悪夢には様々なシチュエーションが
あります。殺人者が追いかけてくる
リアルな夢もあれば、悪霊に憑りつかれる
といったホラー的設定もある。
では、神話上の怪物が登場した場合は、
どうでしょう?
三つの頭を持つ番犬ケルベロス、
一つ目の巨人サイクロプスなど、
各地の神話で登場する有名な怪物たち。
そのモチーフが ” 神話 ” だけに
それ以外の悪夢に比べて神秘的なおもむき
があります。
また、登場したものが ” モンスター ”
ならば、そのインパクトはとても大きい。
その迫力に圧倒され、解釈にバイアスが
かかることも。
もし、あなたが古代神話を題材にした
SF映画を見た後に夢の中でドラゴンが
登場したとしたら、夢がどういった目的で
作られたかは別として、明らかに映画の
影響でそれが登場していると思うでしょう。
そこで分かることと言えば、潜在意識が
目的を達成するために、映画の中の
イメージを利用したということだけです。
では、きっかけとなりそうな出来事に
全く心当たりがない状態で、それが
登場した場合、どう解釈すべきでしょう?
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恐るべき存在、それは予兆か?
次は、筆者が見た夢の一例です。
地響きのような雷鳴が聞こえる。
窓から顔を出し見上げると、
空の色は赤く、一匹のドラゴンが
自宅上空を旋回している。
上空を飛んでいたのは、SF映画でよく
登場するようなコウモリのような翼を
持った、いかにも ” ドラゴン ” といった
感じの生物でした。
ただ、襲われるということはなく、
それは低い唸り声をあげながら、
ゆっくりと飛び回っていた。
空の色は異様で、燃えるような赤に近い
オレンジ色。多分、こんな夢を見たら
誰もが思うでしょう。
” とんでもない凶事が
起こる前兆ではないか? ”
筆者も、目覚めた直後にその考えが
頭を過りました。しかし、同時に
一つの疑問が浮かんだ。
なぜ、わざわざ ” ドラゴン ” なのか?
それが大きな凶事の前兆ということで、
筆者が潜在意識の立場なら、あまり馴染み
のない空想上の怪物など採用しないでしょう。
それは、カラスの大群でもよかった
でしょうし、空一面の不気味な雷雲でも
よかった。その方がよっぽど現実的です。
それらを押しのけて ” ドラゴン ” という
設定をねじ込んだのは、なぜか?
*
例えば、とある家に災難が訪れるとします。
その数日前に一家の主が不吉な夢を見る。
家の上でカラスの群れが飛び回っている
といったような。
潜在意識は、
なぜ、カラスを選択したのか?
もし、現実世界であなたの自宅にカラスが
群がっていたら、嫌な気分になりますよね。
普通なら、けたたましく鳴くカラスを見ても
可愛らしいとは思わないでしょう。
潜在意識は、その頭の中のイメージを
利用する。
嫌な気分にはなる。でも、大して害はない。
精々、車が糞で汚れるぐらいです。自宅の
上空に一時的に群れが集まっているだけで、
しばらくすれば、それは居なくなるでしょう。
訪れる悪い出来事を襲来したカラスの一群に
置き換えてしまえば、実害を被ることなく、
やり過ごすことができる。
潜在意識がカラスを選択した理由は、
それが古来から不吉な象徴として
忌み嫌われてきた動物だからではなく、
その悪いイメージを利用して、
実際の災いを疑似的に回避するためです。
もし、あなたがカラスという動物を
知らなかった場合、この手法は使えない。
頭の中に ” 悪いイメージ ” が無いからです。
*
さて、” 置き換え ” によって災いを回避
するとして、なぜ、いちいち回避する
のでしょう?
それは、疑似的回避に過ぎないわけです
から、実際の問題は解決できない。
どうせなら完全無視を決め込んで
好きな芸能人とデートでもしている夢を
作ればいい。
しかし、現実世界ではデートの最中に
ホームカメラに接続したスマホに空き巣の
様子が撮影されたら・・
気になって食事どころではないですよね?
