夢の中に幽霊や悪魔が登場し、襲い掛かってくるといった恐ろしいシチュエーションの夢。
目覚めてからも、幽霊の顔をはっきりと覚えているというケースもあります。
それがリアルであるほど、そして、衝撃的であるほど夢の中の恐怖体験が、何か不吉な出来事の予兆ではないかと心配になったりする。
こうした悪夢は、よく金縛りの時に見る夢として語られ、霊的な力が働いた結果として夢が作られたという解釈をする人もいます。
では、実際、夢の中の幽霊は、どう解釈すべきなのでしょう?
その悪夢は、本当に霊的存在の仕業なのでしょうか?
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背後に立つ幽霊
次は、とある女性が見た夢の一例です。
どこかの病院らしき建物。
廊下に立っている。
子供たちの悲鳴が聞こえたが、すぐに静まりかえる。
奥の部屋で何か異常事態が起こっているようだ。
” 何か来る ” と思った瞬間、背後に女性の幽霊が現れる。
私は、怖くて振り向けない。
この夢を見た女性は、背後から幽霊に自分の右手首をつかまれた瞬間、飛び起きたと言います。
彼女は目覚めてから、すぐに右手首を確認したが、捕まれた跡は無かった。
*
この夢の注目すべき点は、二つあります。
まず、奥の部屋から感じた ” 異常事態が起こっている ” という感覚。そして、幽霊が登場する直前に感じた ” 何か来る ” という感覚。
夢の中で彼女は部屋をのぞいてもいないのに、異常な空気を察知します。
なぜ、それを察知できたのでしょう?
子供たちの悲鳴を聞いたからでしょうか? ここは、とても重要なポイントです。筆者は、彼女に次の質問をしました。
「異常な空気を感じたのは、子供たちの悲鳴を聞いた後ですか?」
彼女は、悲鳴が聞こえる前から、すでに建物全体の空気がおかしかったと答えます。
「最初から、これは悪い夢だという認識がありました」
彼女は言います。
つまり、子供たちの悲鳴は、彼女が最初から感じていた陰鬱な空気に後付けされた演出です。
霊気の発生源
子供たちの悲鳴は、この夢において、一つの役割を与えられています。それは、異常な空気の発生源を特定することです。
その悲鳴は、奥の部屋の中から聞こえた。
厳密に言うと、潜在意識は発生源を探し当てたのではなく、発生源を ” 奥の部屋 ” に決めたのです。
つまり、夢の中に発生源など最初から無い。なぜなら、夢を見ながら眠っている彼女自身が発生源だから。
では、潜在意識が、おかしな空気の発生源を ” 奥の部屋から ” という狭い範囲に限定する理由は何でしょう?
それは、対処しやすくするためです。
要するに、ある部屋から、おかしな空気が出ているのであれば、その部屋に近づかなければよいのです。
そこを避けることが出来れば、彼女の感じた ” 異常なこと ” から、少なくとも逃れられる。
しかし、この演出は、あくまで夢の中に作り上げた ” 誤魔化し ” でしかない。故に、彼女が感じている現実の感覚を完全に打ち消すことが出来ない。
彼女は夢の中で、異常な空気から逃れることが出来ず、やがて、その空気は ” 幽霊 ” という形で視覚化されることになります。
つまり、彼女が夢の中で感じた ” 異常な空気 ” は、夢を見て感じたものではなく、最初から、彼女の心の中に存在し、それを元にして、この夢は後から作られた。
その理由は、子供の悲鳴が後付けされたのと同じく、彼女の抱えている心の問題を夢という形で視覚化することで対処しやすくするためです。
*
この状態を分かりやすく例えるならば、次のようなことでしょうか。
あなたが何かの事情で外出が出来ない時、その状態が長期間続くと精神的ストレスが溜まってしまうでしょう。
そこであなたは知恵を絞る。
家から外に出ることは出来ないが、映画を見たり、旅番組を見たり、ゲームをしたり、気分を変えようと部屋の模様替えをしたり、家に居ながら別世界へ疑似的に外出するのです。
しかし、ストレスの原因は、外出出来ない状況が続いているということですよね?
