筆者は、旅が好きではありません。
と言っても、嫌いというわけでも
無いのですが・・
準備をしたり、移動に心身共に疲れて
しまうために、進んで行こうとは
思わないというだけです。
それでも一応は、いくつか旅の経験が
あります。今回は数少ない旅の思い出を
お話しましょう。
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北海道の公園にて
バスツアーに参加して北海道に一度だけ
行ったことがあります。
北海道の印象を一言で言うなら、
やはり ” 広大 ” でしょうか。そして、
バスの移動距離が尋常じゃなく長い。
土地が広い分、移動時間がかかるのは
当然ですが、ずっとバスに乗っていた
気がします。
なので、観光スポットに着くと、
観光するためというより、足が伸ばせる
ということで乗客たちがこぞってバスを
降りるわけです。
まるで、遠洋漁業の漁師が、港について
久々に陸に上がるみたいな。
ただ、もう、十年以上前の話なので
北海道の観光スポットについてはほとんど
何も覚えていないのです。
延々と続くハイウェイと牧場、それから
山林。そんな味気の無い北海道旅行で
一つだけ覚えていることがあります。
*
記憶が確かならば、どこかの森林公園
だったと思うのですが、とにかく、
木が大きい。
巨大な広葉樹があちこちにそびえ立って
おり、それを見上げて関心していました。
まるで、不思議の国のアリスのように、
自分の方が小さくなってしまったような
錯覚すらあった。
暫く筆者がそびえ立つ樹木を見上げて
いると、一匹の小動物が太い幹をつたって
降りてきたのです。
それは、手の平ほどのサイズのリスでした。
リスは地面を覆った枯れ葉の上をカサカサ
音を立てながら走り回り、枯れ葉の中に
ダイブして潜り込んだり、ヒョコと頭を
出したリして、筆者の目の前を行ったり
来りしていました。
*
しばらく観察していると、リスは
枯れ葉に頭を突っ込んで穴を掘り始めます。
そして、一個の大きなドングリを両手で
抱えて立ち上がった。
” 食べるのか? ” と思ったのですが、
リスはそれを持ったまま、こちらをジッと
見つめて静止状態。
3、4メートル先のリスと筆者は数秒間
にらみ合っていましたが、不意にリスが
背中を向けると、2メートルほど移動して、
再び穴を掘り始める。
” そうか、ドングリを隠そうと
しているんだ ”
リスは作業を終えると、辺りを
キョロキョロしていました。
” ここなら見つからないはずだ ”
と言う感じで。
無論、筆者は、背後から、ずっとそれを
見ているわけですが、リスはそれが
見えていない様子。
それから、再び、振り返ったリスと
目が合います。
筆者の存在に気づいたリスは、慌てた
様子で埋めたばかりのドングリを
掘り出し始める。
リスは掘り出したそれを口の中に入れて、
ほっぺたをフーセンガムのように
膨らませると、降りてきた木の幹を
よじ登っていきました。
空を覆った広葉樹の葉が太陽の光を遮り、
木漏れ日を一面の枯れ葉に落とす。
筆者はしばらくベンチに座って、また、
リスが降りてこないか待っていたのですが、
それっきり姿を現してはくれなかった。
ゼロ磁場での思い出
” ゼロ磁場 ” というのをご存じでしょうか?
” ゼロ磁場 ” とは、地中にある磁気の
両極が衝突し、拮抗しあう場所、いわゆる
パワースポットです。
プラスとマイナスの力がぶつかり合って
動かない状態。つまり、動きの止まった
” ゼロ ” の状態をゼロ磁場と言うそうです。
日本にあるゼロ磁場の一つ、
長野県の分杭峠という場所があります。
もう、十年以上前の話ですが、
テレビ番組の中で、中国の有名な気功師が
来日した際に発見したパワースポット
として分杭峠を紹介していました。
当時の筆者は、それを何となしに
見ていました。
それから、何年か経って、予定も無く
過ごしていた連休中に、ふとそのことを
思い出し、急きょ分杭峠に行くことに
したのです。
*
分杭峠は険しい山道の中にあるので、
山の麓の駐車場から小型のシャトルバス
に乗って、坂道を登っていくという
道のりです。
インターネットで調べると連休中は
大変混雑するとありましたが、案外、
バスはガラガラで、実際に分杭峠に
到着した時も、思っていたより人が
少なかった。
訪れた人たちは、細い山道を少し下った
ところにある斜面に腰を下ろして、
ぼやっと目の前の景色を眺めているのです。
景色と言っても、目の前は生い茂った
木々があるだけなのですが、それでも、
まばらながら人が集まるということは、
そこに人を惹きつける何かがあるのか?
*
筆者も他の観光客たちと同じように、
段差に座ってしばらく時間を潰して
いました。
特殊能力のある人ならば、何か不思議な
パワーを感じ取ることが出来るのかも
しれませんが、筆者には、何も感じとる
ことが出来ませんでした。
ここに来たら
一つ試そうと思っていたこと。
話によると、ゼロ磁場では方位磁石の針は、
北を指すことなくグルグル回るらしい
のですが、ポケットに入れておいた
方位磁石を取り出すと、針は普通に北を
指し、少し拍子抜けでした。
後でこの記事を書きながらYouTubeで
確認すると、確かに方位磁石の動きが
おかしいですね。
動画の撮影場所は筆者の座った段差
ではなく、道の途中といった感じの
場所でした。
もしかしたら、少し位置を変えるだけで
磁場が変わるということなのかも
しれません。
結局、段差に座っていたのは、10分ほど
だったと思います。
食べる場所などありませんし、当時の
状況では、ほとんど観光地化されて
いませんでした。
ふと思い立った旅先でちょっとした
” 奇跡体験 ” を期待していましたが、
何も起こらず。
人生に起こる出来事には全て意味がある
と言いますが、一体、あの旅行は
何だったんだろう?
その答えは、今でも見つかっていません。
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旅路の先にあるもの
人は、なぜ、旅をするのでしょう?
長い道のりを走り続ける一台のバス。
その先に何があるのか分からないが、
何かに向かっていることだけは確か、
という希望だけを持って、
乗客たちは、ただ、座って、
流れる窓の景色をぼんやり眺めたり、
トランプをしたり、お喋りをしたり、
お弁当を食べたりして思い思いに過ごす。
運転手でさえ、その行く先を知らない。
ただ、果てしなく続く一本道を
走り続けている。
*
小さな少年が落書き帳に絵を描いている。
隣に座った父親がそれをのぞき込んで
こう尋ねる。
” 何なの、それは? ”
少年は答える。
” 今から僕たちが行く遊園地 ”
画用紙一杯に描かれたユートピア。
先頭に座っていた乗客が不意に
窓の向こうを見て、叫ぶ。
” おい、見ろ! ”
希望を失いかけていた乗客たちの表情が、
次第に明るくなっていく。
バスはスピードを上げて走り出す。
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