夢の中で ” お笑い芸人 ” が登場するといった場合、そのシチュエーションにも色々あります。
なぜか、自分の知り合いとして登場し、何気に会話したり、行動を共にしている。
普通ならば彼らは芸能人ですから、それ自体がありえない状況ですが、夢の中では何の疑いも無く、至って自然な形で彼らが登場する。
なぜ、夢の作り手である潜在意識は、知人や友人、家族でもなく、あえて、芸能人をキャスティングしたのでしょう?
その疑問に答えるには ” お笑い芸人 ” という特殊な職業が、夢の中でどんな役割を果たしているのかを考える必要があります。
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現実になった夢
次は、とある男性が見た夢の一例。
車を運転している。
信号待ちで停車していると、交差点右側からブレーキ音と共に大きな衝突音。
後部座席から「あーあ、やってもうた」と声し、振り返ると、お笑い芸人のT氏が座っている。
T氏にテレビでこのことを話すのかと聞くと「言わんといてな」と言い、口の前に人さし指を立てる。
それから数日後、彼は会社からの帰宅途中、交通事故の現場に遭遇した。
彼は自身の体験が予知夢なのかを確認するために、今回、夢解釈の依頼をしたということでした。
もし、この事故がそれにあたるなら、自分の身に危険が迫っている警告夢である可能性は無くなくなると言うわけです。
*
実際、彼のように交通事故の夢を見て、その夢がリアルであるほど、自身の身に起きる予知された未来かもしれないと心配する人はいます。
そういった場合、筆者は次のように説明することがあります。
” 何のメリットがあって、潜在意識は自分が轢かれる夢を作るのですか?誰だって理由も無く自分が死ぬ映像なんて見たくないでしょう ”
私たち人間と同じく、潜在意識も何らかの動機が無ければ動かない。そもそも潜在意識とは人間の本質です。
だから、仮に、本人が事故死する夢を見たとしても、その夢が未来そのものを映しているわけではない。
そこには、必ず別の理由がある。
ただし、今回の場合は、夢を見た彼自身が轢かれるわけではなく、単に離れた場所の事故を目撃するというストーリーです。
こういった場合は、どう解釈すべきか?
*
「元々、夢に関心があって、検索をしていたら、このブログを見つけまして」
「なるほど」
「読んでいて思ったんですが・・」
「どういったことを?」
「こう書いてありますよね。それが未来であっても、夢は都合の悪い事実を都合の良い形に書き換える、と」
「ええ、おっしゃる通り」
「本当は自分の身に起きる事故が、都合よく書き換えられた結果、誰かが起こした事故という夢になった、という可能性は?」
「確かに、辻褄が合いますね」
「ですよね。だったら、この夢は僕自身に起こる事故という解釈も可能ですよね?」
この視点は重要です。
夢に ” 書き換え ” が全く行われないとしたら夢を作る意味が無くなる。逆を言えば、都合よく書き換えるために夢は作られる。書き換えの必要が無ければ、そもそも夢にならない。
つまり、彼の見た夢も書き換えられた結果です。
” お笑い芸人 ” の特質
確かに、自身に起こる出来事を他人の出来事に置き換えて ” 他人事 ” にしようとしていると考えるならば、一応、解釈としては成立しています。
ただ、筆者には、一つ引っかかる部分がありました。それが後部座席に座るT氏の存在。
彼は、なぜ、そこに座っているのか?
