夢を見ていると、時折、登場人物が別人に入れ替わったり、動物が人間に、もしくは、人間が動物に入れ替わるということがあります。
また、人間や動物が物になるという理解しがたい状況になることもしばしば起こる。
現実世界ではありえないことですが、夢の世界では、それが全く何の違和感も無く成立する。
そして、最も奇妙なのは、夢を見ている私たちが、その ” 入れ替わり現象 ” について驚きもせず簡単に受け入れている点です。
例えば、夢の中で犬を知人だと思って話しかけていたり、飼い猫が床に落ちたアクセサリーに化けても特に驚くこともなく、それを拾って身に付けたりする。
一体、奇妙なこの入れ替わり現象は、どう解釈すべきでしょう?
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怪我をした犬、そして、少年
次は、とある女性が見た夢の一例です。
玄関に怪我をした犬が座り込んでいる。息も絶え絶えに苦しそうだ。
突然、犬が泣きじゃくる幼い少年になっている。
私は親に連絡を取るために電話番号を聞く。
この夢で特徴的なのは、怪我を追った犬が、途中から幼い少年に入れ替わるという部分。
なぜ、犬が、突然、少年になったのでしょう?
犬は犬のままでは、いけなかったのでしょうか? もしくは、最初から少年では、いけなかったのでしょうか?
*
まず、筆者は怪我をした犬の状況を詳しく聞くことにしました。
犬は、右前脚、そして、右後脚に怪我を負っていたということです。そして、その場にへたり込んでいた。
彼女が玄関から顔を出すと、希望の光を見るような哀れな眼差しで自分を見上げたと言います。
彼女は、筆者に尋ねました。
「足を怪我しているのは、なぜですか?」
彼女は、家族の誰かが足を怪我するのではないかと心配しているようでした。
筆者はこの質問に答えるには、もう少し、彼女の置かれた状況を知る必要があると感じました。
想定された憶測
まず、この夢の作り手は彼女自身ですから、犬を玄関先に配置したのも、怪我を負わせているのも、彼女による演出ということになります。
ここで、考えられるのは、犬が足に怪我を負っているのは、その場から動かすことが困難な状況を作るため。
犬が可哀そうに思えますが、この夢において、彼女にとって犬は可哀そうな存在でなければならなかった。
夢の中で彼女は、自分を見上げる犬を見て ” どうにか助けてあげたい ” と思った。いや、思わされた・・
*
また、それと同時に次のような憶測をしたと言います。
” 首輪がついているから飼い犬だ。誰かが手に余って、家の前に置き去りにしたんだ ”
彼女は、どこかの無責任な飼い主が、面倒事を見ず知らずの人間に押し付けていったことに腹を立てた。
” 一体、どこの飼い主なんだろう? ”
この夢の中で行った彼女の憶測は、極めて重要です。なぜなら、この演出は彼女にそう思わせることが目的だから。つまり、彼女の憶測は、予めシナリオに組み込まれた想定です。
さて、ここまで解説しましたが、一体、潜在意識はこれら意図的演出によって、何を伝えようとしているのでしょう?
夢を見た背景
筆者は、彼女に尋ねました。
「最近、日常生活の中で、何か、面倒に感じるといった事に心当たりは?」
筆者には、怪我をした犬が面倒事の象徴のように思えたのです。
彼女いわく、最近、会社の取引先の男性から個人的に食事に誘われているとのことでした。
彼女としては、あまり気が進まず、どうやって断ろうかと気を揉んでいた。
雑談に付き合って話しているうちに相手に好意を持たれてしまったようだ、と彼女は経緯を説明しました。そして、元々、自分は断り切れない優柔不断な性格だと言います。
彼女の性格は、今回の夢にも表れている。
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もう一度、夢の内容を振り返ってみましょう。
怪我をして動けない犬。
犬は、今にも振られそうな取引先の男性を表しているのでしょうか?
そう解釈することも出来ますが、厳密には男性に対する彼女の罪悪感が、犬として登場していると考える方が妥当でしょう。
そもそも、この夢は彼女が作ったものですから、取引先の男性には無関係なものです。もしかすると、男性は誘ったことを忘れているかもしれない。
あくまで、夢に描かれているのは、彼女から見た ” 主観 ” に過ぎないのです。
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犬が怪我をして一歩も動けないというのは、彼女が面倒事を引き受けやすい状況をあえて作っている。
哀れな眼差しで彼女を見上げる場面にも表れているように、犬が可哀そうであればあるほど、人として見捨てるわけにはいかない。
” 仕方ない。私が面倒をみなきゃ・・ ”
断り切れない自分が楽になるように、やもえない状況を作って、それを理由に面倒事を引き受けようとしているのです。
また、それが ” 犬 ” ならば、男性本人が玄関先に押しかけてくるよりは幾分か気が楽でしょう。
つまり、彼女は夢の中でも罪悪感からその責務を断り切れずにいる。そういった意味で、この夢における怪我をした犬は ” 断らずに済む理由 ” と言うことも出来ます。
押し付けられた面倒事
さて、夢の中で怪我をした犬が玄関先に座り込んでいる原因は、無責任な飼い主が世話を放棄したからということになっています。
現実ならば、許される行為ではありません。( そうでなければならないのですが・・ )
ここで彼女は、少し、手の込んだ演出を行っている。思い出してみてください。
彼女が、現在抱えている問題は、好きでもない相手からの食事の誘いを断り切れないということでした。
もし、犬が男性であるならば、飼い主は誰なのでしょう?