無論、そういった方法では、根本原因の解決にはならない。潜在意識も全く同じ対処を行います。
自身を苦しめるストレスや悩みといったものから解放されるために、潜在意識は、心を二つに分割するのです。
一つは、あなた自身が住む世界、そして、もう一つは外側の世界ということにして、夢の中で外側の世界に悩みの原因を置き、自分は安全な場所でやり過ごそうとする。
しかし、結局は、一つの心の中を二つの領域に区切っているに過ぎないので、全てはあなたの中に存在するのです。
幽霊が登場すると言った場合も同じです。
” 幽霊 ” は夢の中では、あなたの外側に存在するものという設定になっていますが、実際は、元々あなたの心の中に存在する何らかの感情です。
そして、その感情から逃れることは出来ない。
終わらない鬼ごっこ
” 何か来る ” と思った直後に、彼女は、幽霊が自分のすぐ後ろに立っている気配を感じ取る。
彼女が体験した ” 霊感 ” のようにも思えるこの感覚は、夢の中で第六感が研ぎ澄まされた結果・・ではありません。
そもそも、幽霊を自分の背後に出現させたのは、彼女自身の演出。
自ら演出したものですから、無論、後ろを振り向かなくても背後に何がいるのかが分かる。
忘れてならないのは、この夢の作り手は彼女自身ということ。つまり、彼女は、この短編ホラー映画の総合演出であり、映画監督なのです。
ここで、こんな疑問を持つ人もいるかもしれません。
” 自分を恐怖に陥れる演出を自らするわけがない ”
しかし、実際は誰もが悪夢を見る。それは、心に抱えるものを処理するためには、やも得ない措置なのです。
自ら作った仮想世界で主人公が苦しんだとしても、それは、治療のために医師が注射針を腕に刺すときの ” 痛み ” のようなものです。
*
さて、彼女は、自らが抱える心の問題を ” 幽霊 ” という存在に置き換えて視覚化しています。ある意味、彼女は自分の抱える問題と向き合おうともしている。
このように夢の中で心に抱えた不安や苦悩が、幽霊や怪物、悪魔という形で、しばしば表現されることがあります。
それは、形無き不安や苦悩に形を与えることで、物理的な対処が可能になるからです。
幽霊や怪物という目に見える存在ならば、なるべく遠くに逃げたり、戦って倒したりすれば、夢の中では、一応は問題解決したことになり、一時的な安心感を得られる。
ただ、それは疑似的な解決であり、錯覚でしかありません。
例えば、幽霊など、得体の知れない存在に、どこまでも追いかけられるという夢。
それは、どこに隠れても、あなたの居場所を突き止め、やってくる。
これも、結局は、不安の発生源があなた自身の心であり、幽霊という外部要因ではないからです。
あなたの抱える現実の問題を、夢の中の疑似的方法で処理しきれずに、延々と逃走劇を続けるしかない状態。
例えるなら、睡眠不足をコーヒーを飲み続けて解決しようとしている状態と同じです。一時的には効果があっても、それは根本原因ではないため、終わることがない。
小さな声
さて、ここまで解説しましたが、そもそも彼女が抱えている心の問題とは、一体、何だったのでしょう?
筆者は、それについて尋ねてみましたが、彼女は ” 答えたくない ” と言って、それ以上のことを語ってはくれませんでした。ただ、母との関係で、とある問題を抱えていると。
最後に彼女は、次のように言いました。
” 幽霊は、母親の影だったのかもしれない ”
その言葉の意味は筆者には分かりませんでしたが、彼女の心に重くのしかかったそれが、今回の夢を作ったのでしょう。
*
人は日々夢を見ます。その中には、誰にも打ち明けることが出来ない個人的な悩みが描かれる。誰にも言えないからこそ夢になる、と言うことも出来ます。
特に悩みが深刻であれば、今回のように強烈な恐怖を感じる夢を作る可能性もある。
もし、あなたが恐怖で飛び起きるような悪夢を見たならば、まず、自身のメンタルについて、一度、冷静に考えてみる時期なのかもしれません。
人は、目覚めて日中活動している時は、案外、日常の忙しさから、自分の心のバランスについて注意を払わなかったりするものです。
” 大丈夫、これぐらいのことはよくある・・ ”
と受け流し、心の叫びと向き合うことを避けるのです。
ただ、それが決して悪い行いだとは思いません。現実、前に進むには、そうしなければいけない時もある。
しかし、心の声に気づかないままでいると、いつの間にか、前に進めなくなってしまうこともあるのです。
もし、あなたの中のメッセンジャーが、服の裾を引っ張って泣き続けているなら、たまには、話を聞いてあげてください。
それが小さな声であっても、あなたには必要なメッセージなのです。
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