もし、これが自身が遭遇するであろう事故を予知したものであるなら、お笑い芸人を登場させて場を和ませるというようなカジュアルな演出を行っている場合じゃない気がします。
「ところで、あなたが遭遇した実際の事故の状況は、どういった感じでしたか?」
彼の説明では、実際に目撃した事故は夢の中で起こったものとは違っていたと言います。
夢の中では、交差点、彼から見て、丁度右手でクラッシュ音が聞こえた。実際は、帰り道に衝突したと思われる二台の車とパトカーが交差点脇で停車しているのを通りすがりに目撃したというだけ。
「車の色や車種については、違いはありましたか?」
「いや、見てないんです」
「夢の中では、交差点の右方向で事故があったのでは?」
「ええ、事故があったのは確かですが、見る必要も無いかと思いまして・・」
「つまり・・あなたはすぐ近くで起きた事故の状況を確認しなかった?」
「ええ」
普通ならば、驚いて振り向くといったリアクションがあってもよい場面で、事故にあまり関心が無いといった彼の様子に筆者は疑問を抱きました。
「それは・・つまり、事故の惨状を直視するのが辛かったから、ということですか?」
「ああ、どうでしょう。特にそういった感情は無かったと思います。どちらかと言えば、落ち着いていました・・」
*
彼の事故に対する奇妙なリアクションと、もう一つ、この夢には不可解な演出がされている。なぜか、後部座席に芸能人のT氏が乗っていたという部分です。
” お笑い芸人 ” という職業は、いくつかの特質があります。
一つは、有名人である。
一つは、人々を楽しませる存在。
一つは、人の性を体現者である。
一つ目の ” 有名人である ” という特質は、注目を集める。もしくは、注意を惹くという意味では、カモフラージュとして利用される場合があります。
例えば、夢の中で有名人とあなたが行動を共にしているというシチュエーションならば、人々の視線が気になるのは、隣にいるのが有名人だから、と思わせることができる。
間違ってもその視線が、正しくない行いを続ける自分に向けられた批判であってはならない。有名人を登場させているのは、そのための言い訳です。
もしくは、有名人と同じグループに属することで、周囲から評価されたいという心理の現れと読むことも出来る。
二つ目の ” 人々を楽しませる存在 ” という特質は、有名人でなくてもよいでしょう。
クラスの人気者でも、あなたの周りにいるおっちょこちょいな人でも、いつもふざけてばかりいる男子生徒でもいいのですが、その場にいると雰囲気が明るくなるようなキャラクターが登場することで、夢の中に漂う深刻な空気を緩和する効果があります。
例えば、ホラー的、もしくは緊迫した場面に面白い人が登場すると、何となくホッとします。潜在意識がその場面には安堵感が必要だと判断した結果、彼らは投入されたのです。
三つ目の特質、” 人の性の体現者である ” というのは、弱み、卑しさ、小さな器、くだらない拘り、恥ずかしい勘違い、コンプレックスなど、人間の本質にスポットライトを当てながらも、それを ” 笑い ” という形に昇華する高度な技術を持っている。
例えば、” 年を取りたくないな ” と思う出来事があったとして、夢の中であなたより一回りも年上のお笑い芸人が自虐ネタを披露して周りを笑わせている。
その夢は、年齢に対するコンプレックスを吹き飛ばすためのものです。
” あの人があそこまで出来るなら、自分の悩み事なんて小さなことかも・・ ”
ネガティブなものをポジティブなものへと変換するための ” 変換装置 ” のような役割として登場することがあります。
不自然なやり取り
さて、この夢における ” T氏 ” に与えられた役割とは、何だったのか?
それは、彼とT氏の事故後の会話内容から伺い知ることが出来ます。
彼が ” 事故についてテレビで話すのか?” と尋ねると、T氏はこの一件について ” 秘密にしてほしい ” と答える。つまり、T氏はそのエピソードをテレビで話すかもしれない。
ただ、起こったことと言えば、交差点の事故を目撃したというだけですから、エピソードとしては、あまり面白くは無さそうです。
事故の当事者であり、警察官が登場し、一悶着あったというならネタとして成立するかもしれませんが、それは誰かの起こした ” 他人事 ” です。普通ならスルーでしょう。
なぜ、彼は、自分からT氏にそのような質問をしたのでしょう? この点も少し不自然です。
そう考えると、この夢は、自身に降りかかる交通事故を予知していると言うような単純なものではないようです。
*
「あなたは事故を見なかった・・」
「ええ」
「T氏からは、それが見えていたのでしょうか?」
「ええ、右手の方を覗いてました」
「あなたが運転席で、T氏は左後部座席、つまり、斜め後ろに座ってたんですね?」
「そうです」
やはり、二人の座る位置、事故の起こった方向から考えても、彼が右手を見なくても済む状況が作られています。
もし、事故現場が左手あれば、T氏を見るために左を振り返らなければならない。必然的に事故を目撃することなる。
右手に大きなトラックを配置しておけば、右手を確認できない状況が作れますが、それではT氏も事故現場を確認することができない。
つまり、この夢の主たる目的は、T氏にだけに事故の状況を目撃させることです。
クラッシュ音を聞いても彼が右方向を見なかったのは、クラッシュ音自体が彼自身の仕込んだ演出だから。
彼は最初から、
事故が起こることを知っていた。
彼がT氏に、この一件をテレビで話すか質問したのは、二つの意味があります。
一つは、T氏が事故を目撃したことを確認するため、もう一つは、それを公共の電波を使用して多くの人に伝えることを確定させるため。
つまり、彼はT氏を利用して ” 事故 ” に置き換えらえた ” 何か ” を拡散させようとしています。しかも、その情報源は秘密でなければならない。
そして、クラッシュ音は彼が用意した演出です。つまり、情報源とは彼自身。
では、彼が公にしたがっている ” 何か ” とは、一体、何でしょう?
