自宅や会社、近隣の住居が燃えるといった ” 火事 ” に関する夢。
検索すれば火事に関する夢の解釈は、すぐに見つかるでしょう。一般的な夢占いでは、火事の夢は燃えれば燃えるほど吉兆だとされている。
多分、あなたがこのブログに来たということは、提示された答えに、どこか物足りなさを感じたからなのでしょう。
実際、夢は大抵の場合、ストーリーとして描かれ、様々なシチュエーション、複雑な設定によって解釈が困難であることがほとんどです。
ここでは、少し違ったアプローチで ” 火事 ” に関する夢を見ていきましょう。
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夢と ” 個人的背景 “
火事の夢に限らず、全ての夢に言えることですが、それらを読み解くためには、ストーリー全体と夢を見た人の置かれた状況をリサーチする必要があります。
例えば、あなたが火事の夢を見る場合と、料理人が火事の夢を見る場合は、夢の中の ” 炎 ” の意味は違ってきます。
料理人にとっては ” 炎 ” は仕事に深く関わるものですから、その夢が仕事に関する事柄を描いていると解釈することも出来る。
通常、夢占いでは炎がどういった状況だったか、何が燃えているのかという映像を中心に分析するわけですが、夢を見た人の個人的背景まではフォローしていません。
夢は、その ” 個人的背景 ” を軸に作られる。
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自分は料理人ではないから、という限定的な話をしているわけではありません。どんな夢であれ、その人が持つ特有の背景が夢に反映している。
あなたと全く同じ年齢、性別、職業、同じ性格の人がいたとしても、これまで生きてきた人生の ” 背景 ” は違っている。ならば、夢に現れた ” 炎 ” の意味も必然的に・・
そして、夢の中に見たその炎は、物語の一部に過ぎません。潜在意識はあなたに ” 物語 ” を見せたいのです。
炎を見せたいわけではない。
燃える家
次は、とある二十代女性が見た夢の一例。
帰宅途中、遠くで黒い煙が上がっているのが見える。
自宅近くまで来ると人だかりが出来ている。
野次馬が邪魔で家の状態を確認しようにも近づくことが出来ない。
誰かが ” 逃げ遅れて、まだ中にいるらしい ” と話しているのが聞こえた。
どうにか人をかき分け最前列に出ると、赤々とした炎が家を包んでいる。
彼女は、自分の家が燃えている衝撃の光景を見て、目が覚めたと言います。それから、怖くて、しばらく布団の中で震えていた。
この夢がリアル過ぎて、もしかしたら、本当に家が火事になる予知ではないかと、心配になり、筆者に鑑定を依頼したということでした。
筆者は、夢解釈する上で、先ほど説明した ” 個人的背景 ” の他にもう一つ、” 感覚 ” についても重要だと考えています。つまり、夢の中で何を感じたのか、という感情的な部分です。
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「家が炎に包み込まれていたのを目撃した時、どんな気持ちでしたか?」
筆者の質問に、彼女は次のように答えます。
「あの時、感じたのは・・燃えていく家を見て、凄く怖かったです」
「家族が逃げ遅れたということが怖かった、ということですか?」
筆者は、人だかりの中で ” 逃げ遅れた人がいる ” という声を聞いたという夢の内容から、自宅に家族が取り残されていたという設定だと思いました。
しかし、彼女は次のように答えます。
「いえ、私は、元々、一人暮らしなので自宅には誰もいないという認識でした」
「つまり、あなたは現在、一軒家に一人暮らしで住んでいるということですか?」
「はい、そうです」
このとき筆者は、なぜ、彼女の潜在意識は、誰もいないはずの一軒家に逃げ遅れた人がいるという設定を組み込んだのかが分かりませんでした。
一体、逃げ遅れた人物とは、誰なのか?
