるのです。
例えば、周りからポジティブなキャラだと思われている人が、自己否定するような陰鬱な夢を見る。
それは、心の底に押さえつけられたネガティブな一面が、叫び声を上げているのかもしれません。
” 自分は、いい奴なんかじゃない。もう演じるのはたくさんだ!”
日常生活では、自分の抱えている問題を無視したり、隠したりすることが出来ても、潜在意識には通用しません。
それは、自分自身の声だから。
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潜在意識からのメッセージが、常に前向きで心地よいものばかりとは限りません。
人は、誰でも ” 影 ” の一面を持っている。
と言うより、それが無ければ、ポジティブな感情を持つことすらできないでしょう。
” 恐れ ” を知らなければ、克服することの価値も理解できない。それを目標に歩き出すこともない。
もし、あなたの中にネガティブな一面があったとしても、それが悪夢になったとしても、極めて自然なことです。
悪夢は、罪でも罰でもない。
それは、潜在意識が心のバランスを取り戻すために、試行錯誤して作り上げた一種の ” 苦い薬 ” なのです。
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