潜在意識も同じです。
” 楽しい夢なんて作ってる場合じゃない。
どうにか災いを回避しなければ! ”
そこで潜在意識の出した答えが疑似的
回避なのです。だってそうするしかない
でしょう。身体は眠っているのだから。
魔物を召喚した目的
さて、今回のケースでは自宅の上空に
” カラス ” ではなく、” ドラゴン ” が
飛んでいるわけですが、それを単に
災いの暗示と解釈することには、
若干の疑問がありました。
災いを回避するための方策として、
カラスの群れではなく、ドラゴンを
使用したというのであれば、
それは ” 災いの回避 ” と呼べるのか?
という疑問です。
旋回しながら地上を物色し、自宅から
筆者が出てくるのを狙い打とうとしている
のであれば、迂闊に家から出ることも
出来ません。そのうち口から吐いた炎で
自宅を燃やされるか、鋭い爪で家ごと
踏み潰されて命を落とすか・・
もうそれは、災いの回避どころか
” 災い ” そのものです。
つまり、これは、置き換えによる回避策
ではない、そう感じたのです。
だとしたら、一体、何なのか?
*
これが凶事の暗示ではないと考えた理由は、
潜在意識が ” ドラゴン ” を選択したという
点と、もう一つあります。
筆者は上空を見上げた時、悠然と旋回飛行
を続けるそれを眺めて次のように思った。
” おお、凄い。
結構、しっかり再現されてるな・・ ”
そう、これは明晰夢です。つまり、筆者は
それが夢の中だということを知っており、
ドラゴンは実物ではないということを認識
している。
ただ、100%コントロールできるという確証
はありませんでしたので、自分で召喚した
それに自分が食い殺されるかもしれない
という心配はあった。
これが明晰夢ということなら、現実世界で
起こる凶事を ” ファンタジー ” に
置き換えて災いを回避しようとしている
という解釈も可能です。
踏み潰されても、それは単なる夢。
ただ、この解釈では、空の色や自宅に
関する設定に腑に落ちない点があった。
しかも、この夢を見てから、その後、
実生活で何か起こったのか?と言われると、
実は、何も起こらなかったのです。
*
なぜ、召喚したものが ” ドラゴン ” で
なければならなかったのか?
なぜ、それを自宅上空に配置したのか?
それは、夢の中の自宅が、厳密には現在
住んでいる家ではなく、以前住んでいた家
であるということに関係しています。
筆者はその家で学生時代を過ごした。
ドラゴンは映画に登場するような大きな翼、
鋭いかぎ爪、長い首、とにかく恐ろしい姿
をしていた。いや、この夢においては、
恐ろしくなければならなかった。
なぜなら、そんなものが飛び回っている
場所には誰も近づかない。ドラゴンは筆者
が自宅から出てくるのを狙っているわけ
ではなく、家を外敵から守っているのです。
旧家は筆者にとって ” 青春時代 ” の象徴。
つまり、実際に守っているのは、
家ではなく ” 青春時代 ” です。
ただ、何十年も前に過ぎ去った時代など、
今頃、守る必要はないでしょう。だから、
厳密には、青春時代にはあったが、
失われつつある何か、という解釈をする
方が自然です。
身体的、もしくは ” 精神的若さ ”
といったような。
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失われゆくもの
さて、外敵から身を守るとしたら、
神話上の怪物をわざわざ利用する必要は
ないという見方もあるでしょう。
例えば、ライオンやトラといった猛獣
であっても似たような役割は果たせたの
かもしれません。ただ、いくら猛獣とは
言え、ドラゴンには敵わない。
大切なものを守らせるための番人が、
もはや地上には存在せず、
神話上の生物を選ぶしかなかった・・
だとすれば、それほど守りたかった
のでしょうか、それを・・
その頃、筆者は、年齢を重ねつつ段々と
自分の中で ” 若さ ” が失われていくことを
何となく ” 嫌だな ” と思っていました。
食生活を見直したり、当然のようにして
いた夜更かしもやめて、健康に気を使う
ようになった。
その中で一番、気になっていたのは、
” 昔ほどワクワクしなくなった ” という
