” 対話 ” による夢解釈|個人的背景を理解する

筆者が依頼を受け、夢を読み解く作業は
まず、依頼者への聞き取り調査から始まります。

夢は、その人の最もプライベートな領域から
生まれたものですから、解釈を行う前に
依頼者について十分理解しておく必要が
あるのです。

人を理解するという点では、
統計やカテゴライズといった方法を用いて
分析することが一般的に行われています。

夢占いは統計データの集積ですし、血液型、
性格診断、誕生日、職業、世代、人種など
タイプ別にカテゴライズすることで誰かを
理解しようという試みは、マーケティング
のようなマクロ視点では役立つかもしれません。

しかし、個人の人生において、こうした
アプローチは、あまり役立たない。

あなたが牡羊座だからといって、他の牡羊座
の人と全く同じ人生を生きているわけでは
ありません。

性格の面で一部共通する部分があった
としても、それ以外の大部分では、
ほとんど共通点は無いでしょう。

その二人が海に関する夢を見たとして、
” 牡羊座 ” という枠組みに、ほぼ意味は無い。

そういった場合は、遠回りをせずに、
直接、本人に聞けばよいのです。
” 海に関する思い出はありますか? ” と。

広告

隣の部屋から泣き声

次は、とある女性が見た夢の一例。

妹の部屋から泣き声が聞こえる。
 
” 出てきなさいよ ”
自分はドアの前に立ち、ノックする。
 
ドアが少しだけ開くと、
隙間から暗い表情の妹が顔を見せる。
目が充血している。

” 嫌な夢でした。目が真っ赤でしたし、
妹の身に何かあるのかと思って・・ ”

彼女は夢の中の妹の様子を見て、
心配になり、夢解釈の依頼をしたという
ことでした。

筆者は、この夢を分析するにあたり、
彼女の家族関係について理解しておく
必要があると思いました。

” ところで、妹さんのお年は、
” どれぐらい離れてるんでしょう? ”

” 私と同じです。同じ日に生まれました ”

” えっと、つまり・・双子? ”

” はい ”

” ああ、なるほど・・
妹さんとは同居されている? ”

” いや、私は一人暮らしで、
妹は実家に両親と暮らしています ”

” ということは・・
夢の舞台はあなたのご実家ですか? ”

” ええ ”

” 実家では、あなたと妹さんの部屋は
別々なんですね? ”

” ええ、私の部屋の向かいに妹の部屋が ”

” では、夢の中で泣き声が聞こえた
というのは・・ ”

” 私が自分の部屋いると、妹の部屋から
聞こえてきたという感じです ”

” なるほど ”

” あなたが一人暮らしされているというのは、
お仕事の関係で? ”

” はい、上京して実家からは離れた場所に
住んでいます ”

” 妹さんは実家からお仕事に? ”

” ええ、そのようです ”

さて、夢の中では、
実家が舞台となっています。

まず、ここで引っかかるのは、本来は
一人暮らしをしているはずの彼女が、
実家にいるという設定です。

” 夢の中であなたはご実家の自室にいた
ということになっていますが、休暇中に
実家に戻っているというような細かな
設定はありましたか? ”

” いえ、休暇中という認識はありません。
どちらかと言えば、前から住んでいた
という感覚でいました ”

” 一人暮らしをされる以前の状態ですね? ”

” ええ・・そんな感じでした ”

つまり、この夢は、彼女の過去について
描いているのでしょうか? 

とは言え、潜在意識が過去を描くことは
ありません。現在の問題を処理するために
過去の記憶を利用することはありますが。

とすれば、彼女は現在、何らかの問題を
抱えている。夢の内容とそれが繋がって
いないだけなのかもしれません。

二人の分岐点

” 因みに、妹さんのお人柄について
少し教えて頂けますか? ”

” ええ、どうぞ ”

” 例えば、性格について・・
あなたから見た妹さんの長所、短所、
あなたと違う部分、似ている部分など、
思い当たることがあれば、お願いします ”

” ・・そうですね。どちらかと言えば、
性格は似てますね。音楽の趣味も、
好きな映画も大体同じですし・・ ”
進路も同じ大学に行くことになっていました ”

” 途中まで? ”

” ええ、私は合格したんですが、
妹は不合格に ”

” それは残念ですね ”

” 私がギリギリでしたから・・
妹は当日、体調が悪いと言ってましたし、
多分、運が悪かったんです ”

” つまり、それがきっかけであなたは上京し、
妹さんは地元で就職された、
ということですか? ”

” そうなります ”

容姿も、趣味も、目標も同じだった二人が、
” 入試 ” という人生の分岐点で、たまたま
別々の道を行くことになった。

彼女の話では、その後、妹は少し変わった
ように感じると言います。

” 変わった? ”

” ええ、この前電話で話したんですが、
以前より楽観的になったというか・・ ”

” ああ、最近、妹さんと電話で話された
んですね。それは夢を見る前ですか?”

” えーっと、・・前です ”

” 差し支えなければ、話せる範囲で結構
ですので、どういったことを話されたのか
教えて頂けますか? ”

” 職場でプロジェクトマネージャーを
外されまして・・”

” お仕事は開発関係? ”

” はい。IT系の会社に勤めています ”

” なぜ、外されたかお尋ねしても? ”

” 分からないです。仕事でミスをした
わけでもありませんし・・
会社では時々意味不明の人事をすることが
あるので、それが私に来たという感じです。
とにかく突然でした ”

” 現在は、そのプロジェクトから
離れたんですね? ”

” いえ、上司に後任のマネージャーの
サポートをしろと言われて・・
だったら完全に外してくれと思いました。
すみません・・つい愚痴ってしまって ”

” いえいえ、構いません ”

広告

不可解な間取り

” 夢の内容についてお尋ねしますが・・
ご実家の自室にいる場面から
始まるんですよね?”