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経緯
筆者は、質問を続けます。
「今はご自宅に一人ということですが、以前は、同居人はいましたか?」
「はい。母は、私が中学の時に離婚して家を出ました。父は仕事の都合で現在海外にいます。帰ってくるのは年に一度です」
「つまり、家は、お父様の持ち家ということですね?」
「そうです」
「話は戻りますが、怖かったというのは、激しい火災を前にして、自分の身に危険を感じたということですか? 」
筆者の質問に、彼女は言葉を選んでいるようでした。
「家との距離は十分ありました。危険を感じたというより、家が燃え尽きてしまうことを恐れていたような気がします・・」
「住む場所を失うことが怖かった?」
「そうですね・・あの感情は・・
凄く、悲しかったです」
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筆者は、ここまできて、この夢は家族に関する何らかの問題が描かれているのではないかと思いました。彼女の中に ” 闇 ” があるように感じたのです。
「お父さんは、あなたから見てどういった方ですか?」
彼女は、次のように答えます。
「父は、いつも大事な時にいない人です。仕事で遠くに行ってしまって、ほとんど家にいないんです。それで母は精神的にまいってしまって、今思えば、離婚の原因も、そういうことだったと思います」
「お母さんとは、今でも、お会いになりますか?」
「以前は、月に一度は会いに来ましたが、私が社会人になってからは、母も再婚して新しい家族がいますので・・ なかなか、会う機会が作れないんです」
こうして、彼女の現在の境遇を聞いて、潜在意識がこの夢で何を伝えようとしているのか、何となく見えてきたのです。
筆者は、最後に次の質問をしました。
「日常の中で、孤独を感じることはありますか?」
彼女は、答えました。
「いつもです」
彼女の思い
大きな家に一人住み、経済的には不自由のない生活を送っている。しかし、彼女の心の中には、ぽっかりと穴が開いたままなのです。
彼女は言いました。
「最近、仕事の方でちょっとゴタゴタがありまして、相談出来る人もいないし・・自分では一人であることに慣れていると思っていたんです」
「仕事で何か問題があったのですか?」
「人間関係です。私があまり社交的じゃないというのが原因かもしれません。今の仕事を続けていけるとは思えなくて・・もしかしたら辞めるかもしれません」
仕事であったトラブルについての詳細は伏せておきたいということでした。
*
この夢は、彼女の心の叫びを描いています。
家が炎に包まれている。
火をつけたのは彼女自身です。
父の持ち家を燃やして、遠くに行ってしまった父を呼び戻そうとしている。父に対する ” 反抗心 ” の表れでもある。
遠方からでも確認出来るように黒い煙を上げて家は燃え続ける。
彼女が恐れているのは、家が燃え尽きるまでに父が戻ってこないことです。
そして、家の状態は彼女自身の心を表している。
燃え盛る炎は彼女の危険な衝動を表し、それによって自身を灰にしてしまうかもしれないという危機感が彼女を怖がらせる。
” 私が灰になってしまう前に、
お父さん助けに来て! ”
この夢は、追い詰められた娘から父に発せられた ” SOS ” なのです。
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ストーリー細部の意味
さて、それ以外の場面には、どういった意味があるのでしょう?
彼女は、近くに行き、家の状況を確認しようとするが人だかりに阻まれる。
夢の作り手は彼女自身ですから、そこに人だかりを配置したのも彼女による演出です。つまり、人だかりによって家に近づけないのではなく、彼女が人だかりを理由にして近づくことを拒んでいる。
なぜでしょう?
一人でいることに彼女は慣れようとした。孤独である自身の状況を客観的な視点で受け止めようとしています。
燃える家が孤独に苦しむ自身ならば、火事の現場を外側から目撃するのは、それを冷静に見ているもう一人の自分。
彼女は、自暴自棄になりその身を破滅に向かわせるかもしれない自身の衝動から距離を置くために人だかりを配置した。
” これ以上近づいてはいけない! ”
しかし、最終的には人だかりをかき分け、火事の現場に近づいていく。
それは、結局、自身の心で起こっていることです。彼女の中の冷静さが失われ、客観的視点を捨てた瞬間です。
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では、人だかりの中で聞いた ” 逃げ遅れて、まだ中にいるらしい・・ ” という声については、どういった意味があるのでしょう?
燃える自宅から逃げ遅れたのは、
” 人 ” ではありません。
解決しなければならないが、ずっと放置されたままだった彼女の中の ” 孤独という問題意識 ” が、 家に取り残されているのです。彼女は、それを見過ごし続けることが出来なかった。
それを解決するために、自宅に戻ってきたのです。
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さて、この夢には彼女を取り巻く複雑な家庭環境、職場での出来事、それに対する彼女の心の状態が火事の現場という形で描かれています。
それは、彼女がこれまで送ってきた人生を映し出している。ずっと孤独を抱えながら生きてきた。
彼女は、セッションの最後に言いました。
「実は、夢を見る前に、布団に入って暗い部屋の天井を見ていると、急に涙が出てきて、自分でも、なぜ泣いているのか分かりませんでした。
今は、分かる気がします・・ 」
人の心
夢は潜在意識によって作られる。それは、その人の最も奥深くから生まれるのです。
ゆえに、人の心を理解しなければ、夢が伝えているメッセージを理解することは出来ない。
” 人の心 ”
それは、統計学や科学とは別次元の世界です。私たちは合理的に物事を判断し、解決しようとする。それが効率的だから。
キーワードを入力し、簡単に欲しかった情報を手に入れることが出来る世界。あらゆることがデータベース化された世界。
しかし、そのためにリアルな物語に目を向けるという視点を失ってしまうのです。
今回、紹介した夢の意味は、あなたの見た夢とは何の関係もありません。これは、唯一、彼女にしか当てはまらない。
つまり、あなたの見た夢の意味も同じく、あなたにしか当てはまらない唯一の ” 答え ” が存在する。
あなたには、あなただけの物語がある。夢は、あなたが紡ぎ続ける物語の一部を映しているだけです。
潜在意識が何を伝えようとしているのか、それを見つけてください。
そこには、リアルなメッセージが必ず託されているはず。
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