T氏の役割
「夢に関心を持っていると言いましたが、そのきっかけは何だったのですか?」
「ああ、そうですね・・前にも予知夢を見たことがありまして、それが実際に起こったので・・」
「そういった体験は、一度きり?」
「いや、何度かあったと思います。でも、よく分からない場合もあります」
「もしかして、事故の夢は、今回だけではない?」
「あー、そうですね・・」
彼の話では事故に関する夢を何度か見ており、その中には実際に起こった出来事もあったと言います。
「当たったり、外れたりといった感じです」
「そういった体験について、誰かに打ち明けるといったことは?」
「いやー、さすがに・・SNSで発言したことはあったんですが、嘘つき呼ばわりされたので、それ以来、そういった発言はやめました」
*
ここまでの話を聞く限り、夢の中のクラッシュ音は、彼の予知体験そのものを象徴しているのかもしれません。
「今回の夢の中であなたは、クラッシュ音に反応しなかった・・事故を予測できていたから?」
「ああ、そうかも・・事故の状況は直接見てないんですが、直前に頭の中に映像が浮かんだんです」
「クラッシュ音の直前に?」
「ええ、それで・・ほら来たという感じで・・」
彼自身が夢の作り手ですから、クラッシュのタイミングを知っているのは当然です。
ただ、この夢において彼はハプニングに動じない態度をT氏に見せる必要があった。自身の予知能力を示すために。無論、それはT氏という拡声器を通じた世間に対する訴えです。
T氏に見せたかったのは、” 交通事故 ” というよりは、それを予め知っていた自身の態度の方、だったのかもしれません。
彼は、SNSで一度だけ、それについて語ったが、世間の反応は冷たかった。そこでT氏の話術と知名度を利用し、自分は批判されずにすむように身元を隠しながら、もう一度、世間にそれを投げかけようとした。
解釈を聞き終えて、彼は言いました。
「実は、T氏のアカウントをフォローしてるんです。何十万人もフォロワーがいて、日常の何気ない発言でも多くの ’いいね’ が付きます。内容が何であれ、やっぱり芸人さんが話すと面白くなるんですよね」
「 T氏が登場した経緯は、そういうことでしたか」
「何か、恥ずかしいですね。自分の自己顕示欲を夢で分析されるのは・・」
整合性
さて、この夢におけるT氏の役割は、多くの人にアプローチできる拡声装置であり、さらに、誰にも関心を持たれないつまらない話を面白くする変換装置です。
この二つの機能を有するT氏という存在を利用して、彼の潜在意識は目的を達成しようとしていた。
それでは、今回の夢には、予知的要素は全くなかったのか?
それは分かりません。
この夢では ” 交通事故に遭遇する ” というシチュエーションを採用していますが、その採用経緯が、過去の予知体験から引き出された記憶だったのか、それとも、数日後に事故を目撃するという未来の体験から引き出されたものだったのか、その部分は曖昧です。
いずれにせよ、この夢は未来を語っているわけではなく、現在の彼の心境を描いている。
*
今回は ” お笑い芸人 ” という特殊な職業が夢の中で、どういった役割を持つかについて解説しましたが、” 職業 ” という枠組みだけで全てが決まるわけではありません。
例えば、お笑いをやりながら俳優もやる人、俳優ではあるが喜劇役者であるとか、お笑い芸人ではあるが、政治や社会問題について積極的に発言する人など、様々です。
そして、登場する人物には、個々に ” 特質 ” というものがある。登場人物の分析は、まずは、それらを把握していくことが必要です。
そして、その人物が夢の中でどういった言動をしたか・・割り出した特質が正しければ、言動との整合性は取れているはずです。
例えば、今回の夢で言うなら、T氏の特質は ” 拡声と変換機能を有する ” ですから、T氏が目にしたものを公共の電波を使って、エンターティメントとして提供することに何ら不自然な点はありません。
仮に、T氏が運転席の彼を笑わすために小話を披露したり、彼と全く会話をしないという態度だった場合は、何かが間違っているのです。
解釈の最終段階では、夢全体の整合性についても注目してみましょう。
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