行きつけのお店とか、隠れ家といった
プライベート空間。
筆者は、そういった場所を自ら進んで
作ろうとは思わないのです。通常は。
自宅だけが唯一のプライベート空間です。
と言っても、インドア派の筆者にも、
捻り出せば、二、三、思い当たる場所
というのがあります。
まだ、誰にも教えていない。
というより、教えるほどの場所ではない
と言った方が正しいのかもしれませんが・・
今回は、” 場所 ” に関するエピソードを
いくつか紹介しましょう。
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秘密のスポット
丁度、大きな仕事が一段落した時期でした。
その時期、時間さえあればブログを
書いたので、本当の意味での ” 休日 ” と
言える日は無かった。
仕事にメリハリをつけるといいと、
よく聞きますが、筆者はそれが出来ない
タイプでした。
ただ、その時は、
なぜか、海を見たくなったのです。
もう何年も行っていませんでした。
季節的には、春の終わり、初夏の少し前
というところで、早朝に行けば誰もいない
だろうと思い、朝の6時頃に自宅を出発
しました。
海と言えば海水浴場。
トイレもありますし、自動販売機も
ありますし、朝食を取ることも出来る
のですが、筆者は、そこではなく、
一箇所だけ知っている秘密のスポットを
目指していました。
そこは、トイレも無い松林の先にある
小さな砂浜で、殆ど人の来ない場所です。
以前、その一帯で道に迷ってしまい、
車でグルグル回っているうちに、
その砂丘を見つけたのです。
*
秘密のスポットに到着すると、案の定、
誰もいません。
筆者は、砂の上に腰を下ろして、
繰り返し寄せる波を眺めながら、
コンビニで買っておいたサンドイッチを
黙々と食べました。
その後は、することもなく、波打ち際を
散歩したり、拾った小石を海に投げたり
していました。
ただ、それだけなんですが。
*
何の目的も無く、無意味な時間が
流れていく。
数匹のカモメが、海の上で風に煽られ
ながら同じ場所を飛んでいる。
砂の上の足跡は押し寄せる波によって、
消え去っていく。
誰も、砂丘を歩く自分の姿を見ていない。
筆者が忘れてしまえば、海に行った
という事実は消え去るのです。
ただ、なぜか、時間が勿体ないとは
感じない。
多分、また、いつか
ここに来ることになるでしょう。
この感覚を忘れた頃に。
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隠れた名店
子供の頃、時々連れて行ってもらった
小さなラーメン屋がありました。
古びたのれんをくぐって、ガラガラと
手動の引き戸を開けると、店の主人が
しゃがれた小声で ” いらっしゃい ” と
声をかける。
カウンター席が六席ほどあり、座敷に
小さなテーブル席が一つあるだけの
こじんまりした内装です。
そして、店内の高いところに小さな
ブラウン管テレビがついていた。
*
壁は調理油によるものなのか分かり
ませんが、少し黄ばんでいて、
この店が長年営まれてきたことが、
子供の私にも容易に想像出来ました。
カウンターも、テーブルも、椅子も
何もかもが、昭和の時代で止まっている。
そして、いつも必ずテーブル席に
座ることが出来ました。決して、
繁盛しているとは言えなかった。
今、考えてみると立地条件も悪かった。
車を止める駐車場も無く、歩いて行くか、
近くの砂利道にこっそりと路上駐車して
行くしかなかった。
とても、恋人に ” 行きつけの隠れた名店 ”
などと言って、紹介出来るような店では
ありませんでした。
ただ、味は、絶品だった。
人によって好みは分かれると思いますが、
筆者にとっては、これこそがラーメン
というような、こってりとしたスープが
最高でした。
それから、いつもの餃子とチャーハンと、
決して綺麗とは言えない年季の入った
厨房で、白髪のご主人が湯気の中で、
無言で大鍋をかき回している姿が今でも
思い浮びます。
もう、大人になってから一度も、
行かなくなってしまった。
あの店は、まだ、やっているのだろうか?
秘密基地願望
女性には、あまり、ピンと来ないのかも
しれませんが、男性には ” 秘密基地願望 ”
というのがあります。
筆者が勝手にそう思っているだけなのかも
しれませんが・・
岩場にちょっとした洞窟っぽいものが
あったり、雨風を凌ぐちょっとした
スペースがあれば、それを見つけた少年
たちに ” 秘密基地 ” と命名されるのです。
いわゆる ” 男の隠れ家 ” という発想も、
この秘密基地願望からの系譜だと思います。
都心に住む現代の子供たちには、
そういった場所を見つけるのは難しい
かもしれません。
治安とか、防犯という視点で考えると、
そういう場所は地域に少なくなっている
のだと思います。
*
さて、少年たちは秘密基地で
何をするのか?
することなどありません。
ちょっと集まって雑談する程度です。
そもそも暗くて狭い場所ですから、
長時間滞在出来るようなところでは
ありません。
ただ、欲しかっただけ。
学校でもなく、親の待っている家でもなく、
” 自分たちだけの場所 ” というのを。
そして、いつの間にか誰も来なく
なってしまう。
” 秘密基地 “という子供じみた遊びに
興味を示さなくり、皆、大人になっていく。
ゲームとか、ガールフレンドとか、
塾とか、より充実した人生へとシフト
していく。
少しばかりの思い出と虚しさ、わずかな
痕跡だけを残して、” 秘密基地 ” は、
忘れ去られていく。
何だか、寂しい気もしますが・・
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