” ええ ”

” 自室や妹さんの部屋、実家全体について、
何か気になったことはありますか?
例えば、間取りとか・・ ”

” 間取り・・?
そう言えば、階段の位置が逆でした・・”

” 逆だったというのは? ”

” 部屋から出ると階段は右側に・・
夢の中では、なぜか左になってました ”

” 因みに、妹さんの部屋は位置的に
どこになるのでしょう? ”

” 廊下を挟んで私の部屋の正面にあります ”

” つまり、妹さんの部屋から出ると、
階段は左側にある? ”

” ええ、そうです・・あ、逆になってるわ。
妹と私の部屋が入れ替わってるってこと
ですか? ”

潜在意識は、なぜか彼女と妹の部屋の
位置を入れ替えている。この不可解な
演出の意図は何でしょう?

夢の中の実家は、ただ単純に実家そのものを
再現しているわけではありません。それは、
彼女の心の中に建てられた ” 実家 ” という
イメージに過ぎない。

つまり、彼女の心の中には二つの部屋が
存在している。自室と妹の部屋です。
そして、自室には彼女自身が、もう一つの
部屋には妹が・・

しかし、部屋の位置が入れ替わっており、
実際は、彼女は妹の部屋にいることなり、
妹が姉の部屋にいることになります。

彼女と妹は同じ道を歩いてきた。しかし、
二人は、とある人生の分岐点で別れること
になった。

その後、彼女は自分の望んだ仕事に就く
ことが出来た。一方、妹は ” 挫折 ” を体験
したことで、その後の生き方が少しだけ
変化した。

そして、今度は彼女自身が ” 挫折 ” を経験
する時が来た。入試試験という分岐点で
悔しい思いをした妹のように。

彼女の潜在意識は、現在の一人暮らし
ではなく、彼女がまだ上京する以前の実家を
再現する必要があった。

分岐点となったあの日です。

” 入試の結果が出た当日の様子を
覚えていますか? ”

” 覚えています。
妹が部屋から出てこなくなって・・
大泣きしているのが聞こえました。
二、三日で戻りましたけど・・ ”

一見すると、この夢は妹が挫折を味わった
あの日を再現しているようにも見える。
しかし、部屋の位置が逆になっている点に
何か別の意味がありそうです。

彼女自身が妹であるなら、姉の部屋で
泣いている人物は、一体、誰なのでしょう?

対話の必要性

” 妹さんに電話をして、
気分は落ち着かれましたか? ”

” ええ、多分・・
妹に話したら、笑いながら、
‘ 別にいいんじゃない ‘ と言われて、
その声を聞いたら、最初はむかっと
しました。
心の中で ‘ 良くない!’ と叫びました ”

” そうですか ”

” 今は、妹の言っていることも
分かる気がします。
私、気にしすぎだったのかも・・ ”

姉の部屋で泣いている人物、
それは彼女自身です。

職場で挫折を味わい、悔しくて心の中で
泣き続けているもう一人の自分。
妹の部屋にいたのは、妹の発言に同調し、
客観的視点を取り戻した自分です。

潜在意識は、二人の自分に姉と妹という
役を与え、それぞれの部屋に配置した。
そして、妹役の彼女に、取り乱した
もう一人の自分を慰める役割を与えた。

この夢は、当時、姉が受験に失敗した妹を
慰めるために部屋のドアをノックした時
のように、今度は、妹が姉の部屋のドアを
ノックするというストーリーなのです。

ドアの隙間から見せた目を腫らし暗い顔を
した妹のようにも見えたその人物は、
彼女自身です。彼女は顔を見て、それが
自分だと気づかず、妹だと思い込んだ。

” 苦しんでいるのは、私ではない。
妹がまた、挫折したんだ ”

もし、それが自分自身であると気づいて
しまえば、再び平常心を失ってしまう。
潜在意識は、双子という特性を利用して
彼女に錯覚を与えた。

さて、今回の夢は ” 双子 ” という特殊な
要素が、夢の内容に深く関わっていました。

そして、二人はとある出来事で分岐し、
違った生き方、違った価値観を持つように
なった。

もし、二人をカテゴライズするなら、
年齢や性別、星座や血液型という意味では、
同じ円の中に入るでしょう。

都心に就職したか、地方で就職したか
という基準で区切れば別々の円に入る。

楽観主義者か、悲観主義者か、
という枠組みでは、以前は別々の円に、
今は同じ円にいるのかもしれません。

それで、彼女の何が
理解できるのでしょう?

筆者が行ったことは極めてシンプル。
” 話を聞いた ” ただ、それだけです。

そこには様々な経緯、いくつかの
ストーリーが複雑に絡み合いながら、
その人の背景を作っている。
その一つ一つを丁寧に紐解いていく。

夢とは、人の心そのものです。

つまり、人の心を理解しなければ、
夢を理解することは出来ない。

そして、人の心を理解するためには、
” 対話 ” と ” 時間 ” が必要なのです。

 

関連記事


読む

読む

読む

読む

広告

 

この記事をシェアする