そもそも、犬は人を表しているわけではなく、彼女の求めている ” 断らずに済む理由 ” を具現化した結果。つまり、夢には直接登場していない飼い主も、特定の人物を指しているわけではない。
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彼女は自身の優柔不断さによって、今回の面倒事を招いてしまったことを自覚しています。
だから、必要だった。
問題の責任は自分ではなく、別にあると思える身代わりが。それによって自分に降りかかる責任を払いのけようとしている。
彼女は夢の中で、一旦は、元の飼い主に犬を引き取らせようとも思った。自分の身に降りかかった面倒事を拒むために、引き受けるべき責任者を夢の中で作り出して。
相手が動物を虐げる悪い人間ならば、面倒事を押し付けても罪悪感はありません。
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左脚が無傷の理由
さて、ここで疑問を持ったかもしれません。
先ほどは、彼女が面倒事を受け入れようとしていると説明しました。だが、一方では、面倒事を回避しようともしている。
つまり、この夢は、彼女の中の葛藤を描いているのです。この葛藤は、犬の怪我の状態にも表れている。
怪我を負っているのは右前脚、右後脚の二本。なぜ、左側の足は怪我をしていないのでしょうか?
彼女の中に断りたい気持ちと、断れない気持ちが半々にあるということです。
面倒事を引き受けずに済む余地を残しておくために、右脚のみの怪我に留めている。
ここで、二本脚に怪我を負った状態で実際に歩行できるかどうかを医学的に考える必要はありません。それはイメージでしかなく、彼女の中の気持ちの割合を象徴として描いた結果です。そもそも、犬は存在しません。
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さて、夢の中で、彼女は犬と飼い主という二つの存在に、それぞれ役割を与えている。
断らずに済む理由、そして、断っても自分は悪くないと思える理由。この役割分担は、彼女にとても都合のよい状況を作っています。
自分は出来るだけ犬を助けたい。しかし、本来は返すべき場所に返すのが道理。
この設定ならば、彼女は、たまたま面倒事に巻き込まれた不運な第三者になることが出来る。
つまり、彼女は ” いい人 ” でいたいのです。
なぜ、犬が少年になったのか?
さて、犬が、突然、途中から少年になったという部分。ここには、どんな意味があるのでしょう?
彼女は、夢の中で犬がいつの間にか少年に入れ替わってしまったことを特に気に止めなかったと言います。
最初から、そうだったかのように。夢の中で、犬と少年は、同一の存在として扱われている。
なぜ、途中で変えたのでしょう?
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夢は、それを見ている本人の心の状態を映像化したものです。心は絶えず成長し、変化している。
この夢では、最初、怪我をした哀れな犬が描かれています。そして、彼女の憶測の中で無責任な飼い主が登場する。
その面倒事を引き取るべきか、返してしまうべきか、この時点では彼女はまだ迷っている。
やがて、彼女の心に変化が訪れます。
” やっぱり返してしまおう ”
ここです。この考えが生まれた瞬間に、犬を子供に切り替えたのです。
それは、なぜか?
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それが怪我をした犬ならば、飼い主が見つからずに自分が世話をしなければならない可能性がありますが、小さな子供ならば、そのまま放っておくわけにもいきません。状況によっては警察沙汰にもなりかねない。
潜在意識は、必ず親元に返さなければいけない設定に、切り替えたのです。
犬と入れ替わった少年は、単に泣きじゃくっているだけで、怪我はしていなかったという状況からも、このことが覗えます。
より返しやすい状況、つまり、彼女にとって都合のよい状況に設定を変更した。
この夢は、彼女の心が変化する瞬間を切り取っているのです。葛藤した状態が、やがて一つの考えによって解消されるまでの変化を描いている。
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その後、彼女は、取引先の男性に断りのメールを送った。
選択された演出
さて、今回は夢の中の登場人物が、途中で別のものに変わってしまうという現象について解説しました。
” 犬 ” と ” 少年 ” という全く別の存在を彼女が何の違和感も無く受け入れた理由は、この二つの存在が、結局、彼女を悩ませていた ” 一つの事柄 ” を描いているからです。
外見が違っていたとしても、それは、元々同じものであることを夢の作り手である彼女自身は知っているのです。
故に、設定に疑問を持たなかった。
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ここで一つ、筆者から、言い添えておきたいことは、上に示した解釈は、この夢に限ったものでしかないということです。
人が突然、動物になるとか、動物が物に化ける、家族が別人になるといった夢が全て ” 心の変化 ” を描いているというわけではありません。
無論、もっと違った理由によって、変更を行う可能性もある。それは、夢を作る段階で潜在意識が、どの演出を選択するかによって決まる。
画家がキャンパスの前で筆を選ぶように。
同じ筆を選んだからといって、同じ絵を描くとは限らない。同じ絵だったとしても、それが同じ筆で描かれたとは限らない。
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夢は、それを見る人の内面を描いているわけですから、本人が置かれている状況や、個人的な事情と密接に関係しているのです。
それを無視して、夢の内容だけで、その意味を読み解くことは不可能でしょう。
もし、あなたの夢に登場した人物が、ある場面から別のものに変わってしまったとしたら、その部分のみを注目すべきではありません。
夢の内容もそうですが、自分の日常生活や今抱えていることなど、現実世界での出来事なども、頭の中で一度、整理してみてください。
自分の人生と全く無関係の夢を、潜在意識が作ることは無いのです。
夢は、必ず、あなたの体験する現実とリンクしている。夢は現実の延長線上に作られる。
だから、それを読み解く鍵も、あなたの体験した、もしくは、これから体験する予定の ” 現実 ” にあるのです。
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