精神的な ” 老い ” を感じることでした。
学生時代は、都市伝説や予言について
友人と話したり、天使や悪魔の解説図鑑
を黙々と読みふけったり、
ゲームでモンスターを討伐したり、
空想の世界に思いを馳せては ” ワクワク ”
していた。
何だか自分が子供の頃に軽蔑していた
” つまらない大人 ” になったような気が
していたのです。
筆者の潜在意識は、自己の中で消えつつある
” 若さ ” の欠片を守るために象徴的な番人を
召喚した。子供の頃に、もしそれが夢に
登場したなら、きっと ” ワクワク ” したに
違いない存在を。
空が燃えているのは、ドラゴンの吐く
炎によってか、もしくは、
焼け落ち、滅びゆく ” 空想の世界 ” か。
この夢におけるドラゴンは、
” 最後の砦 ” です。
*
さて、今回は神話上の生物が登場する夢
について一つの事例を解説しました。
今回の夢では、ファンタジーの世界では
比較的ポピュラーな ” ドラゴン ” が登場
しています。
現実世界に存在する生物ではなく、
架空の生物を登場させる理由の一つは、
実在するものでは目的を達成することが
出来ない場合に、神話や映画などから
インスピレーションを得た潜在意識が
そのイメージを利用するというものです。
無論、それが10年前に観た映画だろうと
2時間前に観たものだろうと関係ありません。
ただ、潜在意識が今必要だと考えれば、
それは召喚される。
今回のケースでは、滅びゆく世界の守護者
としてドラゴンが登場しているわけですが、
最強生物でなければならないという条件を
満たすためには、神話からチョイスする
しかなかった。
また、” ファンタジー ” が息づいていた頃の
今消え去ろうとしている ” 精神的若さ ” が
最後の想像力を振り絞って送り出した存在が
ファンタジーの世界から召喚されたのは
必然だったのでしょう。
現実の上で
もし、あなたの夢に神話上の生物が登場
したとしたら、それは今回紹介した夢とは
全く違うものでしょう。登場しているのも
ドラゴンではなく別の生物かもしれない。
まず、それが何であれ、何かしら理由が
あって登場しているのです。しかし、
その理由を探し当てるのは容易くはない。
なぜ、他のものではなく、それが選択
されたのか?
なぜ、見慣れている手近なものではなく、
わざわざ遠くのものを選択したのか?
こうした、いくつかの疑問について考えて
いくと、それらしき解釈の糸口を見つける
ことが出来る。
あなたが大人ならファンタジックな夢を
見るより現実的な夢を見る方が圧倒的に
多いでしょう。だから、ある意味、
大人のあなたが神話を題材にした夢を見た
ということは ” いつもとは違う ” わけです。
なぜ、いつもとは違う視点から、
夢を作らなければならなかったのか?
という感じです。
いつもは日常的な夢で十分だった。しかし、
この問題はそれでは片付かなかった・・
とすれば、それは日常の細かな問題
ではなく、もっと大きな事柄がテーマに
なっていると推測することも出来る。
例えば、人生について、老いについて、
哲学的な何か、通常は生活の中であまり
意識されることのないテーマが何かを
きっかけに水面に顔を出しているのかも
しれません。
*
では、神話上の生物が登場したとして、
それは現実的なテーマを伝えているだけで
未来への暗示といった神秘的な要素が
全く無いのでしょうか?
例えば、夢の中で ” 竜 ” が登場したとして、
それは天啓なのか?
無論、解釈は自由です。しかし、断定は
できない。
いずれにせよ、滅多なことでは登場しない
それが登場しているというなら、
その夢は希少であり、特別であることには
違いないでしょう。
後は、それがどの現実とリンクしているか、
ということだけです。
結局、現実世界で生きる私たちには、
現実世界で起こることしか認識できない。
それが神の啓示であろうと、現実的テーマ
であろうと、どちらでもよいのです。
訪れるものが災いであっても、
奇跡だったとしても、全ては
” 現実 ” の上でしか起こらないのだから。
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